第43話

「今日はよろしくお願い致します」


「こちらこそよろしくね」


「よろ」


 今日はあかね色々チャンネルさんにお邪魔している。隣の県だったので朝が早くて大変だったけど無事に到着。

 でもここって沢風和也くんの地元でもある。駅ですれ違う女性のみなさんの俺を見る目がちょっと鋭く感じたのは、たぶん気のせいではないはず。

 地元だけに彼は人気者なのだろう。彼のポスターを駅内でも結構見かけるけど、きょろきょろ周囲を気にしていた女性に剥がして持っていくという現場も目撃したし。


 それで、今俺の目の前に腰掛けているのが西条葵(さいじょうあおい)さんと西条朱音(さいじょうあかね)さんで、2人は姉妹でネッチューブをしているようだ。


 両親とは社会勉強のために別居しているって言うけど、すごいよここ。超高層マンションの最上階。

 お姉さんの葵さんが駅まで車で迎えきてくれて案内されたのがここだった。


 お姉さんは腰まで伸ばした黒髪にはゆるふわパーマがかかっているモデル体型の美人さん。高そうなワンピースにカーディガンを羽織っている。


 一方、妹さんは、お姉さんよりも少し身長が低いが横幅が結構ある。所謂、ぽっちゃりさんで顔にもお肉がついていて髪はツインテールにしている。

 かなり暑がりらしくよれた半袖Tシャツにダボっとした短パン姿だ。歳は俺と同じか少し上くらいかな。


 うーん、なんか親近感湧くね。ちょっと前の自分の姿を思い出してしまったよ。


 ゲームのプレイが妹さんで撮影や編集をお姉さんね。


「えっと、アニメ調のどうぶつキャラを操作してゴールを目指すゲームですか」


 『走ってアニ丸くん』と言うらしい。てっきりいつも、あかね色々チャンネルさんが配信しているファーストパーソン・シューティングゲームの『モウ・コナイデット』かと思って練習していた俺としてはちょっと拍子抜け……


「はい。今度ウチの会社が発売する新作ゲームなんです」


 へぇ、最新ゲーム機であるファンプレイ6のソフトになるらしいよ。

 妹の朱音さんは顔出ししていないが、今回は3Dアバターを使って参加するそうだ。


 早速俺と朱音さんは両腕、両脚、腰にセンサー付きのベルトを巻いてテレビの前に立つ。デモ画面を見てると、これはアクションゲームだね。


「朱音ちょっとやってみて」


「分かった」


 あかねさんが先にやるらしい、と思っていたら二人同時プレイを選択した朱音さん。


「やろ」


「え、はい」


 お姉さんは苦笑い。 予想外だったようだ。


 俺は二足立ちしているウマ(ヒヒンベイ)を選ぶと、あかねさんは二足立ちしているライオン(アニ丸)を選んだ。

 人参を齧っているぬいぐるみのウマに、これまたぬいぐるみのライオンが、がぉーと叫んでいる。可愛いだけで、迫力はない。


 ——あれ……


 これって操作するキャラはかわいいけど、ゲーム内容はかなりハードだ。歩くときはその場で歩き、走る時はその場で駆け足、ジャンプだったその場で飛び上がる。


「はあ、はあ……」


 朱音さんはお胸やお腹のお肉を揺らしながら走っているけど、すでに顎が上にあがり苦しそう。


「朱音さんハートボックスあるけどいる?」


 ハートボックスは下からジャンプして叩くと体力が回復するアイテムだったり、パワーアップするアイテムだったり、プラスになるアイテムが出てくる。


「はあ、はあ、いらない」


「朱音さん1アップ人形」


「はあ、はあ、いらない」


「朱音さん……無敵アイテムが」


「はあ、はあ、いらない」


 朱音さんはただただまっすぐ走るだけで精一杯の様子。

 そんな時小石が迫ってくる。横に避けるかジャンプして飛び越えるかしないといけない。


「はぁふぅ、はぁふぅ……」


 朱音さんはジャンプがつらいらしく横に避けたが、ふらふらとして倒れそうになったので慌てて抱きしめる。


「大丈夫?」


「大丈……あ! 私汗臭い」


「そうなの? 俺も汗かいてるからわからないや」


 それからゆっくりと身体を離しふらつかないことを確認してから離れる。


「ありがとう」


 俺たちが立ち止まるとすぐにウマとライオンはやられてしまっていた。


「ちょっと休憩しようか」


「分かった」


 お姉さんの葵さんが準備していたお茶菓子をいただき、まったりしてからもう一度撮影。それから2回ほど休憩を挟んで撮影が終わった。

 朱音さんへろへろになって今は座り込んでいるけど、最後まで頑張ってて意外と体力があるんだね。


「今日はありがとうございます」


 お世辞かも知れないけど、いい動画が撮れたと言ってくれたのでホッとする。


「いえ、俺も楽しかったですから。あ、でも朱音さん、今度は『モウ・コナイデット』一緒にしましょう」


「うん、分かった」


 2人から握手を求められたので握手をしてからマンションを出けど見送りにマンションの外までついてきてくれるとは思わなかった。


 2人が見えなくなったところですぐにテレポートで帰った。


 ——?


 MAINにメッセージと画像が届いていたので開いてみれば君島さんだ。気づかなくてごめんね。


 俺だけ都合が悪くて行けなかったけど、みんなは早速スタジオに行ってみたようだ。

 送られてきた画像にはお店の人とみんな、それに香織さんが写っていた。







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