第22話

 いやあ、この世界はゲームする女子が結構多いんだね。家庭用ゲーム機(携帯もできるタイプ)ファミリースイッチをみんな持ってるんだって。最近使ってないけど俺も持ってる。


 生菓子を中心に食べていたけど、みんなどこか遠慮気味。MAIN交換したけど話がほとんど弾まなくて、困っていたところに牧野さんが自分の部屋から持ってきたのがマリモカート。これは女子にも人気のゲーム。知らなかったけど。


 8人まで同時にできるから6人でやった。マリモカートは海藻を可愛くデフォルメしたキャラクターたちを操作してみんなでゴールを目指すレースゲーム。


 マリモ、ひじき姫、コンブ、イワノリなど、操作するキャラクターは20体以上いるんだけど、霧島さんがぶっちぎりでうまかった。レースして一位をとると少しドヤ顔になっててかわいいかったね。見た目が小さいから。


 ゲームしながらだとみんなも緊張がとれて少しは話ができるようになった。


 女の子の家に長居しても悪いので、キリがいいところで俺は帰ったんだけどね。4人はまだゲームしてるんじゃないかな。


 テレポートを使えば一瞬なんだけど、今は16時くらいで帰るにはまだ早いし、この辺りに来ることがほとんどないのでちょっとぶらぶらしながら帰ろうかなと思った。


 今はなんだか気分がいい。たぶん誰かとゲームした記憶がないから。楽しかったんだ。


 ほんと、さちまきさんがクラスメイトの牧野さんでラッキーだったよ。


 週一で学校に行くと先生と約束していたけど、みんなからみられるのは当たり前、腫れ物を扱うように気を遣われるのも男だからしょうがない部分はあるんだけど、居心地が悪くてたまらなかった。


 ——そういえば、沢風くんはクラスメイトと楽しそうにしている姿をSNSに上げていたっけ。


 どんな思いで過ごしているのか、俺みたいに少しは後悔しているのだろうか、など気になって覗いてみたんだよね。彼の目つきが少し怪しかったけど、でも本当に楽しそうだった。尊敬するね。


 でも今日俺も、ちょっとは話せるクラスメイトが4人もできたからね。気持ちも少しは楽になったよ。


 ——ん?


 橋の上を歩いていると、川の上をスケートボードを浮かせて渡ろうとしている人を発見した。


 すぐに引き返して来るところを見ると、俺と同じく川幅をスケートボードを浮かせて渡る動画に影響されてやり始めた人に違いない。同志だ。


 俺はうれしくなってその人の側に駆け寄り声をかけた。


「こんにちは」


「こんにち、ええ、男!? っうわっ」


 しまった〜。男が出歩くことなんてほとんどないから、驚かせてしまった。彼女がバランス崩して倒れた。


 スカートじゃなくてよかった。


「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど、やってたの念力子チャンネルがやってたやつだよね? 俺もそれ見て練習してるんだけど、まだできなくて」


「え、あ〜僕はただ念動の鍛錬になるかなって思ってしてただけで、別に川を渡りたかったわけじゃないんだ」


 彼女の念動レベルは9。使いこなせれば就職に有利だから練習してたそうだ。


 就職に有利って言ってるから高校三年生かな? それとも大学生?


 ここぞとばかりに念動レベル9がどんなものか聞いてみたら親切に教えてくれた。


 念動才能1で1cm。

 念動才能2で2cm。

 念動才能3で4cm。

 念動才能4で8cm。

 念動才能5で16cm。

 念動才能6で32cm。

 念動才能7で64cm。

 念動才能8で128cm。

 念動才能9で256cm。

 念動才能10で500cm以上。


 俺の念動才能は1だよ。


「君もやってみる?」


 彼女弟さんがいるらしくて、はじめは俺のことを警戒していたけど、少し話しているうちにちょっと打ち解けてきた。スケートボード貸してくれるらしい。


「ちょっとしか浮かせないけど、ありがとう。ちょっとだけお借りします」


 彼女がスケートボードを貸してくれたので喜んで受け取り早速浮かせてみる。


「よっと」


 念動の連続行使は毎日練習してたら30cmくらいまで浮かせれるようになっている。1cmからのスタートだから、なかなかいいペースだよね。


「くっ、はぁ、はぁ、ここが限界」


「すごいすごい。君は念動才能は5くらい? 男で念動才能5はすごいんだよ」


「ん? 念動才能5? 俺は念動1だよ」


 男は念動才能1とか2が普通なんだって。それ以上は稀。でも男だから、それで何かが変わることない。

 このことは一般常識の範囲だから彼女の知識が凄いわけじゃなくて俺が勉強をしてなかっただけ。


「え、でも30cmは浮いてたよ?」


 もしかして見間違いだったのかな? と彼女が不思議そうに首を傾げる。


「見間違いじゃないです。俺のは連続で念動を使ってるだけで、才能はほんとに1」


 彼女がじーっと疑いの眼差しを向けてくるので、本人証明書の裏面を見せることにした。


 この専用ケースは必要な部分だけを見せれるような仕組みになっているから便利。彼女に念動のところだけ見せた。


「ほんとだ。じゃあほんとに連続行使を……」


 すごく驚いていたので、そのことを尋ねてみたら、普通は連続行使はできないらしい。普通というか自分はできないってショックを受けていた。クールタイムが1、2秒はあるらしい。


 それから交互にスケートボードを浮かせていたが、陽が傾き暗くなってきたのでここまでに。


「今日はありがとうございました」


「いいよいいよ。僕も楽しかったから」


 初対面だから、名前とか聞かなかったし聞かれなかったけど、誰かと練習するのもいいもんだね。

 

 彼女が帰っていく後ろ姿を見えなくなるまで見守り、俺はテレポートで帰った。

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