第87話
みんなが秋内さんの話に耳を傾けた、タイミングで続きを口にする秋内さん。
「武装女子のグッズを作って販売しようよ」
「え」
「それは……」
興味はあるが不安そうな顔をするみんなを前に、人気の出てきている今だからチャンスなんだ、と力説する秋内さんの目はきらきらと輝いていた。
そんな秋内さんが前のめりになると、
「オリジナルTシャツにオリジナルタオルでしょ。あとはオリジナルボトル、オリジナルサコッシュ、オリジナルトートバッグもいいよね。
そうそうオリジナルキーホルダーも絶対欲しいだろうしオリジナルフィギュアも人気がでそうだよね。えーっとほかにはオリジナルステッカーに文房類なんかにも武装女子のロゴデザインを入れたりして……」
グッズ販売についてすごい勢いで語り出す。次から次に、販売したいグッズ商品を口にしている辺り、かなり前から構想を練っていたんじゃないかと思ってしまった。
「あ、秋内さん」
あまりの勢いに聞いていたみんなはダジダジ。かく言う俺も。
「そうそう武装女子のロゴデザインもね、ちょっと考えてみたんだけど、こんな感じはどうかな?」
みんなの意見を聞かせて、と秋内さんがロゴデザインを描いているノートを広げて、自信満々に胸を張る。
「へぇ、秋内さんがロゴデザインをね……」
せいこちゃんすごい、どんな感じなの、どれどれ、などの言葉を口にしつつみんながその広げられたノートを覗き込む。
——え゛っ
「せ、せいこちゃん……」
俺もだが、ロゴデザインを見たみんなの顔が一斉に引き攣った。
————————
武装女子
♀ ♀ ♂ ♀ ♀
————————
————————
武装女子
🚺🚺🚹🚺🚺(←トイレの男女マーク)
————————
「どう? 書体は仮のものだけどなかなかいいでしょう? 私としては下の方のデザインがいいと思うのよ」
これはダメじゃない? ていうか酷くない? みんな首を振ってないで何か言って。俺が言うよりはみんなが言う方がいいと思うんだ。
あ。
不意にななこと目が合う。おお、こんな時こそのテレパスだよ。テレパス様様。
『ななこ。頼む』
『無理』
ななこが両手で✖️をつくる。両手で✖️はやめなさい。周りのみんなも頷かないの。秋内さんに気づかれる。
でもこのままじゃ……俺たち武装女子のロゴがどちらかになってしまうよ、いいの?
『それはイヤだけど……やっぱり無理』
俺とななこがそんなやり取りをしている間にもにこにこご機嫌な秋内さんが、
————————
武装女子
🚺🚺🚹🚺🚺(←トイレの男女マーク)
————————
「よかった。みんなも私と同じでこっちのデザインで良さそうだね」
今にもロゴデザインを決めてしまいそうな勢い。誰がそっちがいいって言ったの? もしかしてさおり? さおりだけ頷いている。
待って待って待って。まだ決めないで。さおりもダメだって。誰か……しょうがない。多少傷付けることになるけど俺が……そう思った時だった。
「そ、そう言えば、一之宮先輩のご実家の会社がデザイン関係の仕事をしているって姉から聞いたことがあります……」
小宮寺さんが小さく手をあげた後。ちょっと遠慮気味にそう言うと、
「そうよ、わ、私も一之宮先輩のご実家の会社はそんなことしてるって聞いたことがあるよ」
「せ、せっかくだしプロがデザインしたロゴマークも見てみたいなぁ」
「そうだね」
「うんうん」
つくねにさちこ、それに周りのみんなも小宮寺さんの意見に同意するが、さおりだけが首を傾げている。
よく分かったよ、秋内さんとさおりのデザインセンスはダメダメだと言うことが。
「俺も……秋内さんのロゴデザインもいいけど、せっかくの機会だからプロがデザインしたロゴも見てたいかな」
俺もなるべく言葉を選んで、プロのデザインが見たいと主張する。
「それもそうだね。じゃあ後で一之宮先輩にみんなで相談してみよう。
グッズ制作についてはアテがあるから心配ないとして、あとはみんなでどんなグッズから販売していくか話し合って決めていこうよ」
よかった。秋内さんも別に自分のロゴデザインを押し通したいわけじゃなかったみたい。どちらかと言えばみんなの意見に賛成。というかグッズ商品の販売は決定事項なのか。
さおりにななこ、つくねにさちこ、それにお弁当仲間のみんなもいつの間にかグッズ商品の販売に乗り気になっている。
「手始めに経費があまりかからない武装女子の生写真にサインを入れて販売かな」
ぶっ。
秋内さんが最後にすぐにでもできそうなことをみんなに伝えて昼休みが終わった。
終業式は校長先生の話が長いくらいでつつがなく終わる。ただ体育館を出る際に、2年生と3年生から呼び止められ、放課後にサイン会があると聞きましたが本当ですかと尋ねられてびっくり。
一之宮先輩をはじめ生徒会役員のみなさんがこっちをチラチラと見ていた時からイヤな予感はしていたんだよね。
「武人くん。ありがとうね」
「俺もみなさんの協力のおかげで学校に通えてますから。できることは協力しますよ」
心の中で鮎川店長に謝りつつそう答える。朝、新山先生にそんなことを聞いていたからね。それにみんなから期待するような目で見つめられたらさすがに断れない……って、一之宮先輩、俺の手をしれっと握るのはやめましょう。みんな見てますよ。
「あら、ごめんなさい。武人くんの心遣いが嬉しくてつい」
と言いつつまだ握っている一之宮先輩。ついでなので先ほどみんなで話し合ったことを伝えておこう。
「まあまあまあ……それは大変素晴らしいことですね。是非任せてください」
「ありがとうございます」
料金なんかの見積もりも含めて一之宮先輩のお母さんの会社にお願いしたつもりなんだけどなぁ。今の口振りだと一之宮先輩自身が見積もりやデザインなんかをするように聞こえたんだけど……そんなはずないか。
放課後にちょっとだけサイン(1年生に)をするつもりだったはずが、気づけばサイン会という仰々しいものになってしまった。
鮎川店長にかなり遅れることになりそうですと謝罪を含めて電話連絡すると、貸しひとつですね、と返ってきた。
鮎川店長は何をさせる気だろうかと一瞬思ってしまったけど、しょうがないよね。先に約束していたのは鮎川店長の方だし。学校が今日までじゃなかったらこんなことにはならなかったのに……
放課後、休憩を一度も入れることなくサインをしたけど、今日ほどヒーリングとリラクセーションが使えてよかったと思ったことはなかった。
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