第39話

 香織さんから伝えられた衝撃の事実。それからずっとどうにかできないかと頭を悩ませているけど、結局いい案は思い浮かばず気づけば金曜日。


 今日は学校に行く日。


 待ちに待った念力の授業に初めて参加できる日でもある。今日もミュージックンを聴きながら登校する。


「先生、おはようございます」


「おはようございます剛田くん」


 今日も背筋をピンッと伸ばした姿勢で先生が待っていてくれた。週一日から週三日になったから大変と思うけど、先生無理してませんか? 


「ふふ。大丈夫よ」


 本当に大丈夫そうなので、先生と並んで教室に向かいながら文化祭の事を少し話す。


「君島さんたちとバンドですか?」


 驚いた顔をする先生。意外だと思ったのかな。


「はい。まだ先のことなのでどうなるか分かりませんけど」


「? そうなの。でも先生は楽しみだな。剛田くんの歌。先生応援してるから頑張ってね」


 みんなが座り込む姿を思い出して思わず苦笑い。


「まあ、はい。頑張ってみます」


 ——ん?


 上履きに履き替え、廊下を歩いていると他のクラスの子がやけに俺を見てくる。二度見している子だっている。


 ——はて?


 いつもと違う反応に不思議に思っていると、


「それは、実はね…」


 先生がその理由を教えてくれた。


 すごく単純な話だった。俺が登校する日が週一日から週三日になったことを他のクラスの生徒はまだ知らなかったから。

 だから今週二回目の登校に驚いていたのだ。


「そうだったんですね」


「そうなのよ。ただね……」


 そこで先生の顔が曇る。


 どうやら、他のクラスの生徒から俺と一緒に授業が受けたいと言うような声がたくさん上がっているらしく、他にも一年A組だけずるいというような声も多いため、もしかしたら俺にも協力をお願いするかもしれないと先生が申し訳なさそうな顔をする。先生も大変だね。


「俺で協力できるところは協力しますよ」


 他のクラスの子も、まったく知らないという訳でもない。休み時間の度にちょこちょこA組に顔を出す子がいたり、体育の合同練習で一緒になったり、この前の体育祭で一着になった子だっているからね。


「そう言ってもらえると助かるわ。ありがとう剛田くん。でも他の先生方と話し合って決めることになるからもう少し時間がかかるかな」


 そんな話をしていればあっという間に教室に着いた。


 ————

 ——


「はーい、みんな席に着きなさい」


 先生の後に続き俺も教室に入ると、やっぱり教室内のざわめきが消え一気にしーんとなる。これ毎回、結構つらいだよね。


 鞄から教科書などを取り出し机に入れていると両隣の霧島さんと牧野さんが俺を見ていて小声で「剛田くんおはよう」と言ってくるが、顔が少し赤くどこか落ち着きがない。


 数日前の帰り際、よそよそしく別れたから気にしてるのかも。香織さんのおかげで理由を知った俺からすれば、逆に申し訳ないくらいなんだけどね。


 そんな後ろめたさもあり二人に笑顔で「おはよう」と小声で返した。


 休憩時間になると、君島さん、深田さん、霧島さん、牧野さんが俺の机に集まってきた。


「ご、剛田くん。バンドのことなんだけど」


「うん。あ、なんか誰がどの楽器をするか決まったんだね」


 昨日君島さんがMINEで教えてくれた。君島さんがギター、深田さんベース、霧島さんがキーボード、牧野さんがドラムなんだそうだ。


「う、うん」


 君島さんは練習場所のことで相談したかったらしい。というのも、計画としては校内のどこか空いている教室を借りて練習するつもりだったようだが、それがどこも一杯で空いてなかったそうだ。


「そっか、他に心当たりは……なさそうだね」


 君島さんが首を振って否定したところに、


「あ、あの。剛田くん家はダメかな……ダメ、だよね……」


 霧島さんからそんな提案が。


 ——なるほど。


 ウチは一軒家で防音もそこそこしっかりしていて音も漏れにくい。仮に少し音が漏れてしまっても隣の家とは少し離れているから迷惑にもならないか。


「そう、だね。うちでする?」


「え、いいの!」

「やる」

「やった」

「いいね」



 ————

 ——



 4限目になり、いよいよ念力の授業の時間。


 場所は実践もあるから体育館で体操服を着ている。体操服がいるのを知らなくて慌ててテレポートで取りに帰ったのは秘密だ。


 みんなは2列に並び、俺はどこに並べばいいか分からないか、とりあえずその隣に立つ。なんだかみんながびっくりしていた。


 そうだよね、男は念力についてほぼ学ぶことをしないから。


 先生は能力(のうりき)先生。先生が俺の方を見て頷くと、


「みんなはいつものように二人組みなってアップをしていてください。剛田くんはちょっとこっちに来てくれる」


「はい」


 みんなが俺の方をチラチラ見ながらも先生の指示し従いアップを始めた。


 ——あれは念動を使ってるのかな?


 ソフトボールみたいなボールを浮かせてお互いの手元まで届けることを繰り返していた。


「剛田くんは……自分の能力(念力の才能)のことは理解してる?」


「ん〜これのことですか?」


 俺は自分の念力能力が載っている本人証明カードを先生に見せる。先生は生徒について知り得た情報は本人の許可なく話せないような誓約書を書かされているから教えても問題ない。


 念力量 高

 念動1

 念体1

 念出1

 特殊10


 特殊意外


「剛田くん、すごいじゃない」


 念力量と特殊才能の高さに驚く先生。男性は念力量も低く才能も高くても5。普通は3〜1くらになるらしい。


 そこで後方からドスンと物が落ちる音が聞こえてきたので、振り返ってみれば、一人がサンドバッグみたいなものを持ち、もう一人の方に向かって放り投げている。

 重そうなサンドバッグみたいものを軽々と投げているのだ。


 ——何これ。


「あれは念体のアップをしてるのよ」


 俺が驚いているのが分かったのか、当たり前のように言う先生。


 才能1の俺が念体を使っても通常の1、1倍の身体強化にしかならず、あんなに軽々しくは投げれないと思う。


「ところで剛田くんは特殊才能はなんだったか調べてもらってるの?」


「いえ、自分で調べてテレポートだと分かりましたよ」


「すごいわね。他には?」


「他? とは……」


「ん? ああ、そうね。特殊才能だけは、その数値が高いと能力を複数使える場合があるの。ちょっと調べてみましょうか」


「は、はあ」


「検査装置を持ってくるから、ちょっと待ってなさい」


 委員長の君島さんに一声かけた能力先生は体育館を出て行った。






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