第90話
「武人様」
「あ、そうだね、ミルさん今日もよろしくお願いします」
最近は夕食後にミルさんの方から鍛錬によく誘ってくれる。あ、鍛錬自体は(特に念動)前記憶が蘇ってから毎日欠かさず続けているから誘われなくてもするんだけど、ミルさんが来てからはミルさんにお願いして体術や念力の使い方を学んでいる。
最もウチに来たばかりのミルさんは俺が尋ねたことだけ教えてくれるというスタンスだったんだよね。
でも最近はミルさんの方から誘ってくれるくらい意欲的に指導してくれる。意欲的と言ってもいつもの調子で淡々と指導してくれる感じ。
本当は職業の制限がありダメなんだけどこっそりと念棒という念導具も使わせてもらったりもしている。
念棒はカッコいいね。念出を意識して使うことで念棒に念力を纏わせることができるんだ。ゲームでいうところの魔法剣みたいな感じ。
あとはそのままの状態で殴ったり、纏わせた念力を飛ばして離れている目標物にぶつけたりする。
まあ俺は念出資質レベルが1だから薄く纏わせるだけで飛ばすことはできなかったけど、軽く振り下ろすだけで石にひび割れを作ることができた。
驚いたね、俺のへなちょこ念出資質レベル1でこれだよ。制限も厳しくなるはずだ。ミルさんのこの念棒も保護官という立場だから使用許可がでていてるらしいし、使用する際にも登録者であるミルさんが一度ロック解除しなければ使えない。
しかもロック解除したあともミルさんがその念棒に3分間触れていなければ自動的にロックがかかる仕様になっている。
ちなみに香織は仕事で念力を消耗していることが多く鍛錬に参加することは少ない。
ほとんど俺たちが鍛錬している様子を眺めている。
でもなぜミルさんがここまで意欲的になったかというと理由は分かっている。
アニメだ。「ダンカン日記」というアニメの影響なのだ。
このアニメはバトルと恋愛要素のあるアニメで、5人の男性保護官と女性並みに念能力が高い男子高校生のヒロが協力して『男捨離』という地球滅亡を望む謎の組織に立ち向かっていくお話。
女性だけで構成された『男捨離』は男性を1人残らず始末することを目的とし人類の滅亡を望む組織だが、主人公である男性保護官は戦いの中でその女性たちが、男性に酷いことされた女性たちだったと知って苦しむことになるんだけど、そんな中、ターゲットとして狙われていた男子高校生のヒロ(ヒーロー)と知り合い協力し合うことで、逆に『男捨離』の女性の心を癒し仲間にしていく。男性目線で言えばハーレムもの。
ただ、このアニメ、沢風くんをモデルにして描かれていると噂されてる。
その根拠として沢風くんの奥さんらすでに6人いて、その内の5人が男性保護官みたいらしいので、アニメの設定と一致する。
そんなアニメだ、声優は沢風くんがやるだろうと騒がれていたらしいけど、蓋を開ければちゃんとした有名声優(女性)さんだった。
沢風くん側が断ったからとか、沢風くんに決まっていたけど降板となったとか色々な噂があるが、今の声優さんが上手いから全然違和感はない。
「男捨離には強い子がいます。もちろん私は負けるつもりはありませんが、武人様自身も強くなっていて損はないのです」
「そうだね。俺頑張るよ」
ミルさんのノリに付き合う俺。早速2人でまあまあ広い敷地内をハイペースで走り込む。
ミルさんがここまでアニメ「ダンカン」にハマるとは思わなかったが、なりきってるミルさんは面白いのでツッコむつもりはない。
それにこの鍛錬を続けているおかげでスケートボードに乗ってかなり浮くことができるようになった。たぶん今ならネッチューブで見た川超えもできそう。
ミルさんから念動資質レベル1では絶対にできないことだから誇っていい言われている。
ミルさんから褒められるとうれしいね。授業でも念能力を使うと念臓器を休ませるためのクールタイムというものが必ず必要になると習っていた。
でも俺の場合はヒーリングの力が働きクールタイムを必要としないから念動の連続使用ができ、限界以上の力を発揮できている。
これは能力先生から聞いていた答えと同じ。そして頑張れば頑張るほどその距離は伸ばせるかもしれないとも。
うれしいね、でも今の俺の悩みはスピードを上げたい。同じようにスケートボードに乗ったミルさん。ぜんぜん追いつけない。
「はあはあはあ……ミルさん速すぎ……」
「念動資質レベル1でそこまで自在に動ける武人様の方が充分すごいですよ」
俺が落ち込まないように最後は必ず俺を立ててくれるミルさんは優しいね。
最後はミルさんと香織と手を繋いで短距離のテレポート。今では3人でのテレポートもできるようになったが、慣れればもっと人数が増やせそうな気がする。
人数が増えるとその分だけ念力の消費量が増えるから燃費は悪いんだけど、念力が足りない時はテレポート自体、発動できないから割と安全。
世間ではテレポートは本人のみが瞬間移動できる念能力という認識だから初めて香織とミルさんと一緒に移動した時はかなり驚かれた。
でもだからこそ香織とミルさんからは多人数でのテレポートは人の前では使わないよう釘を刺されているから人の前では1度も使ったことはない。
「え!?」
お風呂上がり、交換したMAINに一之宮先輩からロゴデザインの素案提案として5つのラフ案が届いていてびっくりした。一之宮先輩、仕事早すぎ。予定より全然早いよ。
「えっと……ありがとうございます、でも無理はしないでください、っと」
お礼のメッセージを送れば、これからブラッシュアップして形にしていく流れだからともう少し時間がかかると教えてくれた。
仕事モードの一之宮先輩、ちょっとカッコいいね。でも俺1人で決めるのもどうかと思うので、一之宮先輩から許可をもらってみんなにも見てもらうことにした。
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