第41話
初めて念力の授業を受ける剛田のことが心配だった担任の新山は、念力の授業が終わるとすぐに教科担任の能力(のうりき)を捕まえていた。
「え、ヒーリングとリラクセーション?」
「ええ、あの子、僅かに念力を発動させていたからちょっと調べたのよ」
「僅かに発動してたの?」
「ええ。能力を確認する時に、たまたま彼の肩に触れる機会があって、その時に気づいたの」
「たまたま彼の肩に触れた?」
訝しげな目を向ける担任の新山。能力(のうりき)とは同期であり、それが彼女のウソだと分かっている。
男とみればすぐに接触を図り関係を持ちたがる能力(のうりき)。手癖が悪ければ酒癖も悪い、散々振り回されているから分かることだ。
「たまたまだからそんなに怖い顔しないの。小皺が増えるぞぉ」
「あなたが、そうさせてるんでしょ!」
「まぁまぁ、それよりも剛田くんのことよ。剛田くんはたぶんヒーリングかリラクセーションを無意識に使っているんだと思うの」
「はぁ、納得いかないけど、まあいいわ。でも剛田くんの特殊能力は4つあったのよね。それで、どうしてヒーリングかリラクセーションの2つって言い切れるの? それに、仮にそうだとしても念力だって途中で尽きて倒れてしまうわよ」
「ふふふ。それはね……」
あぐまでも私の憶測だというがかなり自身ありげに語る。
ヒーリングについては、彼が念動を使い物体を動かした範囲が現時点でも才能レベル1ではあり得ないレベル7相当であることを話し、彼はクールタイムがないもののように扱っていたことを話す。
クールタイムとは、念力を使用した際、念臓器が疲弊する。これを再び使用できる状態に戻す休息の時間であるが、剛田くんの場合はその念臓器にヒーリングをしているから疲弊しない。だからクールタイムなしでの使用が可能になっている。
リラクセーションについては、剛田くんは他の男性に比べてかなり落ち着いていること。
また、女性ばかりの学校に通うことは16歳の男子からすれば精神的にもかなり辛いものだろうと思われる。
それなのに週一日から週三日に登校日を増やしている。これは無意識にでもリラクセーションを使い常に精神(心)の安定を図っているから可能になった。
「……こんなところかしら」
ドヤ顔で語る能力に腹が立つが肝心なことをまだ聞いていない。
「消費念力についてはどうなるのよ」
「それも簡単なことだね。あの触れた感じからも剛田くんは自分でも自覚できないほどの僅かな念力しか使用していないのよ」
「そんなことが……いえ、まだそうと決まったわけじゃありませんが、とりあえず校長に報告だけはしておきましょう」
「そうね」
————
——
授業が終わり自宅に帰ってきたが、今日は一人ではない。
「お、お邪魔します」
「お邪魔します」
「失礼します」
「失礼します!」
みんなが楽器を持って俺の家に来たのだ。楽器は学校で貸し出ししているのでそれを借りたらしい。
申請を出すのが遅くて型が古いモノしか残ってなかったと嘆いていたが。
でも念体ってすごいね。
小柄な霧島さんでさえ軽々とキーボードを抱え、霧島さんより少し背が高いくらいの牧野さんも携帯できる電子ドラムを苦もなく運んでいる。
君島さんと深田さんはギターとベースを肩から下げているだけだから……なんか似合うな。2人ともスラリとした美人だからか。
一応俺はみんなのカバン持ち。遠慮されたけど、さすがに楽器と鞄を持って歩くのは大変だからね。ちょっと強引に預かることに。
さて、どこで練習をしようか、帰り道、ずっと考えていたけど音漏れなんかを考えると、
「やっぱり地下シェルターかな」
地下シェルターと行ってもリビングくらいの広さがあるから5人で使っても全然大丈夫。
「そっか、シェルター内なら音漏れの心配もないね」
「そうだね」
牧野さんがきょろきょろと部屋の中を見ながら隅の方にドラムを置き、霧島さんもドラムから少し離れたところにキーボードを置いた。
「へ、へぇ、地下シェルターってこんな感じなんだ」
君島さんはどこか落ち着きがなくきょろきょろとする。深田さんは……すでにソファーに腰掛けてベースのチューニングをしていた。おっと、ちょっと下着が見えそうだから、正面に立つのは避けとこうかな。
うーん、どうしようかな。急に決まったからお茶菓子もジュースもない。
「何もなくてごめんね」
謝りつつお茶だけを出した。4人は大丈夫というが、今度はちゃんとお茶菓子とジュースを用意しておくから。
「じゃあ、一度合わせてみようか」
それぞれ音を出して調整。俺もミュージックンを聴いて歌詞や音程の再確認をしていると霧島さんがそう言った。
♪〜
みんなが頷き音を出すと心に昂りを感じる。
——生の演奏……くぅぅっ、すごいな!
俺は霧島さんが準備してくれていた携帯できるミニマイクを持って歌う。ミニマイクかわいい。
ただ気持ちがのってきて、これからというところで演奏が止まる。
「あれ……?」
——ぁ……
4人がペタンと座り込むまでではないが屈んでいる。顔も少し赤い。すぐに香織さんの言葉を思い出し、状況を理解する。理解するが、
「みんな大丈夫?」
「う、うん大丈夫」
「少し休めば大丈夫」
「うん」
「剛田くんごめんね」
大丈夫だと言われてしまうとどうしようもない。こっちからもう少ししっかりと話すべきなのか。
しかし、彼女たちの少し恥ずかしそうにしている姿を見ると軽々しく口にはできない。
「俺のことは気にしなくてもいいよ。それよりも、少し休憩しようか。俺、ちょっと冷たいお茶を持ってくるよ」
今は彼女たちによく冷えたお茶を持ってこようかな。
——あ、そうだよ、
お茶を準備していてふと思いついた。リラクセーションを使ってやればもっと早く落ち着くのではないかと。使ったことないけどきっと落ち着くはず。
急いで冷えたお茶を準備した俺。地下シェルターまでゆっくりと運んでいると、
ピロン♪
スマホにMINEメッセージが届く音がした。
——香織さん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます