第24話
「ほとんど別人だよね?」
鏡を見てそう呟けば、
「えー、武人くんは武人くんだよ。ね、みんな」
ゆうの言葉にあい、みい、しぃ、森田さんまで頷く。
「武人くんってすぐ分かる」
「うん。分かるね」
「分かる分かる」
そうなのかな。まあいいや。化粧慣れしてるみんながそういうならそうなのだろう。
ちなみに今は動画は撮り終えた後だ。最後俺が驚きすぎて締まらない顔をしていた気がするが、まずいところは編集でなんとかしてね。特に俺が眠ってるところとか。任せてって? さすが森田さん、頼もしいね。
「それと、実はみんなにお願いがあるんだけど……」
SNSにアップするための写真がほしい。けどメイクアップゆうチャンネルのゆうはアイドル。チャンネル登録者も20万人くらいいるから、はたして一般人である俺との記念写真を撮ってくれるのかどうか。
ダメもとで一応聞いてみた。
「え、もちろんオッケーだよ」
「もちろんわたしもでしょ?」
「やった。みんなで撮ろう」
「わたし武人くんとーなり」
いいの? って、あ、袖ひっぱってる。
「じゃあ、わたしはこっち」
「ええ、ちょっとわたしも隣がいい」
「えへへ」
こっちの袖も引っ張らな、いてて、肉、肉を摘んでる。あいとゆうは前から抱きつかない。君たち俺で遊んでるしょ。
「「「「違うよ〜」」」」
息ぴったり。会った時からこんなテンションだったし、これくらい積極的というか、コミュ力高くて、人懐っこいくらいじゃないと芸能界では生きていけないのだろうか。
「はーい、ストップ」
根は素直なのだろう、俺の声に彼女たちの動きがピタリと止まった。すかさず彼女たちから離れる。
遠慮がないからクラスメイトより打ち解けてしまった感があるな。さすが年下でも立派な芸能人だね。
結構スマホで写真を2枚撮った。ん? 森田さんもですか、分かりました。3枚になった。
「武人くん、その写真わたしたちもほしい」
「じゃあ無線通信で送るよ」
俺がスマホをいじり無線通信の操作をしていると、
「武人くん、どうせならMAIN交換しようよ。あいもみいもしぃもコラボ依頼出してるし、順番が来た時に連絡とりやすいでしょ」
「そうなの」
「「「そうだよ」」」
あいとみいとしぃがこくりと頷く。そうか知らなかった。ならば俺から来て正解だったな。次はテレポートで楽に来れる。
それからMAIN交換して彼女たちとちょっとだけ雑談してから森田さんが用意してくれていた『ジャニュアリー』が歌っているCDを買って帰路に着いた。
————
——
テレポートを使い一瞬で家に帰ると、早速CDを聴きながらSNSにアップする。ジャニュアリーらしく元気があっていい曲だ。
昨日は牧野さんと自分の作ったお弁当を並べて撮った写真をアップしたけど、美味しそうとか食べてみたいというようなDMがいっぱい来ていた。
今日はジャニュアリーのみなさんと一緒撮った写真をアップっと。
「ん?」
テレビからある人物の名前が聞こえたのでテレビに耳を傾けると、やっぱり沢風くんのことだった。沢風くんがニュースになってた。
今年の年末歌合戦に出場決定とか言ってる。これを機に男性初のアイドルとして活動するようなことも。所属事務所は大手芸能事務所。これは男役していた女優さんは大変だね。
ピロン♪
MAINアプリにメッセージが届いた音だ。心当たりはないが最近はMAIN交換を結構したからそのうちの誰かかな。
「へぇ」
ジャニュアリーの皆さんでした。今日はありがとうございました。すごく楽しかったですって。まだ15歳なのに、その辺のところしっかりしてて偉い。しかも今度のライブで着る衣装ですって、かわいい写真まで。でもこれいいのかな、彼女たちのファンに知られたらまた炎上するよ。
こちらそありがとうございます、衣装よく似合ってかわいいですっと。
ピーンポーン。
また返事が来た、と思ったらこれはインターフォンだ。誰だろうと思いモニターを覗けば野原建設の香織さんだった。
「少々お待ちください」
工事した建物に不具合がないか確認しにきたにしてはちょっと遅い時間の19時。
「香織さん、こんばんは」
「武人くん。突然こんな時間にお邪魔してごめんなさい。今日は、あの……夕ご飯私が作ったんだけど、その作りすぎちゃって……」
申し訳なさそうにする香織の手には可愛らしい紙袋が、その中に作りすぎたというおかずらしきものが入ってるのだろう。
「ありがとうございます」
受け取ってすぐに帰ってもらうってのも気が引ける。とりあえずお茶だけでも出そうとウチに上がってもらおう。
ウチに上がった香織さんはソファーにちょこんと浅く座ってそわそわ。ちょっと落ち着きがないね。でも何もないから本当にお茶だけなんだけど。
それで俺はというと香織さんが持ってきてくれたおかずをいただいていた。肉じゃがだったよ。すごくおいしい。
「香織さんありがとう。すごくおいしいです」
「そ、そう。お口にあってよかった」
ホッとする香織さん。そうか落ち着きがなかったのは、俺の反応を気にしてだったのか。
それから工事後の不具合はないかとか、俺が出てくれた動画のお陰で新規契約が増えてるとか、たわいもない話をしていたところ、今月末に体育祭があるという話になり、俺もフォークダンスに出ることを話した。
「え、武人くんも出るんですか」
そりゃ驚くよね。男が学校に通ってるってだけでも今までにないことだから。
「そうなんですよ。初めて踊るから自信はないですけど、曲は『ヒク・テア・マタ』と『ヨリドリミ・ドリ』なんですよ」
『ヒク・テア・マタ』はちょっと『オタクホンマ・ミックスカー』と似ていて、『ヨリドリミ・ドリ』は『コロブオキルチカサン』に似ていたけど、微妙に違うんだよね。練習しないとその微妙に違うところを間違えそうなんだ。
「へ、へえ。じゃ、じゃあ誰かと一緒に練習はしたのかな?」
「先生から動画を送ってもらってそれを見ながら一人で練習してますよ」
「そっか、一人でなんだ……」
「はい。一人でですね」
「そうだ! 武人くん」
ちょっと考える素振りを見せていた香織さんが突然声を上げた。
「パートナーと一回も踊らずにぶっつけ本番は大変ですよね? 私も『ヒク・テア・マタ』と『ヨリドリミ・ドリ』踊れるから。一緒に練習しときましょうか」
勢いよく立ち上がり香織さんが右手を伸ばしてくる。
「そうですよね」
香織さんが言うようにぶっつけ本番だと不安だ。俺は香織さんの手を取った。
「香織さん。下手ですけど、お願いします」
結論、香織さんは上手かった。見た目通り運動神経がいいんだと思う。
それから香織さんからオッケーが出るまで何度も踊ることになったけど、踊りに対する不安はなくなった。
俺の場合みんなから見られるから、そこそこ踊れるくらいにはしときたかったからすごく助かったよ。
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