第83話

 ハッピーデイイベントに参加したその日はマサカ社の方が用意してくれたオオマルホテルに泊まった。なんか話があると言っていたが時間も時間なので話は翌日にしてもらった。


 いざホテルに着くと高級感が漂っていてとても高そうな感じのホテルだった。

 当初はメンバー1人1人の部屋を準備するって言ってたけど招待された俺たちってネッチューブでの登録者数は増えきているけど普通の学生だし、流石にそれは悪いと思い俺とミルさんの2人部屋を1つと、さおりとななことつくねとさちこの4人部屋を1つだけに変更してもらった。


 変更してもらって正解だったよ。こんな高そうなホテル、しかもハッピーデイの日だと特別料金で高くなってるらしいし、そんな日に6部屋準備させるような真似なんかさせられない。


 香織? 残念ながら香織は仕事があるので来れなかった。だけどミルさんが車の運転が出来るというのでそのお言葉に甘えた。

 香織もミルさんが俺の側にいてくれると安心すると寂しそうにしながらも笑顔で送り出してくれた。お土産は買って帰るからね。


 そしておデブ仕様のミルさんの運転でオオマル県のオオマル市まで来たんだけどちょっとした修学旅行気分。移動中はみんなでわいわいと楽しかった。お菓子を食べたりゲームをしたり、あっという間だった。もちろんミルさんには飲み物休憩をちゃんととってもらったりした。


 でも知らなかったな。みんなトランプに夢中になるとボディータッチが多くなるんだね。あ、いや、あれはポカポカ、バシバシ叩いてくる感じだからボディータッチじゃないかも。俺がババ抜きだったり7並べで意地悪しちゃったのも悪いのか。


 そんなまったりとした時間はついてそうそう終了したけど、マサカ社社長さんをはじめ関係者さんや『ふぉーいあーず』のみなさんに挨拶したり、リハーサルしたりとそれどころじゃなくなったけどね。


 でも今日のハッピーデイイベントライブは楽しかったな。ゆうたち『ふぉーいあーず』の盛り上げ方もうまい。見習わないとな。


「いや、なんでミルさんは俺のベッドに入って来るんですか」


 みんなでホテルのレストランで食事をした後に別れて自分たちの部屋でシャワーを浴びた。

 俺は疲れもあってベットに入ってうとうとしていたらシャワーを浴びてきたミルさんが俺のベッドに入ってくる。


「香織奥様の代わりになればと思いまして」


 淡々と答えるミルさん。俺が1人で寝るのは寂しいだろうと本気で心配している様子。


「あ、ありがとう。でも大丈夫だよ。ミルさんも朝から長距離の運転に、俺やみんなの身の回りの安全に気を配ってくれたり、他にも俺の身の回りのお世話までして疲れただろうからベッドでゆっくり休んでください」


 香織もミルさんもある程度で止めないと、俺の世話をなんでもしたがる……こちらのことを察してどんどん動いてくれるから、本当にダメ人間になりそうで怖いよ。


「それでしたら尚さら武人様の隣にいた方が良いのですが」


「あ……」


 ミルさんから聞いたけど俺ってリラクセーションの念力が僅かに漏れているんだって。歌っている時だけじゃなかったんだよ。

 俺の側に居れば自然とリラクセーションの恩恵を受ける。僅かに漏れている程度なので一日中側にいたとしてもリラクセーションを過剰に受けた時のようになることはないらしい。


 だからミルさんは疲れを取るなら俺の側だろうと言いたいらしい。うーん、疲れを取ってくださいと言った俺がここでダメだと言ったら俺がミルさんを嫌って避けているみたいでなんか嫌だな……


「……ミルさんの疲れがそれで取れるならいいですけど」


「はい」


 ミルさんは仕事熱心で真面目な人。例外はゲーム。ゲームプレイ中だけは寒い冗談を言う面白い人になるけど、冗談だったったってことはないよね? ないか。まあ大丈夫だろう。


 ミルさんが明かりを消してから入ってくる。ミルさんからいい香りが……なんて思ったのは一瞬で、よほど疲れていたのか俺はすぐに眠りについていた。


 翌日の日曜日。


 うーん。柔らかくて温かい。香織……


 寝ぼけ眼のままいつものように香織に抱きつき軽くキスをする。


「おはよう〜香織……!? だ誰!? いや、違う、ごごめん。香織、じゃなくて妻と勘違いして……」


 妻に抱きついてキスして目を開けたら知らない美人さんが目の前にいたけど、それは香織じゃなくて、あ〜自分でも何を言っているのか分からない。

 とにかく俺は朝からパニック状態です。


「武人様、落ち着いてください」


 頬を僅かに赤らめた美人さんのその声には身に覚えがあった。


「も、もしかしてミルさん?」


「はい」


 その瞬間、思い出した。ここはオオマルホテルでミルさんの疲れを取るためにミルさんとは一緒のベッドで寝て……でも俺は香織と勘違いして抱きつきキスをしてしまった。

 俺の顔色は多分真っ青になっているだろう。慌てて上体を起こして頭を下げる。


「ご、ごめんなさい。香織と勘違いして俺ミルさんに……」


 顔を上げで下さいとミルさんが言うので顔を上げるが、正直顔をまともに見れない。


「武人様。私の眼見ましたよね。気持ち悪くなかったですか?」


「ミルさんの眼? ん、オッドアイ? おオッドアイ! 何それ、カッコいいしきれいだし、って違うよ。今はそんなことよりも俺はミルさんの……」


「武人様。大丈夫です分かっています。寝ぼけて香織奥様と間違われたのですよね」


 いつもならほとんど表情を崩すことのないミルさんが笑顔になる。一瞬だったけど俺を気遣ってくれたのだろう。


「そ、そうなんだけど……」


 ミルさんはもう一度大丈夫ですよと言うと普通に身支度を始めた。

 いつものおデブちゃんに変身したミルさん、最後にメガネをかけていたけど、ミルさんのオッドアイ、もう少し見たかったな。


 そんなミルさんは何事もなかったかのように、いつもの調子で俺の着替えを手伝おうとするのでそこは大丈夫と断った。


 ————

 ——


「昨日は同接1000万人超えしてたんですか……『ふぉーいあーず』の人気はすごいんですね」


 俺たちが感心していると、マサカ社長が首を激しく振る。


「いやいやいやいや。そうではないのです。これは『武装女子』さんが人気だったからです」


 予定では5,000人(同接者数)越えればよいと思っていたと言う社長さんは金額の入った小切手を差し出してきた。


「え!?」

「うそ」

「ふぇ」

「わぁ」

「ん」


 俺を含めたみんながその金額を見て驚く。元々報酬はもらうつもりはなかった、その代わりに少し時間をずらしてからネッチューブにコラボした動画をアップさせてもらうというのが条件だった。


 撮影者はマサカ社のスタッフさんなので、まだどんな感じに撮ってくれているのか見てないので楽しみ。


「正当な報酬です。それにウチも今朝から仕事の依頼の電話が鳴りっぱなしで、あの子たちもうれしい悲鳴をあげていますよ」


「そうでしたか、それならいいのですが」


 それでももらい過ぎだと思っていると、また何かのイベントがあったら招待しても良いかと気を遣ってくれたので二つ返事で承諾。タレント思いのいい社長さんのようだ。


『ふぉーいあーず』のみんなに挨拶してから帰ろうと思ったけど、雑誌の取材が来ていて忙しそうだったので、俺たちはそのまま帰ることにした。


「最後に会いたかったなぁ」


 アイドル好きだと教えてくれたつくねが『ふぉーいあーず』に会えなくてすごく残念そうだったけど。



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