第113話

 無事に生配信が終わり自宅に帰ってきた。


 ネッチューバーのみんなは最終的な同接者数の多さに驚いていたらしいけど、配信中は普通に盛り上がっていて全然そんな感じに見えなかった。


 みんなさすが配信者をしているだけあるよね。不思議といつもより落ち着いてできたっていうのは俺のリラクセーションによるものかもしれないけど、それでも視聴者が離れる事なく終始和やかな雰囲気のまま配信できたのは、みんなの協力があってのものだね。


 あの後(俺の福入袋開封の後)は、目玉であった神府黒(姉)さんが前日から並んで購入した福入袋(人気レディースファッションショップのもの)を開封して生配信を終えたけど、視聴者の反応も最後までいい感じだった。


 ネッチューバーのみんなからもコラボして良かった、また誘ってほしいと言ってもらえたから、提案した俺としてはホッとしている。


 帰り際、俺の福入袋に入っていたアクセサリーは共演したネッチューバーのみんなと撮影スタッフのみなさんに手渡した。

 かなり喜ばれ、みんな涙まで流すわ抱きつくわで、ミルさんが間に入ってくれなかったらどうなっていたことか。


 まあ、それでも早乙女先輩のお店の宣伝カードを渡せたから良しとする。俺にはこれくらいしかできな……ぁ!? 武装女子のグッズ! そこで早乙女先輩の所のアクセサリーを販売してもらえないかな。早乙女先輩器用だから武装女子のロゴ入りのモノを作ってもらったりして……よし、あとで秋内さんに連絡してみよう。


 ちなみに自信満々に準備していたという神府黒(姉)さんのもう一つの福入袋にはたぶん小さなマッサージ器や細々としたモノがたくさん入っていたような気がする。

 一瞬だったからたぶんとしか言えない。俺はミルさんから両目を塞がれていたんだ。

 そんなミルさんから『あれは女性用です』と、滅多に使わないテレパスが飛んでくれば、さすがに『それでも見たい』とは言えない。


 しばらくして顔を真っ赤にしているみんな(女性陣)と、福入袋じゃなくて、大人の袋(大人袋)と書いているピンク色の袋を見ればだいたいは察した。俺が見ていたらもっと気まずくなっていたかも。ミルさんありがとうございます。


 配信は、しばらくお待ちくださいというカンペを映してうまく誤魔化したらしいけど、その辺りのコメント蘭を見せてもらえなかったあたり視聴者さんたちにはバレたんだろうね。でも滅多にない事だからか、ドタバタ喜劇として視聴者さんたちにはウケていたようだ。


 今回の生配信の終了後は、後撮りした俺とのトーク(3分ほど)を冒頭に入れて6部構成の動画として編集され各チャンネルでアップすることになる。

 続きを見るのにあっちこっちとチャンネルを移動してもらうことになるのが心配だけど、そこは概要欄から飛べるようになってるし、これが視聴者の方に受け入れてもらえれば、今後はこんな感じの提案をしていくのもありだね。


 というのも待たせているみんな(ネッチューバー)と少しでも早く共演できるようにしたいんだ。できれば俺が学校を卒業する頃までには今依頼をもらっているネッチューバーさんとは共演したい。だけど武装女子としての活動もあるし数が数だから頭を抱えているんだ……


 運動会みたいな大きな企画、考えてみようかな……


 ————

 ——


「タケトくん、どうかしら?」


「タケト様」


 ——なんかうれしいな……


 香織の首にはハート型ネックレス、ミルさんの首には月型のネックレスが見える。


 俺が出かける前に渡した福入袋に入っていたものだ。香織は他にも可愛らしいイヤリングを付けており、ミルさんも右手の薬指にシンプルなシルバーリングを嵌めている。

 保護官が右手の薬指にリングをはめると、他の男性の保護官にはなりませんと会社や周りに示すことの意味があるらしい。それってつまり、俺以外の男性の保護官にはならないってことだよね。それだとうれしい……と思ったがミルさんは普通にしているから保護官の界隈ではわりと普通のことなのかも。

 よくよく考えてみたら慣れている男性の傍方がいいだろうしね。


「二人ともとても似合ってる」


「タケトくんありがとう」


「タケト様、ありがとうございます」


 香織は見るからに機嫌がいい。ミルさんは……メガネかけてて表情が分かりにくいけど、たぶんいいと思う。なんとなくだけど。

 もしかしたらこの世界では男性から女性に何かを贈るという文化は、たぶんない。たぶんというのは、俺にはそのあたりの知識がなく、またそのあたりについてネットで調べたけど大した情報は得られなかった。


 香織やミルさんだけじゃなく、共演したネッチューバーのみんなやスタッフの皆さん、みんなとてもうれしそうにしていたからそう思っただけだから違うかもしれないけど。


 妊娠した香織は明日から産休に入ることに決めたらしい。お婆さんやお義母さんたち他の役員とも話し合って決めたらしい。

 それでも香織は心配だからちょこちょこ会社には顔を出すつもりでいる。


「沢風くんは、ここ最近あまりみなくなったわね」


「そう言えば、そうだね」


 まったりとテレビを見ながら過ごして気づいたことがある。沢風くんだ。毎日のようにテレビ番組やテレビCMに出ていた沢風くんを今年に入ってからあまり見なくなった。


 まだ1月の3日だけど、以前はテレビをつければどの番組にも出演していたからそう思うのかな? 


 今日だって事前に収録されたものには出演していたが、生放送番組には出演していない。


 その代わりにだろうか。生放送番組には決まってシャイニングボーイズが出演している。

 すでに大人気でファンクラブもできているらしい(最近よくテレビを見ている香織情報)。


「そっか、今は彼らが人気なんだね」


 ——初めてテレビ出演してから3日しか経っていないのにすごいな。どれだけ頑張っているんだろう。


 俺がそんな事を考えつつ彼らの歌声に耳を傾けていると、落ち込んでいると勘違いしたらしく、


「私はタケトくん一筋だから心配しないでいいわよ」


 身体を寄せてきて俺の肩に頭を乗せてくる香織と、


「私は何があってもタケト様の保護官です」


 右手の薬指のリングをチラッと見せてくるミルさん。二人とも優しいね。


 3日の日は生配信で忙しかったので、4日の日は家でゆっくりと過ごしたが、5日の朝にはお見合いパーティー用のスーツが国から届いた。

 すぐにサイズやデザインに問題がないかチェックしてからネットで受け取り完了の操作をする。

 これをしとかないと後々大変なことになるらしいが、俺はそれが何かは知らない。罰金かな? それくらいしか思いつかないんだよね。


 あとは武装女子の新曲やグッズことで色々バタバタ動いていればあっという間にお見合いパーティーのある当日となっていた。



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