第127話

 途中でネネさんと合流してからテレポートで我が家に帰ってきてからすぐに俺は婚約者ができたことを香織に報告した。


 前世の記憶があるから、ちょっとビクビクしていたけど、香織はちょっと驚いていただけで、すぐに「ミルさん、ネネ、タケトくん、おめでとう」と俺たちの婚約を祝福してくれた。


「シワになるから先にちょっと着替えてくるよ」


 スーツを着慣れてないから早く脱ぎたいっていうのが本音だ。俺が自分の部屋に向かえばミルさんが普通についてきていつものように世話を焼いてくれる。いいのかな……と思っていると、


「香織奥様には断りを入れてます、それにお二人は積もる話もあるようですので……」


「そっか……」


 香織とネネさんは学生の頃からの友人って言ってたもんな……そういえば、ミルさんもキチンとした姿をネネさんに見せるのかな……あれ? ミルさんいつの間に着替えてきたの? それにメガネも……


「タケト様が先ほどお手洗いに寄っている間です。メガネはタケト様の前では外すことにしました」


 もちろん、お客様にお会いする時や外出時は今まで通りですよ、と言葉を続けるミルさん。それがいいよ。ミルさんのオッドアイはキレイだもん。


「あ、ありがとうございます」


 珍しく頬を紅潮させるミルさんは可愛かった。けど、ミルさん近いですよ。近すぎてスーツが脱げません。



 ————

 ——


 《三人称》


「そうじゃないかなぁと思っていたのよ」


 タケトとミルがリビングから出てから香織とネネはソファーに腰掛けた。気のおけない関係の2人はいつもの調子で話し出す。


「あれ? ひょっとしてかおりんは気づいていた感じ?」


 リビングから出て行く前にミルが淹れてくれたお茶を啜りながらネネは答える。気のおけない関係でも小恥ずかしいものは小恥ずかしい。

 香織の視線から逃れるためにネネは手元のお茶に視線を向けているのだ。


「そりゃあ分かるわよ。だって私たち、学生の頃からの付き合よ。あれだけ毛嫌いしていた男性なのに、タケトくんに向けていた目は全然違ってたから……」


「そ、そうなの、おかしいわね……」


「気づいてなかったの? まあ、初めの頃はそうでもなかったのよ。でも最近のネネはちらちらとタケトくんのことを目で追っていたのよ」


「え、嘘!? 私ってそんな感じになってたの」


「なってたわよ」


「じゃ、じゃあタケトっちにはバレバレだったってこと? それだとお姉さんとしての威厳が……」


「威厳ね〜。まあ、そこは安心していいかな。タケトくんってかなり鈍感なんだもの、自分の気持ちだと余計に」


「あ〜、たしかにタケトっちは鈍感だったわね……ふふ、でもタケトっちらしいわね」


「そうね。でも異性を好きになるってホント不思議よね。人のことだと分かるのに、当事者(自分の事)になると途端に分からなくなるんだもの。って、何にやにやしているのよ。まあ気持ちは分かるけど(婚約してうれしい)、私だって、あの時ネネがタケトくんの背中を押してくれていなかったら私との結婚は未だに成立していなかったかもしれないものね。だから、これでも感謝しているのよ」


 妊娠している腹部に手を当て香織は幸せそうな笑みを浮かべる。


「忙しくなるわね。そういえば花音ちゃんだっけ? タケトくんのこと紹介するの?」


 花音とは2歳になるネネの1人娘のことだ。『子生の採り』を利用して子ども授かっていた場合、それを理由に受け入れない男性は多いため、あえて紹介しない女性も多い。


「今度改めてうちの両親と挨拶にくるけど、その時一緒に」


「そっか……」


 香織からすれば他家のことになるので、首を突っ込むことはできないのだが、学生の頃から仲のよかった友人が、そのことで悩んでいるのではないかと少し心配になったのだ。


「タケトっち、花音に会うの楽しみって言ってくれた」


「うん……」


「パパって呼ばせてもいいんだってさ」


「うんうん……」


 それを聞いた香織は改めてそんなタケトのことが好きだなぁと再認識した。


「……タケトっちはやっぱり優しいよね」


「……そうよ。他にもいいところがいっぱいあるんだから」


 ————

 ——


「ごめんごめん、待ったかな?」


「ううん、大丈夫よ」


 それからの俺は彼女たちの話を聞くだけに徹した。というのも……


「2人には私がこんなだから、タケトくんの夜の相手を……」


 恥ずかしい。とても恥ずかしいです。夜の営みについて話し出した彼女たち。

 そうしたらミルさんは夜のことを知っている感じだし、ネネさんも興味津々で食い入るように聞いてる。

 いつから誰が、なんて話をしているし、香織も安定期に入ればまた……なんて話も……


「む、無理なら……」


「タケトくんは心配しないで」


 申し訳なくて口を挟めば全力で否定されてしまった。もうしばらく話し合う必要があるらしいので、俺はテレビでも見ていようかな。


 彼女たちからそっちでゆっくりしていてと言われてもやることがなかったのだ。


「お」


 テレビをつけるとお見合いパーティーのことがもうニュースで流れていた。


『今年のお見合いパーティの婚約成立は例年の1.5倍、過去最高の成約数となりました。いや、これは素晴らしいですね。私も仕事がなければ……こほん。失礼しました』


 ——へぇ……


 しかも、これが1会場中止になっての数みたいだから、今年は特にすごいらしい。


 ちなみにその中止となった会場は沢風くんが参加した会場とのこと。


 沢風くんモテるからな……


 沢風くんが参加した会場は大騒ぎになったそうだ。なんでも同じ会場に参加していた女性がみんな沢風くんの周りに集まり、他の男性はお見合いどころの話ではなかったのだとか。


 男性は元々乗り気ではないからね。怒って帰ったというがこれ幸いと思い帰ったに違いない。それでその会場のお見合いパーティは中止に。


 ——あ、俺のことも言ってる……うわ、特殊メイク前とメイク後の姿まで流さないで……


 ニュースキャスターが俺を変装させて参加させていた市長の英断を誉めてニュースは終わった。


 ピロン♪


 ん?


 それからすぐにクラスのグループMAINとバンドグループMAINに『ニュース見たよ』というメッセージが届いた。なんかニュースで流れた特殊メイク前とメイク後の動画まで付いてきた。正直消したい。でもダメらしい。みんなが反対する。


 それからは特殊メイクのことについて軽く話して最後に、明日、学校でね、と約束してMAINを終えたが、


 ——新曲か……


 なんとつくねたちは休みの間に新曲を作ったらしく、明日聴かせてもらえることになった。詳しくは明日ということらしいが、誰の曲かな、とても楽しみだ。

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