第115話
「おお……」
全盛期(痩せる前)よりも太さが増した(2割増くらい)体型になってしまった。
「これはなんとも……」
瞼が重く視界が狭く感じるのは瞼あたりを腫れぼったくした特殊メイクのせいだろう……鏡を見れば視界の狭さも納得の細くなっている俺の両目。頬もぷっくりとふくらみ少し垂れているので年齢よりも少し老けてみえる。
そして、頭にもカツラを被っているが、前髪は眉下あたりまであり後ろ髪は肩あたりまであり、それでいて鳥の巣かと思うほどのボサボサ頭だから清潔感はない。痩せる前の俺でもここまでひどくなかったと思う。
俺はゆっくりと立ち上がり身体を動かしてみる。
——おっも……
まるで着ぐるみを着て居るかのように非常に動きづらく、とても重い。念体の能力は1しかないが、少しでもマシになればと思い念体を使ってみる。
うーん。気持ち身体が軽くなりちょっとだけマシになった。
でもよくよく考えたらここは国が所有している建物だから会場内はたぶん無念石が使われている可能性はあるか。うーん。その時はなるべく動かないようにしよう……俺にとってもその方が都合がいいしね。
というのも俺の今の年齢では妻が一人以上いればこのお見合いパーティーに参加する必要がない。参加したのは香織のためになるからだ。
自分でいうのもなんだけど、俺はネッチューブやテレビに出ていることもあって、ある程度顔を覚えてもらっているから、俺がこのパーティーに参加してないことはすぐに分かってしまう。
あとは憶測が憶測を呼び、俺がお見合いパーティーに参加するのを香織やその身内が邪魔をしていたとかなんとか騒ぎを起こす輩が現れる可能性もあった。まあ、あくまでも可能性の問題なんだけど、そんな話を聞けば俺としては参加の一択しかないよね。
だから俺的には別に今回のお見合いパーティーで婚約者ができなくても全然構わないのだ。なんて気楽に考えていたけど、その考えは少し甘かったかもしれない……
「ウソ、だよな……」
この世界の男性の現実を改めて目の当たりにして俺は頭を抱える。
—————
——
早めに会場に入った俺はすでに円卓の席に着いている。メイクが終わり軽く昼食を摂った俺は早めに会場に入りしてめでたく1番乗りを獲得。それで何か記念品をもらえるわけじゃないんだけどね。
会場はかなり開けていて奥までが広く、俺は男性用の入口で受付してからクジを引き中央付近の円卓の席に座った。
着席してすぐに案内人(市から派遣されたスタッフ)さんが俺の名前(岡田健人)と年齢(16歳)の入ったネームプレートを円卓の中央に立てた。
女性に同じ円卓に座る男性の名前が分かるようにとのことらしいが、保護官であるミルさんは俺の後ろに待機した。
ずっと立ちっぱなしも大変だろうと予備の椅子(ミルさん用に)をお願いしようと思ったがミルさんに断られた。
やはりというか会場内では念力が使えなくなっているため、何かあってもすぐに動けるように立っている方が都合がいいそうだ。
会場に入ってからはずっとクラシックの穏やかな曲が流れていて雰囲気も良く落ち着く。
全面にはステージがあり大きなスクリーンが降ろされているところを見ると、なんらかの映像が流されるのかもね。
「円卓の数がすごいね。こんな数初めて見たよ」
「はい。この会場でも100卓はあると聞いています」
会場によっても違うとミルさんが答えてくれたが、ミルさん自身は一度もお見合いパーティーに参加したことはないらしい。
「私はタケト様の保護官です。辞めるつもりも離れるつもりもありませんのでご安心ください」
仮にお見合いパーティーに参加して婚約者ができれば、俺の側から離れる可能性が高い。そのことを考えての言葉なんだろう。優しいミルさんの気遣いに涙が出そう。
「そう、だね。ミルさんが保護官だと俺も安心するしうれしい。けど、無理は絶対しないでください」
「はい」
安心するしうれしいと思うのは本心からだ。ただ俺のせいでミルさんが結婚できないとなると……申し訳ないよな。そんなことを思うのに、でもやっぱり離れてほしくない……はあ、俺はなんて自分勝手なんだ。自分の性格がイヤになりそう。
1つの円卓に、男性用として1席と女性用として10席ある。女性用の席の前にも男性と同じく番号が置いてあるのでたぶん女性たちもクジを引いて席を決めるのだろう。
なんてことを考えていたら、女性側の入口からどんどん女性たちが会場に入ってくる。
当然一番乗りの俺に女性からの視線が遠慮なく刺さる。見た目を悪くしたので少し、いやかなり落ち着かない。そんな時……
「おい! お前さ、いつまで俺様を歩かせるつもり? だり〜つーの。もうここでいいんじゃね。よし、俺様の席はここだ。決ーめた」
男性が1人入ってきた。俺と同じ歳くらいの青年。その青年は案内人を無視して男性用の入口から少し離れた円卓の席に勝手に座った。
案内していた女性と彼の保護官がオロオロとしていたが、誰かからの指示があったのか、それとも諦めたのか、案内人はその円卓にネームプレートを置き頭を下げてから離れていき、保護官は青年の後ろに立った。
「は……?」
そんな青年の姿に俺は驚く。
事前にスーツを渡されていたはずなのにその青年は上下スウェットのまま来ていた。体型は変身した俺と変わらないくらいのおデブさん。髪も長くてボサボサ。髭も伸び放題で清潔感がない。
しかも携帯ゲーム機を保護官が背負っていたリュックから取り出してもらいゲームまで始めている。
俺は今特殊メイクで変装しているがスーツっぽい服を着込み髭は剃っている分かなりマシに見えた。
次に入ってきた青年も同じ感じだ。背が少し低いようでかなりコロコロしているように見えるが、やはりスーツを着ておらずに上下スウェット姿。分厚いメガネをかけていて髪はボサボサ。髭は……剃っていた。
大人しく案内人さんの後ろを歩いているだけ先ほどの青年よりも性格はマシなのかも……着席すると女性が数人同じ円卓にいたが会話らしい会話はせずにその青年も携帯ゲーム機を保護官から出してもらいゲームを始めた。
「ウソ、だよな……」
3人目も同じ感じ……そんな彼らを見て、今の姿でも俺の方が充分マシに見えてしまうのはなぜだ。
おかしい。俺も入学式や卒業式などの行事で他の男性に会ったことはある。でもここまでひどくはなかったと思う。
いやまてよ。以前の俺はまったくと言っていいほど他人に興味がなかった。
同年代の男性が太っていても俺も太っていたからなんとも思ってなかったし会話らしい会話もしていない。
男友だちが欲しいなんて考えもなかった。そんな時でも考えていたことは一つ。早く家に帰りたい……
どこぞの男性たちが女性に向かって罵詈雑言を浴びせていようが、俺には関係ないって感じで見向きもしなかった。そうだ。見てはいたが、背景の一部かのようにただぼんやりと見ていただけ。だから、なんとなく太っていた。うるさいヤツが多かった、そんなヤツらだから自己中(自分の行動を顧みて)に決まっている。その程度の認識だったのだ……
ネッチューバーをしていた時(痩せる前)の俺でも櫛くらいは通していたし髭も剃っていたから、あれはあれで、かなりマシな方だったってことか……俺は今回のお見合いパーティーが少し心配になった。
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