第118話
「えー、それでは皆さま、緊張もほぐれてきたようですのでトークタイムに移りたいと思います。
えー、トークタイムのお時間は60分を予定してますが、こちらは女性側からの一問一答形式にて進めていただきたいと思います。一度質問をした女性は後ろに並び直すか他の気になる男性に行かれても構いません……
また、その質問の際は、必ず男性と握手をしてからにしてくださいね。男性が質問したい場合は女性の質問に答えてからになりますが、同じように握手をしてからご質問お願いしたします。
えー、ここまでで何か気にる点やご質問はございませんか?」
司会者がそう尋ねてから会場内をゆっくりと見渡す。すると、
『はい!』
「はい!」
「はいっ」
すぐに複数の女性が手を挙げ、司会者がその中から1人の女性を指名した。指名された女性はすっくと立ち上がると、
「男性が握手してくれなかった場合はどうなるのでしょうか?」
ハキハキとモノを言う凛とした感じの女性だった。
「男性はできるだけ女性からの握手に応じてほしいのですが、強制ではありませんので、その様な場合もあるでしょう。そのような場合はそのまま質問をしていただいても構いませんし、別の男性に行かれても構いません」
「ありがとうございます」
司会者の回答に満足したのかその女性はお礼を伝えるとすぐに着席した。
うーん。強制じゃないのか。でもお見合いパーティーに参加しているし握手を求められて応えないというのは失礼だよな……
その後も、トークタイムが始まったらすぐに移動していいのか、トークタイム中は座ってはいけないのか、などの質問が出て……トークタイムが始まれば移動や起居は自由。飲み物も周りのスタッフに声をかけて自由に飲んでいいことが分かった。
「……では質問もないようですので、皆さまお待たせいたしました。それでは……トークタイム、スタートです!」
開始の合図と同時にゆったりとしたBGMが流れると、揃って女性たちは立ち上がり、一斉に男性の元に歩みを進める。
「あ、あの……」
「ん? あ、すみません」
俺も同じテーブルの一番近い位置に座っていた大高さんから声をかけられてすぐに立ち上がる。
——!?
正直なところ、お世辞にも他の男性よりも見た目がよいとは言えない、いや、かなり悪いと言っても過言ではない俺の特殊メイクスタイル。
トークタイムでは自由に移動してもいいらしいから、来てくれてもネネさんくらいかも、なんてちょっとだけ考えていた。
それなのに同じテーブルの女性が一斉に立ち上がり移動し始めたかと思えば俺の前に並んでいくのだ……
これは先ほどの緊張をほぐすためにやった握手ゲームの効果だろうが、ちょっと効きすぎじゃないかと逆に心配になる。いや、それだけ男性慣れしていない女性が多かったということかも。異性と握手ってなかなかする機会なんてなかっただろうし……
「そ、その……」
握手ゲームをするまでは俺には見向きもしていなかった大高さんが顔を真っ赤にしながら右手を差し出してくるのですぐに失礼がないように両手で握手する。
「っ……」
声にならない声を上げ、さらに顔を赤くする大高さん。すぐに俯いてしまったがかなり真っ赤。そんな大高さんは俯いたまま口を開いた。
「お、岡田くんは年上の女性は、す、すきで……」
その声は蚊の鳴くような声だった。見た目は気が強そうなのに。耳を傾けてどうにか拾えるレベルの小声。それでも最後の方は聞き取れなかったけど……たぶん年上の女性は好きかって聞いているんだろう。
「そうですね……俺は好きになれば年齢とか関係なく好きになりますけど、でも、好きか嫌いかでいえば好きなんだと思います。うん。好きかな……」
香織を思い浮かべてそう答える。でも実際のところ香織は年上だけど年齢とか気にしていなかった。
それにこの世界は念力という不思議パワーがあるからみんな年齢の割に(前世基準)若い。目の前の大高さんも31歳らしいけど、20代前半の見た目なんだよね。
俺は気づいていなかったが、この会場にいる女性は全て年上である。ちなみに同世代男性の一般的な回答は「知らない」「興味ない」「どうでもいい」が多く、好きと答える男性はいない。
「そ、そうなんですか! 岡田くんは年上が好きなんですね! そっか年上が好きなんですか、あ、あありがとうございます!」
ええ……そ、そこまで大きな声で言わなくても。さっきまで小声で話していたよね? うわっ、他の男性に並んでいる女性までこっちを向いているよ。
そんな大高さんはとても嬉しそうな表情を浮かべてから頭を下げると次の男性の列に……あれ? 俺の列に再び並んだよ。っていうか俺の前に並んでいる女性の列が長くなっているけど……
ん?
