第27話
放課後、今度の日曜日にある体育祭のことで校長先生に呼ばれた。
「剛田くん、わざわざ悪いわね。あ、そこにかけてください」
「はい。失礼します」
担任の新山先生と一緒に校長室に来たけど、先生は俺の隣に座るんだね。先生が座りやすいように右に少しずれる。
「実はちょっと困ったことになっていてね……」
校長先生の話によると、フォークダンスで俺と踊りたいという生徒が予想以上に多かったのだとか。信じられないね。
当初は三年生で希望する生徒と踊るというものだったが、その三年生たち、学校生活の思い出になるからと、ほとんどの生徒が希望したのだとか。
それですめばまだよかったが、原因は俺のクラス。体育祭で俺がフォークダンスに出ることを他のクラスにも話していて、それが一年生全体から二年生にまで広がったのだとか。
それで今は学校全体の3分の2くらいの生徒が俺とフォークダンスを踊りたいと言っているらしい。
でもこうなる理由はちゃんとある。この世界では、学校行事は全て女性だけで行ってきており、男性と共に頑張り楽しむということが全くなかった。
あるのは漫画やアニメ、小説の中でだけ。だから、女性にとって憧れのシチュエーションの一つになっていたりする。
でもその漫画やアニメなんかは男も普通に見てたりするんだけど、残念ながらなんとも思わないんだよね男は。
「そんなことに……」
「はい。三年生はこれが学校生活最後の体育祭になりますので当初の予定通り剛田くんにはフォークダンスに参加していただいて、踊ってもらいたいのですが、問題は……」
「一年生と二年生ですね」
「はい」
うーん。憧れのシチュエーションか……他の男子生徒が登校してくれれば少しは解決するんだけど、無理っぽいよな。
俺がどうにかできればいいけど、いい案が思い浮かばないんだよな。
「俺が他の競技にも参加するにしても時間がありませんからね。
今回は申し訳ありませんが諦めてもらうしかないんじゃないでしょうか」
来年はもう少し協力できるように頑張りますから。
「そうですよね。それしかないですよね」
「剛田くん」
今まで腕を組みつつ無言で座っていた新山先生が不意に俺の名前を呼んだ。
「新山先生、どうかしました?」
「等賞旗は、徒競走で一着になった生徒に等賞旗を手渡すことに、剛田くんは抵抗がありますか?」
「抵抗はありませんけど……」
なるほど。そういうことか。一着になった生徒に旗を渡すだけでいいのなら俺にもできる……でもな。
「大丈夫でしょうか? たぶん俺から貰うのを嫌がる女子生徒もいると思うんですよね」
悲しいけど、たぶんいると思う。男が嫌いっていう女性もいるとネットで見たことあるし、自分なりに謝ったつもりになってるが、俺は今人気の沢風くんを罵倒しているからね。
彼のファンにも謝ったけど、許してもらってるのかどうか、いや、それ以前に伝わっているのかすら分かってない。
今のところこの学校で彼のファンらしき人物に会ったこともないけど。
あまり考えすぎても暗くなるだけだから、ぼちぼち頑張るつもりだ。
「そんな生徒がいたら参加さ……いえ、剛田くんは心配しなくてもその辺はちゃんと考えてるから大丈夫よ。それでどうでしょう。お願いできませんか」
左隣に座る新山先生が俺の左手を両手で包み込むように、握りこちらに顔を向けてくる。
——近っ。
先生、近いですって。しかも俺が逃げ出さないように手を握ったんですよね。でも、先生気をつけないと、柔らかいところに当たってますから。
「わ、分かりました。俺で問題なければ」
先生にはお弁当の件(先生に作ってもらったお弁当をお昼に食べてない)もあるから結局折れるしかなかった。
「ありがとう剛田くん」
「ありがとうございます」
校長先生と新山先生からはとても感謝された。
————
——
体育祭当日。
俺が待機する場合は一年A組の生徒が待機している場所ではなく先生たちが待機している大会本部席の方だ。
プログラムは生徒の入場から始まり開会式、準備運動と続く。
いいねぇ体育祭の雰囲気。入場曲といいから、テンションが上がるよ。
生徒たちは赤団、白団、青団、黄団に分かれて座るが、すぐエール交換が始まった。ちなにみ俺は何団でもない。
しかし男一人、俺はとても目立つのだろう。かなりの視線を感じる。
「剛田くん、お願いします」
体育祭実行員の方が呼びに来てくれた。そう、プログラム一番は一年生の徒競走なのだ。等賞旗を手渡すのが俺の役目。先生たちがしっかりと話をつけてくれたみたいだから、ちゃんとやらないとね。
「はい」
俺は等賞旗を3本持って指定された位置につく。この等賞旗、去年までなかったことで、俺のために新しくできたもの。
一度俺から1着になった生徒に手渡すが、少し進んだ先の体育祭実行員の方がその等賞旗を回収してくれて再び俺の手元戻ってくるようになっている。等賞旗は3本しかないからね。
各団への得点は本部席にいる実行員の方がちゃんとチェックしてくれているから問題ない。
体育の先生がスターターピストルを掲げてパーンという音が鳴ると、1組目の走者が一斉に駆け出したのだが、
——こ、これは……
非常に気まずい。みんな一生懸命走ってるけど、お胸様がすごく揺れている。少しぴっちりした体操服だから余計に分かる。
男としてしっかりと見るべきだという考えと、紳士として目を逸らすべきだという考えが脳内でバチバチやり合っている。
でも結局は目を逸らせば1着が誰だか分からなくなるので、しょうがなく、しっかりと見ることに。
「や、やった。はぁ、はぁ、た、たけとく、わ、わたひが1着……」
一組目の1着は君島さんだった。君島さんは足早いんだね。
1着になってとても喜んでいる。けど限界まで力を出し切ったのだろう肩で息をして、あ、ちょっとふらふら。
「おっと、君島さん大丈夫?」
倒れそうになっていたのでつい受け止めてしまったが、大丈夫だろうか? セクハラで訴えられない?
「君島さんが1着だったよ。おめでとう」
「あ、ありがとうごさいましゅ」
おかしいな。君島さんがなかなか離れてくれない。肩で息をしてるからまだ身体がつらいのかな?
「大丈夫?」
「だ、だ大丈夫でしゅ」
慌てて離れた君島さんの顔は真っ赤だった。息を整えている途中だったのだろう。ちょっと悪いことしたな。
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