第104話 三章
新春を迎えたその日、日本中に激震が走る。
男性で初のアイドルグループ『シャイニングボーイズ』がメディアに登場したのだ。
『シャイニングボーイズ』は長身で顔立ちの整った男性4人組のグループで歳は4人ともに17歳。俺の一つ歳上になる。
「みんな、僕は相輝(あいき)って言うんだ、よろしくね」
爽やかな笑顔でウィンクして魅せる、あいき。
「俺は海輝(かいき)だ。よろしくな」
日焼けした肌で長髪の似合うかいきは自身に親指を向けている。自分に自信があるって感じ。
「やっとみんなに会えたよ。俺っち彩輝(さいき)だよ。よろしくぅっ!」
両手を大きく広げで人好きのする笑顔を向ける童顔のさいき。
「大輝(たいき)だ。よろしく」
目つきが鋭く口数の少ないたいきは、ちょっと怖そうなイケメン。
そんな4人がカラフルなスケートボードに乗り画面いっぱいに走らせ明るくノリのいい曲を歌っている。
時には飛び上がった(たぶん念動だと思う)と思えば宙を舞い、横回転や縦回転を披露して会場を沸かせテレビ視聴者も魅せる。
歌いながらもアクロバティックな動きで視聴者を楽しませるその姿はいかにもアイドルっぽい。
「わー」
一緒にテレビを見ていた親戚(香織の)の子どもたちも瞳をキラキラと輝かせて楽しそう。
これが新春恒例の生放送番組『新春! 明けて魅せたい得意芸』での出来事。人気のあるアイドルや芸人、歌手やスポーツ選手などが出演し自分の得意芸を披露してくれるバラエティ番組だ。
初詣? 初詣は年が明けてすぐに(夜中)野原一族のみんなで行って来た。それから少し寝て、親戚のタカコちゃんたちに起こされてテレビの前まで引っ張られた。
初詣はすごく賑わっていたから今日は寝不足の人も多いだろう。俺も寝不足だ。まったりゆっくり過ごしたい気分。
何気にMAINアドレスを交換している人たちから午前0時を過ぎてすぐに来た『あけおめ』メッセージが多くて返信が大変だったのもその一因かな。
——へぇ……この人たちがそうなのか。
人気のあるお正月番組だっただけに、予告なしに現れた男性初のアイドルグループは視聴者(女性たち)の目を釘付けにしたが、俺はあらかじめ朱音さんから聞いていた。
黒一点の危険性を。だから今後(西条グループ)は男性アイドルを育ていく予定なのだと。ちょうどミルさんを紹介してもらった頃かな。朱音さんがずっと忙しそうにしていたのもその為だ。
ちなみに朱音さんが言う黒一点とは俺のこと。実際は沢風くんもいるから黒一点ではないのだけど……たぶん1人も2人も変わらないという朱音さんなりのジョークかな。
でもおかしい点も。朱音さんから聞いていた話では、今育てている男性はゆるんだ体型をしていたからしばらく時間がかかるって話だったんだけど……
『突然の乱入演出から始まりましたが、カッコよかったですね……テレビの前のみなさん、どうでしたか? カッコよかったですよね……』
テレビの画面越しに見る彼らはシュッとしまった体型で女性受けしそうな笑顔を振り撒きながら、MCからインタビューを受けている。そのインタビューをしているMCもにっこにこの満面の笑みを浮かべていて、とてもうれしそうに話している。
——こんなに早く形にするなんてすごいな。
朱音さんはオンラインゲームをソロで楽しんでいた男性を勧誘。俺の一つ歳上の男性を4人。お金や女性には興味を示さなかったからゲームのアバターを提供することでどうにかうまく行ったらしい。
俺も頼まれて自分の動画とアバター見せそのクオリティの高さを証明したら、「すげぇ」と言いつつ、すごく纏わりつかれて一時は大変だった。かといって彼らはパーティーに加わることはしないんだよね。「俺はそんなに軟弱じゃないって」。俺はゲームバランスが崩れて楽しくないから使ったことないけど、ソロの男性キャラは無双モードを使える。だからわざわざパーティーを組む必要性はない……けど、俺たちの周りでバンバン魔物を狩られるのも困るんだよね。まあ、そんなソロプレイヤー(男性プレイヤー)も結構いるから、彼だけを気にしてもしょうがないんだけどね。
朱音さんは全然問題ないって言ってたけど、彼らには、今後、芸能活動の報酬として金銭以外にもゲームやマンガに登場させてあげないといけないらしいから大変そう。でもちょっとだけ、いやかなり、俺もうらやましいと思ってるんだけどね。
——『タケトくん……』
ふと朱音さんの言葉を思い出す。
——『グループ名決まった。無茶苦茶玄米茶。どう?』
そう朱音さんが言ったアイドルのグループ名は『無茶苦茶玄米茶』というセンスを疑うようなグループ名だったなぁと。
両手を大きく振って画面から消えていく『シャイニングボーイズ』。
あれ、朱音さんの芸能事務所が育てているアイドルグループ『無茶苦茶玄米茶』じゃないけど、このグループは一体……もしかしてグループ名を変えた? 後で朱音さんに聞いてみよう。
「『シャイニングボーイズ』カッコよかった〜」
早速子どもたちは、どこからか見つけてきた古くさいスケートボードを持ち出してきて、紙で作ったマイクを片手に持ちシャイニングボーイズの真似を始めたが歌は適当でちょっと面白い。
「部屋でスケートボードに乗りません。お庭に行きなさい!」
「はーい」
まあ、すぐに親戚の叔母さんたちに怒られてみんなは素直にお庭に向かった。
「もう。タケトくんも行くんだよ」
はしゃぎながら庭に向かっていた子どもたちだが、俺が着いて来ないとみるや、途中で引き返してきて俺の袖を引っ張る。昨日から思っていたけど親戚の子どもたち、お兄ちゃん呼びじゃないんだねよ。いいけど。
「俺もなんだ」
「そうだよ」
「タケトくんもだよ」
「一緒に遊ぼうよ」
子どもはかわいいから断れないな。それにいつも鍛錬でやっていることなので、ちょっとうずうずしていたんだよね。俺は素直について行くことにした。
「タケトくんもやろう」
「やってやって」
「よし、じゃあちょっとだけね」
庭に出ると、子どもたちからすぐにやってコールを浴びたのでノリノリでやることにした。
ついでに滞空時間を5割増しでマネしてやったらタカコちゃんたちに大受け、かなり喜ばれた。
——お、みんな喜んでるな。
そして気づいた。人を楽しませたり喜ばせたりすることを楽しく思っている自分がいることに。
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