第25話

「おお」


 よかった。俺がさちまきさんが作るお弁当を真似て作るだけの動画が急上昇動画となっている。


 かなり不安だった。男が出るだけで再生回数が伸びやすい世界だが(前の俺氏の経験と沢風くんの伸び方を見て)限界はある。


 チャンネル登録者数も増えてるようだし、詳しい事情は知らないけど、彼女は大学進学するための資金を稼いでるって言ってたからね。


 コメントの数も凄いけど、好ましいものが多く……


『美味しそう』

『私も動画を見ながら一瞬に作りましたよ』

『今度子どもに作ります』

『これなら私も作れそう』

『ウチの子どもも作りたいと言ってくれました。今度一緒に作ります』

『武人くんのエプロン姿可愛い』

『困ってる顔が可愛い』

『武人くんカッコいい』

『武人くんってお弁当作りも上手い』

『武人くん、私の分も作って』

『武人くんの作ったお弁当美味しそう』

『食べてみたい』

『私は武人くんが食べたいな』

『ダメよ。私が食べるんだから』

『私は逆かな。武人くんに食べられたい』

『武人くん私もおいしいよ』

『私身体洗ってくる』

『武人く〜ん』

 ・

 ・

 ・

 ・


 よし。俺はスマホをすぐに閉じた。


 ピンポーン


 ん? 朝早いけど誰だろ。


「どちら様でしょうか」


「宅配便でーす」


 服が2着届いた。『頑張ってください』というメッセージ付きで。


 以前は不幸の手紙だったり、壊れたものだったり、俺がもらいたくないものが届いてたからその時のことを思えば感謝しかない。

 みんなありがとうね。


 早速、届いた服を身に着けて、その画像をSNSにアップ。皆さんいつもありがとうってコメントを添えて、あくまでも俺がお邪魔したチャンネル動画を見てくれた、みんなに感謝してるんだよって感じにして。服送ってくれた人、匿名っぽいけど伝わるといいな。


 間違っても贈り物ありがとうなんてコメントはしてはいけない。

 ほら、フォローしてくれている人で、贈り物をしてくれていない人に催促しているようで嫌じゃない。


「今週はさすがに無理かな……」


 今週の土曜日にお邪魔する予定だったネッチューバーはゲーム実況で有名なあかね色々チャンネル。生配信がほとんどで、最近はバトルロイヤルゲームを楽しんでいる模様。でも顔出しはしていない。

 俺もゲーム好きだから実は楽しみにしてる。


 けど、日曜日には体育祭がある。


 もし、あかね色々チャンネルさんが遠方だった場合、ゆっくりとゲームができない。ということでその旨を伝えて来週にお願いすれば、すぐに丁寧に了解の返事がある。よかったいい人そうで。


 詳しくは体育祭が終わってから詰めるということに。


 昔の俺氏っていつもソロプレイだった(昔の俺氏って、ソロプレイ=カッコいいって思ってた)からタッグプレイはしてみたかったんだよね。



 ————

 ——


 翌日。


 今日は登校日。紙袋に空のお弁当箱10個とお弁当のお礼のハンドクリームを入れて登校だ。


 いつもの時間に行くと、今回も新山先生が正門で待っていてくれたが、生徒会役員の先輩たちはいない。

 人を待たせてると思うと気をつかうからちょっとホッとした。先生も忙しいはずだから、そろそろ断った方がいいだろう。


「剛田くん、おはようございます」


「先生、おはようございます」


 挨拶を終えてその事を伝えようとしていると、先生の視線が俺の紙袋の方に。


「それは、剛田くんが相談してくれた例のお弁当箱かしら?」


 そうだった。先生に相談したんだった。


「はい。でもさすがに、また作ってなんて俺には言えないからお礼にハンドクリームを買っちゃいました」


 紙袋の中が気になるようなので先生に広げて見せる。別に変なものは入れてませんよ。あ、そんなに顔を近づけなくても見えると思うんですが……


「剛田くんは気を遣いすぎよ。でも可愛らしく包装されているから喜ぶと思うわよ」


「そうだといいんですが……」


 前世であるが、今世では、女の子に贈り物なんてしたことないからかなり緊張している。


「ふふ。剛田くんもそんな顔するのね。ところで、はい。約束のお弁当よ」


 そう言って先生が差し出してきたのはお弁当。可愛らしいヌーピーのお弁当袋に入っている。もちろん俺にってことだよね。でも、あれって冗談じゃ……


 先生はにこにこ。これじゃ断れない。


「ありがとうございます」


 お礼を言って頭を下げた。そうだよね。先生って真面目な人だもんね……本気で言ってたんだね。

 気をつけよう、先生に変なこと言ったらダメだ。






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