第81話

 マサカ社には今力を入れて売り出しているアイドルグループがある。

 年齢は13歳から18歳、4人ずつで構成された12のアイドルグループは、


『ジャニュアリー』の、ゆう、あい、みい、しぃ。

『フェブラリー』の、いっこ、にこ、みこ、よーこ。

『マーチ』の、あか、あお、みどり、きい。

『エイプリル』の、はる、なつ、あき、ふゆ。

『メイ』の、あさ、ひる、よる、ぱん。

『ジューン』の、あいす、らいす、ないす、おいす。

『ジュライ』の、かか、きき、くく、ここ。

『オーガスト』の、さー、ぷー、らい、ずー。

『セプテンバー』の、あれ、それ、これ、どれ。

『オクトーバー』の、りく。そら。うみ。もり。

『ノーベンバー』の、ひー。すい。ふう。つっち。

『ディッセンバー』の、あーこ。りーこ。がーこ。とーこ。


 と、元気系、可愛い系、クール系、清楚系、ポップ系、セクシー系、個性派系、癒し系、実力派系、お嬢様系、お笑い系、ギャル系で分かれているものの、実は一つのアイドルグループ『ふぉーいあーず』という48人で構成されたアイドルグループでもあった。


 グループ名は現社長がツキがつく(幸運が舞い込む)ようにとゲンを担いで、月名からつけられたらしいけど、アイドル名はそれぞれのアイドルたちがファンから覚えられやすく語呂のいい名前を自らつけているので、ちょっとセンスのよろしくない残念な子たちもいる。


「みんな〜今日は集まってくれてありがとう〜」


 全体のチームリーダーでもあり、本日の紅組のリーダーである『ジャニュアリー』のゆうがステージ上から観客席に向かって両手を振ってから俺たち……いや、俺に向かってにこりと微笑む。


「今日はパッピーデ〜、みんなで楽しい時間を過ごしましょうね〜」


 セクシー系アイドルであり白組のリーダー『ディッセンバー』のあーこさんもゆうと同じように観客席に向かって大きく両手を振った後に、俺に向かってにこりとする。


 ——うーん。


 まだまだ売り出し中のアイドルのため残念ながら、五大ドームの一つである東西ドームのように大きな会場ではなく、オオマル市民文化ホールで開催されているため収容人数は1000人くらい(名を売りたい結成2年目のアイドルには必要なイベントだが各地でハッピーデイイベントがあるため控えめ)だが、全ての観客席は埋まっていた。


『みんな〜楽しく過ごそうね〜♪』


 ゆうとあーこさんの挨拶の言葉に合わせて少し後方に立ち、横二列に並んでいる他のメンバーが観客席に向かって大きく両手を振ってから俺を見る。手を振ってる子も。つい反射的に小さく振り返してしまったけど、みんなはお客さまをみようね。


 そう俺たち『武装女子』は12月25日のハッピーデイの日にマサカ社主催のハッピーディイベントにゲストとして招待され、俺たちは今、観客に背を向けて座る審査員席にいるのだが、観客からいつ気づかれるのかと、ちょっとワクワクもしている。


 色々なTV局が特番を組むハッピーデイに申し訳ないとマサカ社社長(20代後半くらい)自ら謝られて驚いたが、俺の知らないところでは、ゆうたちが社長や他のメンバーに『武装女子』を呼んでいいかと尋ねて、人気の出てきている武装女子相手に冗談だと思った社長や他のメンバーは来てくれるといいね、と小さい子を見守るような生暖かい表情で承諾。それが蓋を開ければ本当に来ることになっていて、社長も他のメンバーも先に驚かされていたという一幕があっている。


 アイドルのイベントにゲストとして招待されること自体未経験のみんなは大喜び。先ほどまではとても浮かれていたのだが、


「どうしよう緊張してきました」


 審査員席に座り手元の資料(メンバー名)とステージ上に立つみんな(ふぉーいあーず)とを交互に見比べながら眺めていた俺たち。さおりは緊張からか、声が少し震えている。


「本当だよね、私たちど素人なのに審査員席なんかに座ってるよ、いいのかな」


 いつも元気なさちこの表情も堅い。手元の資料を見ながらうんうん唸っている。


「私たちは1人じゃなくて『武装女子』5人でするみたいだからそこまで気にしなくてもいいと思うよ。それよりも、すぐ目の前で『ふぉーいあーず』の生ライブが見れるんだから私は楽しみだよ」


