第114話

「タケトくん。カッコいいわよ」


 背が高いからなんでも似合うと褒めてくれる香織と頷くミルさん。

 今日はお見合いパーティーがあるので朝からバタバタ。俺は香織とミルさんに手伝ってもらって(世話焼きの二人だから、自分で着替えると言っても無駄だった)スーツに着替えていた。


「ありがとう。スーツを着ると大人って感じがするけど、着慣れてないからなんか照れるね」


 香織が俺の髪をセットしてくれている間にミルさんは着替えに行く。今日もおデブ保護官に変身するらしい。外出時や俺が人と会う場合には必ずそのスタイルになるミルさん。


 でも、たまにそんな姿のミルさんを見て鼻で笑う女性がいるが、俺の保護官だと分かると顔を青くして逃げて行く。


 うーん、ミルさん的には仕事が減って楽らしいけど、なんだろうね、このモヤっとする気持ち……


「どうしたのタケトくん。眉間にシワができているわよ。もしかしてこの髪型が気に入らなかった?」


 最近の香織は、俺の髪のセットにハマっている(長さはミディアム)。今日は整髪料をつけて爽やかな感じに仕上げたそうだけど、考え事をしていたら眉間にシワができていたようだ。


「ん? ちょっと考え事をしていただけ、髪型はすごくいいと思う。いつもありがとう香織」


「それならいいけど、気に入らない時は遠慮なく言ってね……」


 最後にいつのもように軽くキスをして離れる……かと思っていたら抱きしめられてからすごく濃厚なものをもらって驚く。

 そんな俺の顔を見て香織は満足そうに笑みを浮かべていた。


「タケトくん。頑張ってきてね」


 お見合いパーティーに行けば沢山の女性と会うし婚約者ができるかもしれないから不安になったのかな? 


 でも男性の方が少なく多重婚(下限はあるが上限はない)が当たり前の世界だから、それはないか。俺の身支度の世話、かなり気合い入ってたし、ということは、ただの愛情表情かな?


 それならば、と俺からも同じ事をすれば、ありがとうと言いつつも真っ赤な顔になって俯く香織。いつもは香織からがほとんどだからね。たまに俺からするとこんなことになる。可愛らしいね。


「タケト様。お待たせしてすみません」


「大丈夫だよ。迎えもまだだから……」


 ピンポーン♪


「ちょうど来たようだね」


 それから公用車で迎えに来てくれた市の職員さんにお礼を言いつつ車に乗り込んだ。市の職員さんは50代女性の既婚者の方だった。


「……ウチにも娘が2人いるんですよ」


 おしゃべり好きなその女性と世間話をしていれば本日のお見合い会場に到着する。会場は年代別に分かれている。当然、俺の向かう会場は10代の男性ばかりが集まる場所だ。


 お見合いパーティーに参加する10代男性は16歳から19歳までだけど、俺の住むこの市の人口では何千人となる。そんな大人数、会場はどうするのだろうと心配していたが、会場を見て納得した。


 ——なるほど……


 超高層ビルだった。このビル、各フロア全てがお見合いパーティー用の会場になっているらしく、このような超高層ビルが他にも数箇所あるらしいから、かなりの力の入れようだ。


 まだ朝も早いから人通りは少ないが屋台の準備をしている女性をかなり見かけた。


 ——へぇ。屋台が出てるんだ……


 まるでお祭り。ちょっと楽しくなってきたけど、準備をしている屋台主の年齢層が少し高めに見えるのは年頃の女性はみんなお見合いパーティーに参加するからかな?


 そんなことを考えている間に地下にある男性専用の入口前で降ろされた。


「剛田様。お待ちしておりました」


 すぐに案内人さんが姿を現し俺は入ってすぐのエレベーターで最上階……ではなく2階にある楽屋のような所に案内された。おかしいな、事前に会場は最上階になると聞いていたのに……なんて思っていたら予定の変更があったらしい。


 詳しく話を聞くと、成人以上の女性は好きな会場を選べることになっているが、事前にどの会場に参加したいのか申請する。だが、そこで問題が……


 俺の参加する会場に参加希望者が殺到したらしいのだ。それではお見合いパーティーの意味がないと俺が参加する会場は一度見直しとなり、俺がどの会場に参加するのかは女性側に知らせないことになった。


 ただ、それでも俺が参加する会場に参加できた女性が他の男性と会話すらしない可能性が高いだろう、といった懸念の声も多数上がったのだと。


「そういうことか……」


 開始時間はお昼からだと聞いていた俺。それが昨日になり突然開始時間の変更があると連絡があり俺は朝早くからの会場入りとなったわけだが……


 その理由は、どうやら特殊メイクを施し俺を他の男性と変わらないぽっちゃり体型の男性に変身させたいらしい。

 特殊メイクは時間がかかるって聞くもんな。だから俺だけ早めの会場入りとなったのだろう。他の男性をまったく見かけなかったのも納得。


 部屋に入ると俺に向かって頭を下げて近づいてくる女性が特殊メイクアーティストさんかな?


「よろしくお願いします」


「剛田様。こちらこそよろしくお願いいたします」


 時間がないのでと、早速メイクに取り掛かる特殊メイクスタッフさん。香織がせっかくセットしてくれた髪型もすぐに崩され俺の気分は最悪だが、案内人さんの説明は尚もつづく。


「……というのとですので、ここまでで何かご質問はございますか?」


 案内人さんからそんなことを言われたものの、今は特殊メイクの途中なので口なんて開けれないんだよね。わざとかな? 目が笑っているから揶揄われてる? よーし、ミルさんやっちゃってください。なんて思ったら『お任せください』ってミルさんからテレパスが届き、慌てて止めた。冗談です。ミルさん変なこと考えてごめんなさい。


 不思議そうな顔をした案内人さんからさらに話を聞いていると、どうやら俺が参加する会場は1番下の会場になる2階会場と決まったらしい。


 名前も岡田健人(おかだ けんと)という仮名を使う。大丈夫かな。正体は最後に明かしてほしいとのことだ。お詫びにプレミア商品券をプレゼントするからお願いします? ってなんで俺の顔を見て笑っているのさ、ミルさんも口元震えてない? 鏡は最後に見てって言うから、そうしたんだけど、とても不安しかない。これって主催側、俺で絶対楽しんでいるよね。

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