第26話

 いやあ、参ったね。ホームルームが終わってすぐに空のお弁当箱をみんなに返したはずなのに、何故か増えてる新しいお弁当。その数15個。ありがたいことなんだけど、これは無理、食べれきれない。


「うーん」


 委員長の君島さん。牧野さんのお陰でちょっとは仲良くなっている、はず。

 ちなみに牧野さんがネッチューバーだということはみんなには秘密。顔出ししていなかった時点で何となく分かっていたけど。


 ——ちょっと相談するか。


「君島さーん」


 おっと。君島さんを呼んだらみんなが一斉に俺の方を見た。ごめんね。委員長の君島さんに相談があるんだ。


 その君島さんはきょろきょろとして、私? というような顔をしてる。


 そうです。こくりと頷き返してみるが、顔を真っ赤にさせてあたふたしてる。ちょっと大丈夫そうにないので、深田さんもお願いします。


 小さく親指立てて応えてくれる深田さん。なぜか深田さんにはアイコンタクトが伝わるんだよね。不思議だ。


「ごめんね。実はお弁当のことなんだけど、みんなが俺のために作ってきてくれたことはすごくうれしいんだけど、この量はさすがに食べきれなくて……」


 君島さんと深田さんの他に、両隣の霧島さんに牧野さん、数人のクラスメイトに、囲まれていたがそこは気にしないようにしとく。


「ああ」


 お弁当の山を見て何やら察してくれるみんな。


「せっかく作ってくれたのに残してしまうのもみんなに悪いし、もったいないから……」


 そこで俺が言葉に詰まると、


「剛田くんちょっとみんなで相談してきますね」


 意外にも深田さんが応えてくれる。やはり普通に話せば深田さんの口調は丁寧なんだね。


 授業間の休憩時間は短いので、ここでみんなは自分の席に戻った。


 ————

 ——


 お昼休み、俺は一つのお弁当を広げている。小宮寺 美子(こみやじ みこ)さんが作ってくれたお弁当だ。前髪長くてメガネかけててちょっと暗そうな感じ。でもお弁当はおいしい。


「小宮寺さんありがとう。お弁当おいしいです」


「ふふ」


 少しだけ首を傾げてにこりとする小宮寺さん。お弁当を食べている仕草もお上品。どこかのお嬢様っぽい気がするけど、大人しい子なだけかも。


「剛田くん、みんなとお昼食べてくれてありがとう」


 深田さんは頼りになった。ちゃんと話をまとめてきてくれたんだ。交代でお弁当を作ってくるということで。


 でもそれだと俺が気がひけるけど、作りたいからとみんなから一斉にお願いされれば、さすがに断れない。俺も昼食用のパンを買わなくてすむから実際助かるし、そこはもう素直にお礼を伝えた。


 で、今は親睦を兼ねてみんなでお昼を食べることになり机を並べている。


 この感じなんか懐かしいね、前の記憶だと男友だち数人で食べてたっけ……


「俺も懐か……じゃなくて、みんなと食べたかったから」


 一人で食べてるとどうしても見られてる感があるからね。それなら開き直って向かい合って食べた方が気持ち的に楽だと気づいた。


 先生のお弁当? ここで出すのは何となくまずい気がしてこっそりと自宅の冷蔵庫に持って帰っている。先生には後で謝っとかないと。


 しかし、一緒に食べているとは言え、みんな無口だね。俺がいるからだろうけど。


「剛田さんはお休みの日は何をされてるのですか」


 そんなことを思っていたら、右隣の席に座る(女子が話し合って決めた)小宮寺さんから話を振られた。剛田くん、じゃなくて、さん、なんだ。やっぱりお嬢様なのか?


「えっと今はネッチューバーさんの動画にお邪魔してるかな……」


 俺がそう言えば、小宮寺さんの他にも何人かの女子から見た、との反応がありちょっと驚く。そんな話学校では全然聞いたことなかったから、てっきり誰も見てないものだと思っていた。


「剛田さんのエプロン姿、とても可愛かったですよ」


「そ、そう、ありがとう」


 男が可愛いと言われても反応に困るんだよね。というか小宮寺さんって結構お喋りするんだ。


「剛田くん、メイクアップゆうチャンネルにも行ったの? なんか動画アップされてるよ」


「行ったけど、早いね、もうアップされたんだ」


 俺の左隣の席に座る牧野さんがスマホの画面を見ながらそう言えば、他のみんなも一斉にスマホを取り出しその動画を探し出した。


「あ、これだ」

「わぁ」


 動画を見つけて喜ぶ声が上がるがすぐに静まり返る教室。みんながその動画を視聴し始めたからだと思いたい。俺もあることが気になりその動画に目を向ける。


 ——ちゃんと編集してくれたかな……


 いやぁ、ゆうってすごいわ。これはもうアイドルダメになってもスタイリストで食べていけそうなレベル。


 眉毛が整えられたかと思えばお化粧がどんどん施されて変化していく俺の顔。自分の顔なのに不思議な気分。


 ええ! 森田さーん。俺がこくりこくり船を漕いでいるところとか、鏡で自分の姿を目にして驚き呆けている姿がバッチリ残っているんですけど。


 しかも編集で『剛田くん寝ちゃいました♡』とか『呆けていてもカッコいい剛田くん♪ 』とかちょっと恥ずかしいんですけど。


 みんなもクスクス笑って……なくてあちこちからカシャカシャとシャッター音が聞こえてくる。


 カシャカシャ?


 隣の牧野さんと小宮寺さんを見れば動画を一時停止してからスクリーンショットをしているじゃないか。

 もしかして、他のみんなもそうなの?

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