第52話

 お昼休み、クラスメイトが作ってくれたお弁当を美味しくいただく。今日は大人しそうな雰囲気がする安藤さんが作ってくれたらしい。ありがとうございます。お母さんじゃなくて自分で作っているのかな、失礼になるから聞かないけど、この唐揚げすごく美味しい。サイコーだよ。


 不安そうに俺の方を見ていた安藤さんもホッとしたのかやっと自分のお弁当に箸をつけていた。大丈夫。みんなにお弁当を作ってもらってる身だから感謝しかないよ。つい親指を立ててしまった。安藤さんの顔が真っ赤に。ごめんね、カラかったわけじゃないよ。隣の茅野さんも「いいな〜」と言いつつも安藤さんの脇腹をつついて、脇腹を隠す安藤さんの反応みて絶対遊んでるよね。


 たまにメンバーが変わるけど、この20人くらいからなるお弁当仲間グループ(心の中で勝手にそう呼んでる)。最近はみんなもお弁当を食べながらおしゃべりをするようになった。ホントよかった。

 つい最近までは俺に遠慮しているのか、おしゃべりもボソボソって感じだったから……


 しかし、作ってもらってばかりはさすがに申し訳ないので、なんらかの形でお礼をしないとな〜、今のところ思いつかないけど。


 一巡するまでに1ヶ月くらいはかかりそうなので、時間には余裕があるけど、はたして、俺に都合のいいこのような状況が1ヶ月先も続いているのがどうか。

 先のことだから考えてもしょうがないけど。今さらパンには戻りたくないな、その時は自分でお弁当を作ろうかな。


「ありがとうございます。とても美味しいかったです」


「は、はい」


 空になったお弁当箱を安藤さんに渡す。

 空のお弁当箱……ホント何様だろうね俺って。思わず苦笑い。

 お弁当代も一度払おうとしたら、みんなからパンを食べてる剛田くんが心配(健康面)だったからで、それに、交代で作るから負担にはならないの。だから気にしないでって悲しそうな顔で言われてしまった。

 それからは、感謝の言葉は必ず伝えるようにしている。


「俺ちょっと加藤先生のところに行ってくるよ」


「そうだったね……ん〜途中までついて行こうか?」


 明るくそんなことを言うのはさちこ(牧野)さん。顔が笑っているからたぶん冗談だろう。


「ありがとう、でも職員室だからついて来ても面白くないよ。じゃあ行ってくる」


 俺が席を立つと、バンドのメンバーはみんなからバンドについて質問されていた。俺が席を外してからとなるとアレかな……


 俺はちょっとだけ歩くスピードを速めた。


 フォークダンスを踊ったからかな? 職員室に行くまでの間、他のクラスの女の子(一年生)から結構話しかけられた。


「剛田くん職員室に行くの?」こんな感じ。「そうだよ」って不思議に思いつつも答えていたけど、よく考えてみれば、みんな一緒に体育の授業受けていたんだから知ってて当然、後になってそのことに気づいた。


 ————

 ——


「剛田くん。今日は悪かったね」


 職員室から進路指導室に場所を変え、加藤先生とテーブルを挟み、向かい合って座ったけど、座った瞬間に先生から謝罪を受けた。


「何のことをおっしゃってるのか分からないのですが……」


 突然のことに戸惑う。どうやら先生は今回の授業内容が、俺に負担を強いる形になって悪かったと思っているらしい。

 俺もできる範囲で協力はするって言ってたからね。ある程度は覚悟していたからなぁ……


 でも、目のやり場に困ったり、女子の身体に触れてセクハラで訴えられないか冷や冷やしたりと精神的には疲れた……と思ったけど意外と平気っぽいしな。


「大丈夫ですよ。俺も今日の体育の授業のおかげで他のクラスのみんなと仲良くなれた気がしますから」


「そう言ってもらえると先生も少し気が楽になったわ」


 元々は俺が念力を授業中に使ったから、そのことで注意を受けるものだと思っていたから、不謹慎だけどちょっとホッとした。


 それから、何か困ったことはないか? と聞かれたけど、加藤先生は体育の先生だしな。なんだろう。トイレ? ああ更衣室も欲しいかな。でも男子生徒が俺一人ではどうすることもできないだろうと諦めていれば、加藤先生が校長先生に話を持っていってみると言ってくれた。


 先生の話も終わり教室に戻ればまだバンドの話で盛り上がっていた。


「あ、武人くん」


 みんなにカバー曲は何がいいか聞いていたらしい。そうだよね、早く決めないと練習できないもんね。俺は歌もそうだけど念力の制御も頑張らないとな……


 放課後はスタジオにみんなで行って練習した。クラスメイトの何人かが見学に来たいと言ったけど、今日はネネさんがスタジオに来れないらしいから今回は見送ることに。俺たちのスタジオじゃないからごめんね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る