第62話 二章
バンド名は『武装女子』に決まった。ネッチューブのチャンネルもバンド名の『武装女子チャンネル』。
オンラインゲームをする俺からすればカッコいいから全然オッケーだけど、いいのかな、これってみんなのチャンネルで、女の子からすれば武装なんて言葉はあまり使わないんじゃない。
……でもまあ、バンド時はみんな男装スタイルでいくと決めたみたいだからこれでいいのかも……
ちなみにこのバンド名は候補の中の一つにあった男装女子という名に俺の名前を入れて決めたらしいと今朝グループチャットで教えてもらった。
グループチャットを見たネネさんと香織さんも「いいと思う」って褒めていたくらいだから女子受けもそこまで悪くないのかも。
このグループチャットも昨日のメンバーで作ったもの。バンドに関することはグループチャットの方が連絡ミスもないだろうからって。
「あ、スタジオで撮った動画、もうアップしてる」
この武装女子チャンネルは彼女たち4人が管理者で俺は閲覧者扱いにしてもらった。
管理者は全コンテンツの表示、権限の管理、ライブ配信、コンテンツの作成、編集、削除ができる。
閲覧者はすべてを表示できるが、作成、編集、削除といった操作はできない。
本当は俺も管理者になるように言われたけど、一度やらかした俺だ。どこかで天狗にならないもと限らない。同じ轍は踏みたくないんだ。
ということを言ったら条件を出された。名前を呼び捨てで呼んでくれるならって。さん付けだと他人行儀すぎる、わざと距離を取ってる気がするって。なかなか鋭いことを言われた。
この世界、男女関係に関しては俺自身が自制しないと大変なことになりそうだと思ったからブレーキをかける意味でさん付けで呼んで程よい距離を保っていたんだけどバレていたようだ。
でも突然呼び方を変えたらクラスメイトの子たちはびっくりするだろうと思ったが、その辺りのことは任せてって委員長のさおりが言ったから任せることにした。副委員長のななこも親指を立ててたから大丈夫だろう。
そうなると香織さんも香織って呼ばないといけないけど、香織さんは香織さんのイメージが強いからなかなかハードルが高かった。
恥ずかしいけど頑張って香織って呼んだら香織も顔を真っ赤にしていたね。呼ぶ方も呼ばれる方もダメージ受けてて思わず笑っちゃった。
ネネさん? ネネさんはネネさんのままって言ったら拗ねられたのでネネって呼ぶことに。呼んだらしょうがないわねって顔してて、ちょっと可愛いいと思ったことは秘密にする。
——そういえば……
マサカ社のアイドルグループ『ジャニュアリー』のメンバー、ゆうに、あいに、みいに、しぃは始めたから呼び捨てだった。彼女たちは年下だし女性として意識してなかったからノーカウントでいいよね。
確か来月ライブやるからゲストで出てくれってそんな内容のMAINも届いていたっけ。
グループチャットで確認とったらみんなオッケーだったのですぐに日時が決まったら教えてって返した。つくねが二曲目できてるって言ってたし早く練習もしないとなぁ。
ピンポーン!
「香織さん……かな?」
クセってなかなか抜けないね。意識しないとつい香織さんって呼んでしまう。
さすがに昨日は告白されたからと言って香織さんがウチに泊まることはなかった。なんならお婆様とお母様、叔母様に早く報告したいと急いで帰ったくらいだし。
俺も挨拶に行かないとなぁ……と思うけど、この世界の一般的な男性は、男性から挨拶なんてしないし行かない。逆に女性側の親族が挨拶に来るのが常識っぽい。成人した時にそんなことをお母さんが言ってた。
俺は前世の記憶があるせいか、ちょっと落ち着かないんだよね。
昨日のウチに香織からMAINがきてお婆さんとお母さんは泣いて喜んでくれたって教えてくれたから。そこまで喜ばれると逆にプレッシャーを感じて、ちゃんとしなきゃって気になる。
すぐに落ち着くんだけど、リラクセーションを使えると認識してからは、ずっとこんな感じ。リラクセーションはすごく助かる。
「え!?」
モニターを見てびっくり。香織だけじゃなくてお婆さんにお母さん、あと叔母さんだったっけ、それにもう1人いるけど誰だろう。
急いで門扉までお出迎えして中に入ってもらった。
「突然お邪魔して申し訳ないねぇ」
ソファーに腰掛けた香織のお婆さんがそう言って頭を下げた。
後で知ったけどお婆さんは75歳。でも見た目は念力という不思議パワーのお陰で60歳手前に見える。念力量が多い人ほど老化は緩くなるらしい。
ちなみに香織のお母さんは50歳だけど40歳くらい。叔母さんはお母さんの妹さんで48歳だけど、香織のお母さんと同じくらい。
孫から報告を受けて嬉しくなって、すぐに動ける方だけを連れて挨拶に来たそうだ。お母さんと叔母さんともう1人は子会社で副社長をしている香織の妹さんだった。
「はじめまして武人くん。私は妹の詩織です」
「こちらこそ初めまして剛田武人です」
立ち上がって頭を下げればびっくりしていた。お母さんや叔母さんは「ね」と意味深なことを言って笑っていたけど、普通じゃないって言いたいんだろうな。
男なのに学校に行ってるし、普通にあちこち出歩いているし、ネッチューブにも出演してるし、ライブだってやったから。
「お婆様、お母様、叔母様、詩織」
俺の代わりにお茶を出してくれたのは香織。手土産でもらった和菓子をそのままお茶に添えた。
この世界では手土産で持ってきた物を一緒に食べる方が礼儀だったっけ。これ学校の授業で習った。行っててよかったよ学校。
そのあと香織は俺の隣に座った。みんなが嬉しそうに頷き、香織が顔を真っ赤にする。仲が良さそうで良かった。
それからは香織が俺の家に住むことを許してほしいとか、食事会を開くからそれに参加してほしいとか、色々と話し、最後にシンプルな指輪と細い金属の棒を丸く整形したタイプのブレスレットを香織のお母さんがテーブルの上にそっと置いた。
「武人さん。香織をお願いします」
この世界に結婚式という儀式は存在しない。女性側から男性に腕輪が贈られて女性は左手薬指に指輪をするだけ。複数身につけることになる男性が指輪だと指が大変なことになるからブレスレットになっている。
最もそのブレスレットを嵌める男性はあまりいないそうだが。
俺が香織にその結婚指輪を嵌めてあげて、香織が俺の左手首に野原家の家紋が小さく入ったブレスレットを嵌めてくれた。
あとは役所から戸籍担当職員に来て貰い、職員が持参した書類に2人で自署捺印すれば正式な夫婦として認めてもらえる。
挨拶に来たと言ったわりには準備が良すぎて思わず笑いそうになったが、
「うむ」
お婆さんはそんな俺たちを涙を浮かべながら見つめてうれしそうに、本当にうれしそうに頷いている姿を見れば、俺としても悪い気はしない。むしろこんなにも歓迎してくれているのだと、うれしい気持ちになった。
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