第51話
模擬店は他の学年やクラスとの調整が必要になってくるので希望だけ。第一希望がクレープ店、第二希望がホットサンド店、第三希望がフライドポテトとミニ唐揚げ店だった。
ちなみに俺の頭の中にあった(考えたけで言ってない)たこ焼きやお好み焼き、焼きそばなんかは少数意見。運動部の子たちかな、ちょっとがっかりしていた。
4限目は体育。今回はいつものA組B組合同とは違い、一学年合同になった。たぶん今後、体育の授業は俺が参加する曜日のみ一学年合同となるらしい。
1限目の学活の終わりに新山先生から呼ばれて聞いた。
反応に困るところだけど、みんな俺(男性)と一緒に授業を受けたいらしい。これは前に先生から聞いていた。
そして俺も、俺にできることなら協力すると言った記憶があるから、もう少し先の話になると思ったけど、早かったね。ぐらいの感覚だ。
体育になった理由は、他の教科だと教科担任によって授業内容や進み具合が異なるため俺が他のクラスで授業を受けることがむずかしいと判断された。
その点、体育の授業はというと、加藤先生が一年生全体を見ていてそのような問題もなく、とても都合が良かったらしい。
俺としても一人で他のクラスに行って授業を受けるよりは、みんなが体育館や運動場に移動してから受ける体育の授業の方が気が楽なのでありがたい。
今回も体育館の倉庫で着替えて運動場に急ぐ。
——え!?
予鈴が鳴ったばかりなのに、クラス毎に分かれたみんながすでに並んでいて、そこを横切った時にはかなりの視線を浴びた。
「遅くなりました、すみません」と軽く頭を下げて自分のクラスの一番後ろに急いで並んだ。
授業のチャイムがなると加藤先生がみんなの前に立った。ちなみに加藤先生も俺が来る前に来ていて、たぶん自分が受けもっている部活の子じゃないかな、先生の声はよく通るから後ろにいた俺まで聞こえた。その子たちとずっと部活の話をしていた。
「今日は一年生全体での初めての合同授業になります。そこで今回、まずは親睦を深める意味を兼ねまして男性パートと、女性パートに分かれてフォークダンスをしたいと思います」
え、フォークダンス!? 突然のことに驚いたが、「やった」と喜ぶ声が多くてさらに驚いた。
「踊る曲は体育祭と同じ『ヒク・テア・マタ』です。3回ほど踊れば一巡すると思いますので、そこで男性パートと女性パートを交代してまた3回踊ります。剛田くんだけは男性パートのままですよ」
返事をして頷くと、みんなは早速じゃんけんをする。勝った人が女性パートで負けた人は男性パートに。「うおー」とか「とりゃ」とか、すごく気合いの入った声が聞こえてくるが、聞かなかったことにしよう。
「た、武人くん、よろしくお願いしましゅ」
俺の初めのパートナーは委員長のさおりさん。少しは俺に慣れたはずなのに手を繋いだら、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それから円になるまでゆっくり歩き加藤先生が曲を流せばフォークダンスが始まりみんなが一斉に踊り出す。
♪〜
————
——
♪〜
男性パートと女性パートが交代するタイミングで一度休憩を挟み、ようやく3回目に入った。
——あともう少し。
そう思うのは、フォークダンスを踊る祭、みんなの距離がかなり近くて、意図せず、彼女たちの身体に触れてしまうことがあり冷や冷やの連続だからだ。体力的には全然大丈夫なんだけど精神的な疲労が……
——ん?
次の子は……よく覚えている。徒競走で一着になり等賞旗を渡そうと近づいたら、俺から等賞旗を奪うように取りキッと睨んできた子だ。
「ごめんね」
彼女の両手に触れてしまうので先に謝っておく。けど、それは無意味に終わり、手にに触れた瞬間にキッと睨まれてしまった。
顔も真っ赤。これは相当ご立腹なのだろうと思った瞬間、突然彼女が俺の方に倒れてきたので、咄嗟に背中から抱きしめる。
「大丈夫?」
返事がない。彼女はなぜか意識を失っていた。本当はダメだけど、こっそりヒーリングをかける。
「ん、んん……」
すぐに気がつき彼女と目が合うが、
「ふぁ、たけときゅん」
また意識を飛ばす彼女。え、どういうこと? もう一度ヒーリング。
「ん、んん……」
今度こそ意識を取り戻した彼女だけど、赤みが残る顔でポーっとしていて大丈夫か心配になる。
「大丈夫、自分で立てる?」
「夢で武人くんに会えたよ。うれしいね」
支えていた手を離そうとしたら逆に抱きつかれてどうしようか迷うが、周りがざわつき始めたので、これはまずいと思い、未だにポーっとしている彼女にリラクセーションをかける。
「はっ!」
リラクセーションは正解だった。ポーっとしていた彼女の目に力が戻り再びキッと睨まれる。
睨まれて嬉しくないはずなのに、今はその方が助かる。
「ふう」
文句の一つでも言われるかと思ったけど、意外にも彼女は俺を睨んだまま頭を下げた。
その後は特に問題なく体育の授業を終えたが、先ほどの彼女は数人の女子から囲まれていたよ。
それで、俺はというと、念力を使ったことが加藤先生にバレていて昼食後に職員室に行かないといけなくなったよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます