第28話
お、おお……
次の組のみんなも凄い迫力だ。ほぼ横並び。みんな足速いんだね。これって同着もあるのかな。
「剛田くん、私が1着でした」
2組目の1着は深田さんだった。かなりの接戦だったけど最後にギアをもう一段上げた(そう見えた)深田さんがみんなから一歩抜け出してゴールした。
小さく手を振りながら歩いてくる深田さんはまだちょっと余裕がありそう。
でも2着以下の女子は力尽きて両手両膝を地面につけいる。ほんとに全力を尽くしたみたい。大丈夫だろうか……あ、実行員の方が駆け寄っているから大丈夫だね。
「うん、深田さんが1着だね。おめでとう」
等賞旗を早く渡そうと俺からも近寄よれば、深田さんは等賞旗に触れることなく、
だきっ。
——ん?
なぜか抱きついてきたんだけど。
「深田さん?」
何で抱きついてきてるの? 実行員の人から肩を借りて立ち上がり、よろよろと歩いていたみんなも凄い形相でこっち見てるよ。
「これは。ふふ。1着になってよかった。私、初めて男性の方とハグしました」
1着だとハグ? 等賞旗だけじゃなかったの? 俺何も聞いてないけど……そう言えば、第一走者、1着の君島さんも倒れそうになっていたところを俺が抱きしめて結果的にはハグした形にはなっていた。
——そうだったのか。
これはもう、俺が登校していない間に変更があったパターンですね。
何も聞いてないけど、すでに競技は始まってるし、みんながそう思っているのならこれで通すしかない、か……
「深田さん。そろそろ等賞旗、受け取ろうか」
深田さんはすごく柔らかいけど、そこは気にしないように平静を装いつつ、深田さんの両肩を軽く押すように引き引き離すと、彼女の目の前に等賞旗を差し出す。
「剛田くん、初めて男性に抱きついたけど、とても良かったですよ」
「そ、それはよかった」
「うん」
小さく親指を立てた深田さんは俺から等賞旗を受け取り離れて行った。
その次も、またその次の人も別のクラスの人で俺は初対面だったけど、さすがは接戦の中1着を掴み取った猛者。恥ずかしそうにしながらも、両手を広げてハグはしっかりと求めてきた。
何かの間違いかもって気もしたが、4人も続けば、間違いない。
やはり1着には等賞旗だけじゃなくハグも追加されていたのだ。
でもその次の1着になった人は、別のクラスの人だったけど、
「1着、おめでとう」
「ふん」
俺から等賞旗を奪うように取ってから去っていった。ハグももちろんない。
——なんだ、いまの人は……っ!? いや、違うか。
優しい女性が多いから勘違いしそうに、いや、すでに勘違いしていたが、今までの俺の行いを顧みれば、今の女性の反応も正常であるのだ。
頭では分かっていたつもりでも、俺は知らないうちに調子に乗っていた……
慣れって怖いな。昔の俺もこんなことが続き勘違いしていったんだよな。気をつけないと。
「はあ、はあ、剛田くん、私1着、はぁ、なった」
次の1着はちょっと仲良くなった霧島さんだったが、先ほどのことが頭に残っててテンションが上がらないぞ。
自分で思ってる以上に堪えているのかも。
「あ〜、つくねに負けた」
2着が牧野さん。同じ組で走っていたのか。牧野さんはいつも元気だね、その元気俺にも分けてほしい。
——よし。
心の中で少し気合を入れて、牧野さんたちに合わせるように無理矢理テンションを上げる。
「霧島さん! はい、1着おめでとう」
霧島さんは少し照れくさそうにしながらハグしてきた。先ほどのことが頭に残っていたからちょっとホッとした。霧島さんありがとう。
「牧野さんも2着惜しかったね」
「あーあ、剛田くんからのハグ貰い損ねたよ〜」
「あはは。そんなにいいものじゃないって」
「む!」
そこで霧島さんの手をちょっと強引に引いた牧野さん。2人でコソコソしだす。
でもね2人とも、もう少し俺から離れないと、霧島さんの「よかったよ」って声、こっちまで聞こえてからね。
——ぷっ。
2人とも面白いよ。お陰で沈んでいた気持ちが楽になっちゃつたな。
結局、拒否されたのは一人だけだったが、これはいい刺激になった。
————
——
「うーん」
プログラムは団体競技に学年リレーにダンスと続いているが、どの競技でも、やはりというか目のやり場に困った。
かといって見ていなければ見ていないで、同じ本部席にいる先生方から体育祭は楽しめませんか、と気を遣われてしまう。
でもその先生方も参加する競技があるから体操服なんだよね。なんでジャージじゃないのかな。太ももとかかなり凶器だよ……
「ふう」
いやらしい目で見ていると勘違いされたくないだけなんだけど……
みんな普段と着ている物が違うから色んな所に目がいくんだよ……
ここでは、女性からガツガツ迫ってくることはないが(どこでも例外はいるけど)少しでも男性に興味を持ってもらいたいという気持ちはあるようで、ちらちらとこちらの様子を窺っていたりする。
「剛田くん、髪に埃が……」
「剛田くん。むぎ茶はよかったですか?」
「このタオル使ってください」
だから何かあればすぐに気がつくし、率先してやってくれる。
でも、こういうところが男を傲慢にさせてしまう原因なんだろうな……
「剛田くん。次お願いしますね」
「はい」
二年生の徒競走は一年生よりもすごかった。
みんな真剣で、陸上大会だったっけ? と勘違いしそうなほどの迫力。
1着とって倒れる生徒が続出したのには驚いたけど、みんな限界まで力を出し切ったんだろうね。
急遽、近くに設けてあった休憩所まで俺が抱えていくことになったけど、鼻血出されてさらに悪化させてしまった。先輩ごめんね。
でも無事? に終わってよかった。
そして、昼食は本部席で先生方と一緒に食べれば、次はいよいよフォークダンス。
これは先生も生徒も全員参加。プログラムの進行上実行員の方だけが不参加になる。
それで、俺は三年生の中に混じって参加するんだけど、三年生はどこだ。
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