第103話
「痛くないぞ孫婿殿。あと身体の怠さも治っているのじゃが……孫婿殿はもしやヒーリングが使えるのかえ?」
あれ? 香織には使えることを教えていたけど、お婆さんたちには教えていなかったのかな?
「はい。そうですね」
ここで誤魔化したところで意味がないだろうと素直に頷く。
「な、なんと!」
くわっと目を見開き顔を近づけてきたお婆さん。とてもいや、かなり驚いているようだけど、そんな顔で迫られたら俺も驚くよ。ミルさんもそわそわしているし。
「えっと……」
しかし、これはまずかったのかな? 俺がヒーリングをまともに使う機会なんてそうそうあるわけじゃないけど、使ったとしてもみんな何も言ってなかったから、そこまで珍しいとは思って……いや、能力先生からは珍しい念能力だって聞いていたっけ。でもそれは俺が男だからって意味だと思っていたんだけど……
「孫婿殿! 身体の方はどうなのじゃ? 大丈夫なのかえ?」
お婆さんが突然俺の身体をペタペタと触り出す。一瞬お婆さんの行動の意味が分からなかったけど、すぐに俺の事を心配しているのだと理解した。
「えっと、俺はなんともないですよ……」
「そうかえ。それならばいいのじゃよ」
ホッとした表情を浮かべたお婆さんが俺からゆっくり離れる。
「実はの……」
お婆さんが言うには、ヒーリングは病気やケガを治療(能力者の資質レベルや熟練度によって差がある)することができるが、使用後には休息を長くとる必要があり、念力の消費も激しいと聞いていたらしい。だから念療院の先生1人あたり数人しか診ることが出来ない。だから予約受付での対応しかしていないのだとか。
しかし、そんなヒーリングでも、ケガや病気によっては一度の使用では完治させることができなく、その後は、予約しても数ヶ月先になることがほとんどのため普通の病院に通うことになるらしい。
それでも全治一カ月のケガが全治一週間になったり、進行して普通では手の施しようがない重い病気なんかも治療ができたりするので念治療を求める人は多い。
俺は行ったことないから知らないけど、念治療も保険の対象になり3割負担で治療できるのできるのでそこまで高額になることはないらしい。
「孫婿殿、感謝する、ありがとう。だが、ワシは孫婿殿に何かある方が辛い。あまり無理はしないでおくれ」
お婆さんがここまで心配するのは、お婆さんが前に念療院で治療を受けた際、その先生がたまたま念力枯渇に陥り倒れてしまった経緯があるから。
その先生、かなり無理をしていたらしく一時は危険な状態になったらしい。
だからお婆さんはヒーリングを使った俺が念力枯渇になり倒れるんじゃないかと心配していたようだ。
でも全然大丈夫なんだよね。これは毎日鍛錬しているお陰。ミルさんも鍛錬すれば念力量は僅かだけど増えるし、使い慣れた念能力は念力の消費を少しは抑えられるって言っていたもんね。
実際、念力はあまり消費していない気がするんだよね。感覚的に。お婆さんに言うと心配しそうだから言わないけど。
「はい。無理はしないように気をつけます」
「うむ」
それからお婆さんは、しばらく俺とミルさんとの鍛錬をうれしそうに眺めていたが、香織たちが帰宅したとの知らせを受けると俺たちに声をかけてからそちらに行ったが、
「ふむ。ワシの心配は杞憂のようじゃな、孫婿殿の念力量はとても高いようじゃわ」
その足取りはとても軽そうだった。
香織は怒られるのかな……うーん。でもなぁ、お婆さんのあの様子。誰かに話すようには見えない……たぶん、大丈夫かな。
なーんて考えは甘かった。夜になり、すき焼きの準備ができたと知らせがあったので香織とミルさんとで大部屋に向かえば、なんだか騒がしい。
ん? もう酔っ払っている人でもいるのかな……そんなことを考えつつ大部屋に入ると、
「孫婿殿、すまん。すまんのじゃ」
大部屋に入ってすぐにお婆さんから謝罪を受けるが、その理由を尋ねる間もなく俺はお義母さんたちに囲まれていて、香織やミルさんも親戚一同に囲まれていた。
「えっと、これはいったい……」
「た〜け〜と〜く〜ん。私もヒーリングをかけてほしいのよね」
「!?」
その瞬間お婆さんに顔を向ければお婆さんが反射的に顔を背ける。お婆さん喋ってるじゃん。
まあいいんだけど、お義母さんはどこか体調が悪いのかな?
「いいえ、とても元気よ。あら? その不思議そうな顔、タケトくんは本当に分かっていないのね。ほらお母様(お婆さんのこと)のお肌、見て分からない」
お義母さんから聞いて驚く俺。どうやら俺がお婆さんにかけたヒーリングは、お肌にも影響を与えていたようで、お婆さんの顔の小じわは薄くお肌にもハリやツヤが戻ったことで、ちょっと若々しくなっていたらしく、それはもう、すき焼きなんて後回しの大騒ぎに発展。
特にお婆さんの姉妹や娘(お義母さんや叔母さん)たち。お肌年齢の気になる……あ、お、お義母さん。今よからぬことを考えていたかって? いえいえ。とんでもないです。
元々歳のわりに若々しく見える(念力によるもの)お婆さんだから気のせいだろうって誤魔化してみたけどダメみたい。
ぜんぜん違うからね、と笑顔なのに圧がすごい。堪えきれなくなった俺はお婆さんを頼ることに。念力枯渇になるかもしれないからダメですよね〜?
「すまん」
お婆さんにまたしても顔を背けられてしまった。
「ちょっとみんな。タケトくんが困っているから……ミルさんもそう思いますよね」
「はい。香織奥様」
みんなを止めようとしてくれた香織とミルさんだけど……みんなからを何やら質問攻めにされたあとに羨ま視線を受けて、小さくなっていました。
俺は2人を見慣れていたから気がついていなかったけど、香織とミルさんのお肌はいつもぴちぴちのツヤツヤだった。
もちろんそれが鍛錬の時にかけていたヒーリングによるものだってことに……
「タケトくん。お願いしますね」
「はい」
俺が思っている以上に女性は「美」に対して貪欲だったのだ。
結局は、みんなにヒーリングをかけてあげることになり、俺が休むことなくヒーリングをしていたらお婆さんが「すまん」と何度も呟きながら心労で倒れていたのでもう一度ヒーリングをかけておいた。
でもヒーリングはしてよかったと思う。ちょっとだけ恐れていた念力枯渇にはならずに、子どもを除く、ほとんどの方が首や肩が凝っていて(野原一族はお胸が大きい)、何人かは病に罹っていてそれを完治できたから。
1人だけ左手にやけどの跡が残っていたから消えるか試したら、少し念力消費が激しかったが綺麗に消えていて自分でも驚く。ヒーリングってすごいと改めて思った。
そんなことをしていれば今年ももうすぐ終わりを迎える。
とある番組ではウタコさんが元気にカウントダウンをしていて慌てて香織とミルさんと手を繋ぎ、みんなでタイミングを合わせて大ジャンプ。
こうして俺たちは新年を迎えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます