第50話

 昨日は次にお邪魔するネッチューバーさんと遅くまでやり取りしていたからちょっと眠いけど、ミュージックンを聴きながら歩けば眠気も飛ぶ。


 ♪〜


『君の側で』を口ずさみながら歩いていると、不意に男装したみんながポーズを決めている姿を思い出す。


 ふふ。


 鮎川さんがスマホで撮ってくれたけど、みんなが男子に成りきってて面白かった。


 女性カメラマンが表情を引き締めてって言ったら、みんな意外とノリが良くて、すぐにキリッとした表情をしてポーズを決めていた。


 学校ではみんな、女の子女の子してたからそのギャップでつい笑いそうになった。今でも思い出すと笑みが溢れる。


 おっと。いけないいけない。あ、すれ違った女性(複数)から二度見されてしまった。これは変な人だと思われたな。


 地味にショックを受けつつトボトボと歩けば校門に着いていた。


「剛田くん、おはよう」


「先生おはようございます」


 いつも申し訳ないな、と思いつつも先生と並んで教室に向かう。先生無理はしないでね。


「ふふ、無理はしてないから大丈夫よ」


「……どうして?」


「剛田くんは顔に出るから」


「え」


 そうなのか、これは気をつけないと。


「ふふ」


 先生と歩きながら思ったけど、俺は文化祭でバンドをすることにしたけど、これは文化祭の二日目にあるバンドフェスティバルでのこと。

 クラス(一年A組)では何もしないのだろうかと。


「もちろんやりますよ。そうですね、ちょうど今日の1限目が学活になってますからその時に話し合ってもらいましょうか」


 文化祭を通して、生徒の自主性や協調性を養うのが目的だから先生からあれこれ指示を出すことはないそうだが、毎年、来場者が多いため先生も生徒も気合いの入れようが違うのだとか。

 特に演劇部やバンド出場者。なんでも芸能関係者がみえたりするからそういった道を目指している者からすれば自分を売り込むチャンスなのだ。


 へぇ……


「分かりました」


 しばらく歩いていると、今度は先生がどこか落ち着きがない。俺の方をちらちらと見て来る。不思議に思って見てると、


「ご、剛田くん。先週、念力の授業がありましたけど、その、どうでしたか?」


 そういうことか。先生かなり心配していたもんな。


「はい。楽しかったですよ。知らなかった自分の能力にも気づけましたし」


 能力先生はちょっと変わってましたが、そのお陰でバンドもどうにかやれそうだしね。


「そう。それなら良かったわ」


「はい。あ、これが俺の念力の能力ですね」


 本人証明カードの裏面を先生に見せる。

 ——————————


 念力量 高

 念動1

 念体1

 念出1

 特殊

 テレポート10

 テレパス10

 ヒーリング10

 リラックセーション10


 ——————————

 検査結果を反映させたから本人証明カードにも詳しく載るようになった。


 驚いた先生は、すぐに俺の本人証明カードに右手をあてて隠した。


「剛田くん。これはあまり人には見せない方がいいわ」


 そう言った先生はヒーリングを指す。病気や怪我を治せるこの特殊能力は珍しく貴重。テレポートも珍しいけど、自分しか飛べないからそこまで貴重な扱いではない、と先生が言う。


 おかしいな、俺のテレポート、感覚としては誰か一人くらいなら一緒に飛べそうな気がするんだよね。


「すみません。先生だからいいかと思って、次から気をつけます」


 それからすぐに特殊能力の部分だけを非表示にして本人証明カードをしまうと、それを見た先生が鷹揚に頷く。


「いいのよ。それだけ剛田くんは先生のことを信用してくれているのよね。先生うれしいわ」


 先生が感動して目元の涙を拭っている。あれ、先生は生徒の情報を本人の許可なく話せないような誓約書を書かされているんだよね? それでも見せない生徒は見せない? そうだったのか、知らなかった。俺は見せていた方が的確な指導が受けれそうだから良いと思うんだけどな……


 そんなことを話していれば教室まであっという間だった。


「はーい。皆さん席に着いて」


 先生が教室に入り教卓の前に立ち、俺もすぐに自分の席に着く。


「「おはよう武人くん」」


 すぐに両隣のつくね(霧島)さんとさちこ(牧野)さんから小声で挨拶されたので俺も「おはよう」と小声で返すが、彼女たちのキメ顔がチラつき危うく笑いそうになる。危ない危ない。


 朝のホームルームで終わり、1限目が始まると委員長と副委員長が前に出て文化祭での出し物についての話し合いが始まった。


 ————

 ——


 飲食物の販売(模擬店)やお化け屋敷、迷路にカフェなどの意見が多く、少数意見は演劇やダンスにファッションショーだった。


「たけ……剛田くんはどうでしょうか」


 おっと、みんなの話に耳を傾けていれば、委員長のさおり(君島)さんから意見を求められてしまった。


「えっと、お化け屋敷に興味がありますが……俺は模擬店かカフェがいいですね」


 理由はバンドの練習があるから。本当はお化け屋敷をしてみたいけど色々と時間がかかりそう。それだとバンドの練習ができないし、みんなにも迷惑をかけてしまうからと先に謝っておく。


 すると今度は俺たちのバンドの衣装を作りたいという声が上がったり、模擬店とカフェとで意見が分かれたりと、大変だった(委員長と副委員長が)。


 結局最後は、当日交代ですれば自由な時間がとれる模擬店をすることになった。みんなも当日は楽しみたいようだ。


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