思ってもいなかった予想外の光景に驚いていると俺の肩をポンポンとしてくるのはミルさん。飲み物? まだ大丈夫かな。喉が乾いたらすぐに言って? ありがとうございますミルさん。状況を知るミルさんからすれば、俺は着ぐるみを着ているような見た目だから心配してくれたのだろう。でも、これは、かなり太くなってるけど不思議と熱くないんだよね。
「岡田くん……?」
いけない。つい物思いに耽ってしまってた。次に並んでいたのは内木さんだった。内木さんは前髪が長くて目元が見えないから表情が読みづらい。
だから、握手を交わしたが何を聞かれるか心配になり少し身構えてしまう。
「岡田くんは好きな食べ物はありますか?」
なんてことない。あまりにも普通の質問にちょっと拍子抜け。すぐに頭を切り替えてパッと思いついたのはカレーライスだった。まあいっか。
「カレーライスかな……」
「そう、なんだ。ありがとう」
あまり嬉しそうには見えなかった内木さんだったが、内木さんもなぜか俺の列に再び並んでいた。
順番に女性からの質問に答え続けて11人目の女性は、
「タケトっち!」
「うわっ! ね、ネネさん」
ネネさんだった。しかもネネさんは握手ではなく抱きついてきた。
ネネさん曰くハグなんだって。挨拶だよと念を押してくるネネさん。ハグならすぐに離れなさい。
「おおタケトっち。すごいよこれ。全然違和感ないんだね」
ハグのまま、俺のお腹あたりをぐにぐと触ったり俺の顔をまじまじと見てくるネネさん。一応小声で話してくれるが周りにバレそうな気がしてヒヤヒヤする。
「ネネさん、みんな見てるから。早く離れてから質問しようか?」
「あ、そうだったわね。じゃあ……。……あはは、何も考えてなかったわね」
「はあ、ネネさんらしいといえばらしいんだけど……」
「むぅ、今なんかタケトっちに小馬鹿にされた気がするわね……あ、ふふ、じゃあ質問するわね。タケトっちは私のこと好きですか?」
「ぶっ、な、なんですか、その質問」
「何って質問は質問よ。さあ早く答えてくれる」
イタズラを思いついた子どものような笑みを浮かべるネネさん。俺がドギマギする様子を見て笑いたかったのだろうけど……俺も成長しているんですよネネさん。
「はいはい。もちろん好きですよ。俺、ネネさんのこと好きですから」
「え、う、うそ……うそよね。あ、ああ分かった。人として人生の先輩として好きってことね。なかなかやるわねタケトっち。ちょっと動揺しちゃったじゃない」
少しでも動揺させてやろうと、思い付きで言った言葉は一瞬でバレてしまった。
「あはは。でもネネさんは女性としても魅力的ですから、ぐいぐい押して行けば気になる男性とも良い関係が築けそうな気がするんですけどね」
「ぐいぐいね……ぐいぐいか。ふーん、そうね、いい事聞いたわ。ありがとうタケトっち♡(♡はウィンクです)」
そう言ったネネさんだけど、ネネさんは他の男性の列に並ぶことなく俺のすぐ近くのテーブル席に腰掛けて機嫌良さそうにこちらを見ていた。
ちなみにネネさんの後に並んでいた女性たちは、ネネさんとのやり取りをしっかりと見ていて、握手ではなくるハグをしてくるようになってしまったんだけど、ネネさんどうしてくれる?
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