「審査員ならマサカ社のスタッフに、オオマルTV局の人たちがいるからそんなに気にしなくていいと思う」


 つくねとななこは平気らしい。ななこは、メンタル強そうだからそんな気はしてたけど、つくねは意外だね、目をキラキラさせているところを見るとアイドルが好きなのかも。


 今回はアイドルグループ『ふぉーいあーず』48人が紅組と白組に分かれての歌合戦をするらしいけど審査員は10人。

 マサカ社関係者が3人とオオマルTV局の関係者が3人に誰だか知らない人が3人と俺たち(俺たち『武装女子』5人で1人扱い)。みんな俺たちの方をちらちら見ている。俺たちは指示通りに来ただけだけど時間ぎりぎりに座ったから挨拶してない。だから気になるのだろうね。会釈でちょっと頭を軽く下げておく。あら、顔を真っ赤にして視線を逸らされてしまった。


 そして、このハッピーディイベントは午後7時から午後9時までネッチューブで生配信されるらしいが、実は開場前の5時半くらいにオオマルTV(ローカルTV)のリポーターから今日のハッピーイベント情報の1つとして取り上げてもらっている。


 ゆうたち『ふぉーいあーず』の48人がインタビューを受ける中、俺たち『武装女子』はその後方で背中を向けて立っていたんだよね。気づいた人いるかな……


「それじゃ〜、歌に行く前にちょっとだけ審査員の人たちをみんなに紹介するね〜」


 え? ここで紹介するの? サプライズじゃないの? ツク、チコ、サリ、ナコも俺と同じようなことを思ったのか複雑そうな顔をしていた。

 ナコだけは俺を見て頷いたところを見るととまた思考が漏れてしまったらしい……鍛錬してるんだけどな。まだまだか。


 そう思いつつもマサカ社の人たち3人が立ち上がり、ゆうが紹介していく。その様子はステージの横にあるスクリーン型のモニターに映し出されていた。 


「まずは私たちの先輩である……」


 ——あら。


 スーツ姿だから社員さんかと思ったら同じマサカ社所属で今テレビドラマなんかで活躍されている女優さんたちだった。あぶないあぶない。テレビ見てないから何も知らずに挨拶したら失礼にあたるところだった。


 女優さんたちがゆうの紹介に合わせて頭を下げていくので、俺たちは会場(後方)からの大きな拍手に合わせて拍手する。


 女優さんたちがちらりとこちらを見た時に顔が少し見えたけど拍手に照れてて可愛いかった。見た目は大人っぽいのにね。


「次に……」


 オオマルTV局の関係者は……あれ、リポーターの人たちだった。

 1人は先ほど報道してくれた人で、後の2人はあとから来た人た(この人たちもリポーター)。オオマルTVの放送番組を見ている人たちなら絶対に見たことある人たちなのだろう。

 拍手と歓声がすごい。人気のあるリポーターさんたちなのかも。俺たちも合わせて拍手をした。


「次は……」


 次に立ち上がった3人は『ふぉーいあーず』のファンの方たちだった。抽選で選ばれた人たちらしい。いいなぁ〜という声も聞こえたが無難な紹介に拍手を受けてすぐ着席していた。もちろん俺たちも拍手をしたよ。


「ふふふ、次は……」


 そして俺たち、立ち上がりスクリーンに映し出されると同時に歓声と共にきゃーという黄色い声が上がる。

 タケトく〜んと俺の名前を呼ぶ声や、チコちゃ〜ん、ツクちゃ〜ん、サリちゃ〜ん、ナコちゃ〜んと呼ぶ声もあった。


「なんで……」


 どうやら俺たち『武装女子』が審査員席に座っていることはすでにバレていたらしい。


「あれ〜? みんなにサプライズのつもりだったのに〜」


 ゆうがちょっと不満そうに会場のみんなに言えば『ありがとうございます』と返事する現金な観客たち。


 しかし、こんなに歓迎されると流石に照れるものがあるけど、さて、みんなは……あら、みんな慣れてないから顔が真っ赤で……足が震えているじゃないか!?

 これまずいかも思い咄嗟にリラクセーションをちょっと使ったらみんな落ち着いた。よかった。


 ゆうの紹介に歓声や黄色い声で応えてくれた観客席のみんなに頭を下げて俺たちは着席した。


「ふう〜バレててびっくり」


「うん」

「だね」

「はい」

「ん」


 他の審査員の皆さんに俺の呟きが聞こえたらしく、くすくすと笑われてしまったが(変な笑いではない)、会場はイベント開始から盛り上がり割といい雰囲気の中でハッピーディイベントは始まった。

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