第116話

 開始時間の10分前なのに男性陣が全員揃っている。正直驚いた。これは俺が思っていたより男性陣もなかなかしっかりしていたってことになる。見た目はあれだけど……


 なんてこの時は思っていたけど、後で時間にルーズな男性陣には正式な開始時間よりも30分早めの時間を伝えられていたのだと知った。俺? 俺は特殊メイクの件があったからそれ以上に早めに来ていたから関係ない。

 毎年のことだから運営側も男性の扱いに慣れているってことだろう。


 そんな男性陣は、上下スウェット姿の人が5割くらい、ジャージ姿の人が2割くらい、寝間着っぽい姿の人が2割くらいにスーツ(正装)姿の人が1割くらい……1割か……


 みんな似たような体型(おデブ)で痩せている男性は1人もいなかったが……


 ——ん?


 驚いたことに男性服専門店で見たことあるようなオシャレな服を着ている男性が1人いた。第一ボタンを外したカラーシャツにジャケットを羽織っている男性が……

 髪型も心なしかバンドをしている時の俺の髪型に似ている気がするが……気のせいか……?


 こんな状況だからオシャレに決めている彼はかなり目立っていた。


 それに対する女性陣はみんなお見合いパーティーらしく華やかなドレス姿でお化粧もバッチリ。綺麗な感じの女性が多い。


 そんな女性たちは、開始前にもかかわらずそんな彼に釘付けになっていたり、スーツ姿の男子を眺めていたりしているが、その表情は固く、緊張している様子が窺える。


 まあ太り過ぎ(特殊メイク)の俺にはスーツっぽい姿でも興味がなさそうに感じるけど……そんな事を考えつつ周囲の状況を確認していたら、


「お、岡田様」


「はい……? あ、ありがとうございます」


 突然、スタッフさん(年配のスタッフさんが各テーブルに一名は必ず待機している)から声を掛けられ10枚のカードを手渡された。


 ——? ……これは。


 サッと目を通してわかった。


 ・大高望(おおたかのぞみ)31歳……

 ・内木暗(うちきあん)29歳……

 ・太井富子(ふといとみこ)22歳……

 ・…………

 ・……


 これは同じテーブルに座って居る女性たちのプロフィールカードだ。

 ちらりと同じテーブルに座る女性に視線を向けてみたが、まったく興味なさそうだったけど。


 そのカードには女性たちの番号に名前、年齢、身長、体重、スリーサイズ? 職業、連絡先、趣味やアピールポイントが載っていた。

 人によっては名前と年齢、職業だけのものもあるから記載する項目は任意っぽい。


 お見合いパーティーに参加した女性は、自身のプロフィールカードを何枚か持っているらしく、女性が着席したタイミングで側に控えていたスタッフさんがそのプロフィールカードを1枚だけ受け取る。


 そうして集めたプロフィールカードを俺たち男性に渡してくれたという訳だが、このプロフィールカードは同じテーブルに座る男性には必ず渡すものなのだろう。


 ただ、言葉を交わす前から手渡されるこのプロフィールカードは、社交辞令的な意味合いが強いのかも……俺に興味を示していないからこそそう思う。


 ——でも、みんなが言っていたとおりだったか……


 結婚してもすぐに身籠ることが(学業があるため)できない学生はお見合いパーティーに参加できないのだと学校のみんなが教えてくれたんだけど、それは大学生にも当てはまるみたいだ。参加している女性はみんな社会人……


「……」


 無職の女性もいるようだけど、そこは気にしないようにしよう。


「……いらねぇよ!」


 しかし、腕を組みふんぞり返って椅子に座る青年。あんな態度はないと思う。

 その青年は手渡されたプロフィールカードに目を通すことなくテーブル上にポイっと投げ捨てるように置く。


「こんなもんより、何か食うもん持ってこい!」


 側に控えているスタッフや保護官に対して食べ物を要求する青年。

 そんな同じような問題行動をとる青年が他にも、5、6人はいた。

 さすがに同じ男として少し恥ずかしくなった。


「やっぱ男ってサイテーだわ……」


 ん?


 ふと、そんな声が聞こえた。どこかで聞いたことある声だ。気になり声の聞こえた方に視線を向けてみれば……


 ——あ……


 ネネさんだ。お化粧をしているがたぶん見間違いではない。華やかなドレス姿の松山音々さんが隣のテーブルに座っていた。

 ドレス姿でも足を組んで座っているところがネネさんらしい。


 ネネさんは香織と同級生で子どもが1人いたが『子生の採り』を利用していて結婚はしていない。

 だからここ(お見合いパーティー)に参加していてもおかしくはない……


 でもまあ、今の俺の姿じゃ気づかないだろうけど……なんて思っていたら不意にネネさんと視線が合った。


 ——お?


 気づくかなと思ったがネネさんは眉間にシワを寄せたかと思えば、少し首を傾げ、今度は俺の背後を見る。なぜ? と思ったがすぐにピンとくる。


 ネネさんはミルさんのことを知っていると。


 ミルさんを見たネネさんの視線が再び俺に向けられる。少し驚い表情、かと思えばすぐに笑みを浮かべて小さくピースサイン。


 気づかれた。絶対気づいたよね。っていうか、参加している人数が人数なのに、知り合いと出会うなんてどんな確率だ。なんて事を考えていると、


「えー定刻には少し早いのですが、みなさんお揃いですのでお見合いパーティーの方を始めさせていただきたいと思います。

 えー私は本日司会進行を務めさせていただきます葉世清子(はよせいこ)と申しますが……」


 突然、女性の声が会場内に響き渡る。緊張しているのか少し早口だ。


 ネネさんに「また」と小さく手を挙げてから、前方に視線を向ければ年配の女性がマイクを片手に挨拶をしていた。


「えーまずは西川市長より一言、挨拶のお言葉をいただきたいと思います……」


 司会の葉世さんの言葉に反応するかのように突然会場内が薄暗くなり降ろされていたスクリーンに妙年の女性が映し出された。


 ——この人が市長さん……


「あーあー……こほん」


 お偉いさんの話って長いことの方が多いからな……あまり話が長いと、このパーティーに参加した男性が騒がないか不安しかないんだよな。


 そんな余計な事を考えつつもスクリーンに映し出されている女性に注目する。


「市長の西川です。皆さん! 本日の出会いが良きもの、良き思い出となるよう頑張ってください。私からは以上です」


 ——?


 西川市長がゆっくりと頭を下げると映像がプツッと消え、会場内が再び明るくなると、司会の葉世さんがすぐに口を開く。


「ありがとうございました。えー、それでは次は……」


 短か!? 市長の挨拶、本当に一言でびっくりした。それから5分ほどが、お見合いパーティーについての説明だった。


「えー、それでは早速トークの方に移りたい所ですが、どうやらみなさん少し緊張されているようですので、ここは軽くゲームをしてその緊張をほぐしてからにしたいと思います……」

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