第102話
どうしよう。香織の実家にいるけど男の俺はやる事がない。というか何もさせてもらえない。
酔っていた時のようにガツガツ迫ってくることはないけど、ちらちらと顔色を窺っているような、気を遣われて……いや、間違いなく気を遣われている。これはちょっと居心地が悪い。まあ、でも、これが普通なんだろな。
そういえば、芸能関係者や、関連スタッフの方はその辺り、適切な距離を保ってて居心地は悪くなかったっけ。
大人しく部屋に戻り、こっそり自宅まで携帯ゲーム機を取りに戻り(テレポートで)、朱音さんとミルさんとでオンラインのゲームをしたけど、年末でなにかと忙しい朱音さんは30分くらい会話をしたら「また明日」と言い残してすぐに抜けちゃった。ここ最近はずっとこんな感じだね。
なので、ミルさんと二人で討伐クエストをいくつか消化しすれば運良く激レア装備をゲット。現実と違い、ゲーム内ではハイテンションのミルさん。ミルさんのアバターが大喜びして、ぴょんぴょん跳ねている姿を拝んだ所でゲームをやめる。
そうそう、携帯ゲーム機を取りに戻った時、俺の自宅周りがちょっと騒ぎになってた……
女の子がいっぱいいたんだ。物を投げたりインターホンを押すような子はいなかったけど、郵便受けにファンレターを入れてる子や、俺の家を背景に自撮りをしている子が多かった。
ミルさんが放置していても問題ないって言うから何もしなかったけど、このタイミングでこの騒ぎ。心当たりはテレビしかない。テレビの影響力ってすごいんだね。
俺のツブヤイターのアカウントもすごいことになってるもんね。テレビ見た。カッコいい。感動した。なんてDMがたくさん。返事はできないけどありがとうって載せておく。
香織? 香織はお義母さんたちと買い物に行っている。夜はみんなですき焼きをするんだって張り切って買い物に行った。
俺も一緒に行こうと思ったけど、年末のスーパーは混んでるから家で待っててくれって香織に言われた。
この世界では年越しそばは食べないけど、俺が食べたいから行きたかったと言ったら海老天付きのものを買ってきてくれるって。これは楽しみだ。
しかし何かしていないと落ち着かないので、ミルさんと鍛錬(スケートボードで散歩)でもしようかな。そう思いミルさんと廊下を歩いていると、
「た、タケトく……さん」
突然誰かに声をかけられた。親戚の子かな? 見れば中学生くらいの女の子が2人に小学生(5、6年生くらい)くらい女の子が2人。恐る恐ると言ったようすで俺の顔色を窺っている。
「わた、わたし野原タカコといいましゅ……こっちが妹のトウコで、この子たちが親戚のここのちゃんとやえのちゃんでしゅ」
噛んだことは触れない方がいいよね。本人も気づいていないようだし。
中学生くらいの子がタカコちゃんとトウコちゃんで姉妹。小学生くらいの子がここのちゃんとやえのちゃんでこっちも姉妹らしい。
そうそうこの親戚の集まりには、このくらいの女の子や、小さな女の子を連れてきている人はいるけど男の子を連れて来ている人はいない。
男の子のいる家庭は親戚の集まりには参加しなくなるそうだ。よく考えたら俺も親戚の集まりとかに行った記憶がない。っていうか俺って親戚がいるのかも知らないな。なんでだろう?
あ、でも俺が知らないだけで、お母さんや妹は普通に親戚に会っていたかもしれない、2人でよく出掛けていたようだし……
「タケトさん、香織お姉様とご結婚されてたんですね。私うれしいです」
「わたしも」
「うん」
「うんうん」
俺が身内に加わってうれしそうにしている。そんなに喜んでもらえると、なんだか俺までうれしくなるね。
しかし香織お姉様か……香織はぜんぜんそんな事を感じさせないけど、普通に考えたら香織は良いところのお嬢様なんだったね。ということは、この子たちもお嬢様になるのか。着ている服もちょっとお上品だし。
「あ、あの……」
聞けばタカコちゃんは俺たちの文化祭にも友だちと来てくれたのだとか。その時俺たち(武装女子)の歌も聴いたとうれしそうに語ってくれたけど、ちょっと見たことある気がしたんだよね。気がするだけではっきりと覚えているわけじゃないけど。
「そうだったんだ。タカコちゃんありがとうね」
「はうっ!」
「うっ」
「あわわ」
「ぶしゅ」
俺が笑顔を向けるとふらつくタカコちゃん、とその姉妹たち。おや?
「それは色紙?」
「こ、これは……」
午前中に急いで買ってきたという色紙を背中に隠していたから、サインをしてあげると大喜び。
「宝物にします!」
「わたしも」
「します」
「うんうん」
大事そうに両手で抱えた彼女たちは「ありがとうございます」と俺に頭を下げてから屋敷の中に……あら、他の女性に自慢してる。
見せつけられた女性たちがこちらをちらちら見ている。
——あはは……
それからちょっとしたサイン会になったけど、すぐに終わったので、今度こそミルさんと鍛錬(スケートボードで散歩)を、しよう。
今日こそはミルさんから引き離されないようにしたい。ミルさんは飛んでる途中でクールタイムが1秒くらいあるはずなんだけど、どこでクールタイムをとっているのかが全く分からないんだよね。
「ミルさん、今日こそは離れませんよ」
「はい」
気合い十分。スケートボードを必死に操りミルさんの後を追い、宙を舞っていると、
「ほほう念動をそこまで、さすがは孫婿殿じゃのぉ」
あれ? お婆さん? 香織たちと一緒に買い物に行ったと思ってたよ。
いつの間にかお婆さんが俺たちのことを見ていたよ。
「お婆さん……?」
わざわざ折り畳み椅子(キャンプ用の立派な椅子みたいなもの)に座り俺たちのことを感心しつつ楽しげに見ていたけれどお婆さんは肩と腰をしきりに摩っている。もしかして痛い?
俺はお婆さんの前にゆっくりと降りてから尋ねるてみると、不思議そうにしながらも、いつものことだから心配することじゃない、と笑い、昔痛めたもので寒い日は特に痛むのだと教えてくれた。そっか痛むのか……
「じゃあ、お婆さんちょっと失礼しますね」
ヒーリング使ったらちょっとは良くなるよね。
「孫婿殿?」
俺はお婆さんの背中の方に回ると肩に手を当ててヒーリングをかけてみる。ん? んん? ヒーリングをかけると身体の悪いところがなんとなく分かるようになったんだけど、お婆さんは肩や腰以外にも目や耳も少し悪くなっているようだった。
でも1番は消化器系、これは……かなり悪い。お婆さんは気づいていないようだけど、このまま何もせずに進行すれば……みんなが悲しむことになりそうな気がする。
俺はそっちの方にもヒーリングをかけていく。
「おや?」
すぐに俺が何かしていると気づいたお婆さんだが、少し驚いただけでその後は静かに瞳を閉じていた。
ゆっくりと念力(ヒーリング)を流すこと10分。これで大丈夫かな。
「ふぅ……お婆さん、調子はどうですか?」
「ん? ああ、おお」
ゆっくりと立ち上がったお婆さん。両肩と腰を回して驚き目を見開く。
「痛くないぞ孫婿殿。あと身体の怠さも治っているのじゃが……孫婿殿はもしやヒーリングが使えるのかえ?」
あれ? 香織には使えることを教えていたけど、お婆さんたちには教えていなかったのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます