第48話
「ねぇ武人くん。武人くんってモデルもやってるの?」
初耳だよと驚くさちこ(牧野)さん、だけじゃなくみんなも目を見開いている。
「いや、鮎川さんに頼まれて一回やっただけだから」
一回だけモデルして俺モデルやってるんだ、なんて言える訳ないよ。そういえば、香織さんにはポスターをあげたっけ。
「その一回の反響が驚くほど凄かったんです」
その時は話題になればと軽い気持ちで俺に声をかけたそうだ。そしたら思いのほか反響があり、ちょっと調子にのって新作をいくつか出したらしいけど、それが全く売れなかったそうだ。
自分がモデル一本で生活していた時はここまで大変だとは思ってなかったと暗い顔をしたが、それでも自分のブランドや店を持つことは夢だったから後悔はしてないんだけどね……と続ける。
——夢か……
前世思い出してから毎日が忙しくて、考えたこともなかったな……そうか、夢なのか……
「分かりました。俺でお役に立てるのなら、いいですよ」
「本当! ありがとう武人くん。じゃ早速行こうか」
ちょ、ちょっと鮎川さん。引っ張らないで。っていうかご飯食べに来たんじゃないの? ん? 食べ終えた後でドリンクバーは7杯目? あと2杯はいける。そうですか……じゃあちゃちゃっと飲んでください。みんなはここで……え? みんなついてくるの。じゃあみんなで行こうか……
————
——
「あら、武人くんじゃない! いらっしゃい」
鮎川さんの店に入るとすぐに奥へと通されたが、その奥で待ち構えていたのが前回俺に化粧を施してくれたショカさんと撮影チームのみなさん。
ショカさんは服屋さんだけにふくよかな人……ふふ。
ななこさんが俺を見て頷く。おや? もしかしてななこさんってテレパスとかつかえる? 今度は親指を立てたななこさん。
なんと! 俺の心の声はななこさんにダダ漏れだった?
「うーんちょっと違うかな。武人くんが送ってきた言葉だけしか聞こえないよ」
俺が伝えたいと思った言葉だけってこと……
「そう」
いや、今伝えようと思ってないけど。
「テレパス持ってる者同士だとたまにそう言うことあるよ」
「そうなんだ」
あれ、でも俺はななこさんの声聞こえないけど……
『武人くんすき……』
え? ななこさんから何か聞こえてきたぞ。でもその声よりもその内容の方が気になる。
慌てて振り向けばななこさんが可愛らしくピースをしていた。
「ななこさん……」
「うん、すき焼き食べたいって念じた。聞こえたでしょ?」
なかなか便利だよねと言いつつにこにこしている。
「……ちょっとだけ」
あ〜びっくりした。
「今度みんなで食べよ」
「そうだね。でも俺はもっと寒くなってからの方がいいかなっあれ? みんなは」
ななこさんとテレパスの話をしていたらみんながいなくなっていた。
当然ななこさんもきょろきょろと辺りを見渡しているが、ショカさんがどこからともなく顔を出して手招きする。
「こっちよ」
それから前回と同じく、眉毛を綺麗に整えられて、お化粧を薄く塗られて髪をセットされた。
準備されていた服は新作らしいけどちょっと地味に感じるものの着心地は悪くないな。
「「「「武人くん」」」」
新作の服を着て写真を撮り、また新しい服に着替えて写真を撮る。そんなことを何度か繰り返していると、誰かが俺のことを呼んだ。
——ん? 誰?
知らない男の子と思ったが、よく見たらつくねさんと、さちこさんとさおりさんとななこさんが男装した姿だった。
つくねさんとさちこさんはふんわりかわいい感じの男の子っぽく。さおりさんとななこさんはキリッとしてカッコいい感じの男性っぽく。化粧されて大変身していた。
4人ともお胸があるから女性って分かるんだけど、下手な男よりもモテるんじゃないかな。
「すぐにわからなかったよ……みんなカッコよくなってるね」
「きゃ」
「細マッチョ」
「武人くんの裸」
「おお」
突然4人が鼻を押さえ身体を後ろに向ける。
——あ……
更衣室に戻り着たり脱いだりが面倒になり撮影現場の隅で着替えていた俺。みんなと話しながらも無意識に上着を脱いでいた。
「ごめんごめん。更衣室に戻るのが面倒になってここで着替えてたんだ」
「わ、私たちは別にいいんだけど」
と言いつつ、ちらちらとこちらを見てくる彼女たち。
「武人くん、今度は彼女たちみんなと一緒に写真撮ろうか……きゃっ」
そこへ鮎川さんがやって来たかと思えば俺の方を見て倒れてしまった。あ〜そういえば鮎川さんは前回も倒れていたっけ。
まあ、色々とハプニングがあったけど無事に撮影を終えた。時間にしてやっぱり4時間くらい。
前回よりも楽に感じた(体力的に)のはみんながいたからだろう。その彼女たちはぐったりしているけど。
男装した彼女たちとの撮影もいい思い出になったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます