第117話
「えー、それでは早速トークの方に移りたい所ですが、どうやらみなさん緊張されているようですので、ここは軽くゲームをしてその緊張をほぐしてからにしたいと思います……」
「はあ……マジかよ」
「くそダリ〜んだけど」
「面倒くせ〜」
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・
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そんな声がちらほら男性陣からすぐに上がる。予想通りの反応だけど思ったよりもその声は少ない。
——もしかして、あれか……?
お見合いパーティー参加の案内文書に、参加についての留意事項がいくつかあった。
その中の一つに、お見合いパーティーに非協力的だと判断された場合、しかるべき処置をとる旨のことが書かれていた。
男性に対して最も効果的な処置として、すぐに思い浮かぶのは、男性手当のカット……
男性手当をストップされれば他に収入がない男性にとってら効果的面だからね。
案内文書には詳しく明記されていなかったけど、この会場には初めてお見合いパーティーに参加する男性よりも一度は参加したことがある(年上)男性の方が多いから。
そんな男性たちが揃って司会者の話に耳を傾けているんだからそういうことだろう。いや、それ以上に重い処罰があってもおかしくないのかも……
まあキチンとした態度で真面目に参加していれば何も問題ない話なんだけどね。
「えーそれでは早速そのゲームに移りたいと思いますが……男性の皆さま! では、その場に立っていただけますでょうか?」
——へぇ? 男性なんだ。
男に向かって指示があるとは思っていなかったけど、ただ立つだけだ。考えるまでもなく俺は司会者の声を聞きすぐに立ち上がった。
すぐに立ち上がった俺は一番だった。当然、女性からは注目されたが、1人俺が立ち上がれば後は早い……なんてことはないんだね。これが。
10人くらいはすぐに立ち上がっていたが、後はノロノロ。3分くらい経っても立ち上がらない男性もいる。
1人は隣、ネネさんがいるテーブルの男性。ちなみにその男性は寝間着っぽい姿の男性でぐしゃぐしゃの頭に、眉毛は一度も剃ったことなさそうで、うすく繋がっており髭も剃った形跡のないおデブな青年。
その青年はにやにやしていて、すぐに立ち上がった俺に対してバカにしたような視線を向けている。
まあ面と向かって相手をする必要はないので、すぐに司会者の方を見るんだけど……
「えー、男性の皆さま、立っていただきましたね。それで次に私がスタートの合図をしましたら、そのまま同じテーブルに座る女性全員に握手をして回り最後に自分の席に着席してゴールとなります。
これにはなんと、先着20名の男性とそのテーブルに座る女性全員に景品をご準備していますので是非頑張ってくださいね」
まだ立ち上がってもいない男性が数人いたが、構わず進めていく司会者。
その内容は、男性が同じテーブルに座る女性に握手して回るだけのゲーム……
まあ緊張をとるための簡単なゲームって言っていたし、お見合いパーティーだとこんな感じでもいいんだろうね。お近づきになるきっかけができればいいんだから。
ただ残念ながら、ネネさんが座っている隣のテーブルは青年が座ったまま立ち上がる素振りすら見られないので、ゲームは無理そう。
ネネさんもそれが分かっているのか諦めた様子。でも暇だからといって俺の方をずっと見られると非常にやりづらいんだよね。知り合いだけに。まあ、握手はするんだけど……
「えー、それでは男性の皆さん! 準備はいいですか? 行きますよ。よーい……スタートです!」
BGMが運動会で流れるような曲に変わると俺のテンションも上がる。
よーし。どっちから……
——お? 今目が合ったのは、大高さんね。じゃあ右回りでいこうかな。
「こんにちは。俺、岡田健人です。えっと大高望さんと言うんですね。今日はよろしくお願いします」
女性の胸元には名前と番号の入った名札が付いていたので、その名札を見て名前を確認してから右手を差し出す。
「は、ははい。わ私は大高望でしゅ。よ、ろしくお願いしましゅ」
俺に興味がなさそう且つ冷たそうな印象の大高さんだったが、俺が右手を差し出して握手を求めると慌てた様子で答えてくれたが盛大に噛んでいた大高さん。
男性慣れしていないのか涙目になりながらも自分のハンカチで両手をゴシゴシと拭きとり両手で握手してきた。
次は、ん? あれ?
なかなか俺の右手を離そうとしない大高さん。次に行きますね、と断るとハッとした様子で顔を真っ赤にしてササッと両手を離してくれた。
「こんにちは。俺、岡田健人です。内木暗さん、今日はよろしくお願いします」
「私は内木暗。よろしく」
前髪が長くて目元が見えないから華やかな衣装を着ていても少し暗い印象を受ける内木さん。
ボソボソと話していて彼女の言葉は聞き取りづらいが、俺が右手を差し出すとすぐにガッチリと両手で掴まれた。
あれ?
内木さんも俺の手をすぐには離してくれなかったので、次に行きますと断るとしぶしぶといった様子で両手を離してくれた。
「こんにちは。岡田健人です。太井富子さん、今日はよろしくお願いします」
「はい、私は太井富子です。岡田さん、こちらこそよろしくお願いしますね〜」
太井富子さんは変身したミルさんと同じくらいふくよかな女性だった。
おっとりとした口調でお胸もすごい太井さん。でも身につけているアクセサリーがどれも高価なもののように見えた。ゴテゴテとしたものじゃなく上品な感じの。たぶんお金持ちかな。
ん?
なんでだろうね。ここでも右手を差し出すと両手で掴まれなかなか離してもらえない。次に行きます、と声をかけてからやっと離してもらうというやり取りをした。
「こんにちは。岡田健人です。尾宅可奈(おたくかな)さんですね。今日はよろしくお願いします」
「ふふ。尾宅可奈でふ。よろしくでふ」
前髪ぱっつんでメガネをかけた女性。細身でスタイルがすごく良いのに口調があやしい尾宅さんは20歳だった。
右手を差し出せば両手で俺の手を素早く掴んだが、次の瞬間にはトマトみたいに真っ赤に染まっていた。っていうか鼻血出てますよ。
それなのにこれまたお約束のように俺の右手を離してくれない尾宅さんにやんわりと断りを入れてから離れた。
その次も、またその次も……同じようなやり取りを何度も繰り返してようやく着席すれば、俺たちは18位で見事に景品をゲットした。
みんなと喜びを分かち合えば、同じテーブルのみんなから視線をチラチラと感じるようになっている。握手をしたからだろう、こちらに対する距離感も少し近くなった気がする
なるほど。
それは俺たちのテーブルだけではなかった。俺たちと同じように景品を受け取ったテーブル席の男女もそうだし、もう少しで景品をゲットできそうだったテーブル席の男女も会話が増えていて少しいい感じにみえた。
運営側もなかなか考えていると感心した。
だから余計にゲームに参加すらできていないネネさんたちのテーブル席の雰囲気は悪く思えた……ネネさん片肘ついててつまらなさそう。
あ、ネネさんと目が合ったので景品を見せて自慢しておこうかな。ん? 口をパクパクして、なになに……あ? と? で? い? く? ね♡(♡はウィンクです)? ……後で行くね♡? え? やばい。ネネさんがあとでこっちに来るらしい。しかもウィンクまでしてたし、絶対何か企んでいるよ。調子に乗りすぎたかも、やめとけばよかった。
ちなみにこのゲームの景品は地元でも美味しいと有名なケーキショップ天井の商品券3,000円分でした。
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