第23話

「お、ビルの中にあるんだ」


 今日はメイクアップゆうチャンネルにお邪魔する。ゆうさんが俺の自宅まで来てくれるって話だったけど、ゆうさん、隣のオオマル県に住んでる人だったので俺の方が行くことに。俺は帰りテレポートで帰れるからね。


 ちなみに沢風くんとは逆隣の県。


 だから今日は朝早くから電車に。3時間ほどで隣の県に着いて、そこからタクシーを使ってメイクアップゆうチャンネルさんが所属しているというマサカ社に来たんだけど、立派なビルだったよ。


 法人所属になるとすごいんだね。


 余裕を持って出たから約束時間の少し前に着いたんだけど、マネージャーと名乗る人がビルの前で待っていてくれた。20代後半くらいのスーツを来た女性、いつから待っていたんだろう。


「剛田様ですね。私はゆうのマネージャーで森田と申します。本日はよろしくお願いいたします」


 こちらも挨拶を返せば、遠い所足を運んでくださりありがとうございますと、すぐに中へと案内された。


 ——へえ……


 ホテルみたいに綺麗なエントランスを通り、守衛さんが立っている横を通り過ぎて森田さんと一緒にエレベーターに乗る。


「こちらです」


 森田さんは7階で降りた。そこから絨毯の敷かれた通路を歩いてある部屋へと案内された。


「あ、武人くんだ」

「うわ、本物」

「うわうわ」

「ほんとに来たよ」


 控室みたいな部屋の中に、女の子が4人いて、不思議に思ったが、その中の一人がゆうさんっぽい。


「あ、武人くん、わたしがゆうです!」


 やっぱりゆうさんだった。でもおかしな。動画だと二十歳くらいの女性に見えたんだけど、実際に逢うと中学生くらいに見える。他の3人もそうだ。


 ——ん。


 冷静になって思い出せばゆうさんがメイクを施していた子たちだね。ゆうさん、自分の顔や、一緒にいる子たちの顔にメイクしてたな。


「初めまして、剛田武人です。えっとゆうさん、今日はよろしくお願いします」


 ゆうさんは会ってからずっとうれしそうな笑顔を浮かべているけど、初対面だし敬語が無難かな。

 それに中学生くらいに見えるだけで、実際は年上ってこともあるからね。


「はい。こちらこそです。でもわたしたちの方が一つ年下だから敬語はなしでお願いします。もちろん名前もゆうって呼び捨てで」


 にこりと笑顔を向けてくるゆうは、見たまんま、年下だった。

 じゃあ、あの動画は何って思うけど、メイクでどうにかしてるのだろうな。


「そ、そう、分かったよゆう……」


 呼び捨てってなんか照れる。俺、敬語の方が楽かも。


「あ、ゆうだけずるい。武人くんわたしは、あいってよんで」

「武人くん。わたしは、みいね」

「わたしは、しぃだよ」


「みんな……えっとあいに、みいに、しぃだね。よろしく」


 3人がうれしそうにはしゃいでるけど。


 ——こわっ。


 今みんなって言おうとしたら、3人からすごい圧を感じたから思わず言い直してしまったよ。でも、よろこんでくれてるからこれで正解か。


 それから彼女たちとちょっと話をしたんだけど、あ、森田さんお茶ありがとうございます。4人は『ジャニュアリー』というアイドルグループだった。


 そして4人は名前を売るためにネッチューブに動画を上げていたんだって。

 もちろんジャニュアリーチャンネルもちゃんとあって、ゆう以外の、あい、みい、しぃもチャンネル持っていて動画を上げているそうだ。名前を売るってなかなか大変だね。


 ちなみに、ここマカサ社に所属するアイドルグループは他に11つあるらしい。うーん。この業界の知識が全くないから多いのか少ないのか分からんけど。


「武人くん。よく見て、概要欄にもアイドルグループ『ジャニュアリー』チャンネルの一つって書いてる」


 しぃが俺にスマホの画面を見せてくる。いや、アイドルなのに一般人に近づきすぎだよ、危ないよ。え、武人くんは一般人とは違う? 一般人だよ。


「歌、3曲出してたんだね」


「ふふ。そうだよ」


 すごいでしょって、ちょっと自慢げのゆう。へえ、曲はここでも販売してるのか、じゃあせっかくだから帰りに買って帰るよ。


 ————

 ——


「ゆうです。今日も簡単メイクやるよ……と、その前に実は今日、すごいゲストが来てくれています。

 誰だと思います? ふふ、みなさんほんとにすごいですから……はい。あまり焦らして申し訳ないので、早速ゲストさんに来ていただきますね。剛田さーん」


「どうも、ぜんぜんすごくない剛田武人です。ゆうさん持ち上げすぎですよ」


 いや女性ってすごいね。軽くメイクしただけで、ゆうさん、幼さが消えて大人びちゃったよ。口調も少し丁寧になってるから余計に大人びて見える。


「持ち上げるもなにもほんとのことですよ。ね、みんな」


 うんうんと頷くみんな(あい、みい、しぃ)に、俺一人だけが苦笑い。


「今日はせっかく剛田さんに来ていただいたので、剛田さんにメイクを施してみたいと思いまーす」


「なんかそんな気がしてたんですよね。いいですけど、俺メイクとかしたことないから、ゆうさんお手柔らかにね」


 この前モデルした時に軽くメイクしてもらってるけど、動画的にはそう言った方がいい気がした。


 それからゆうさんに言われるままメイク用の椅子に腰掛けて、俺は何故か目を閉じる羽目に。


 出来上がりに俺の反応を見たいらしい。いや〜ゆうさんはハードル上げるね。でも自分の顔だから、いくらメイクしたところでそうそう変わるものでもないでしょう。

 まあモデルした時は本物のモデルさんっぽくなっててすごかったけど、あれ? そう考えると変化あるかもね。


 それから前髪を止められ、眉毛をチョキチョキ、顔中ポンポンぱふぱふぬりぬりされて……コクリコクリ、やばい、いつの間にか寝ていたよ。ぬりぬり、良かったまだメイク終わってなかった。


 周りからクスクス笑い声が聞こえたが、寝ていた俺が悪いもんな。あ〜撮影中だ、動画が気になりそわそわしていると。


「はい。出来上がり。剛田さん目を開けていいですよ。みんなも、すごいよ剛田さん。元々カッコよかったけど、今回はさらにカッコよさが10倍は上がったよ」


 ないない。10倍はないって。みんなも引くんじゃない。大丈夫?


「え!? 誰?」


 男の俺から見てもカッコよく見える超イケメンがいるんですが。メイクってすごい。


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