第21話
買い物を終えて今は牧野さんことさちまきさんの自宅に来ています。
「お邪魔しまーす」
「うん。みんなも上がって」
お母さんは仕事でいないらしい。あーだから霧島さんたちを呼んだのか。男と2人だと危ないもんね。
俺は両手に、みんなは片手に買い物を袋を下げたまま家の中にお邪魔する。
「荷物はここ置いて。剛田くんのはこっち、台所にお願いします」
「分かった」
みんなが持ってる袋はお菓子とデザートとジュースだもんね。牧野さんの後ろを着いて行き台所に入る。
「へえ」
これはアイランドキッチンってやつだね。これなら撮影しやすそう。牧野さんに指定された場所に買ってきた物を置く。
「剛田くんどうしようか、先に動画撮っちゃう?」
それは先にお菓子を食べるか撮影するかって迷ってるってことかな。
「動画を先に撮ろうか」
そのためにきてるからね。
「うん。分かった。撮影終わらせて、後でゆっくりした方が寛げるもんね」
そういう意図はなかったんだけど、まあいいや。牧野さんは鼻歌を歌いながら台所にある引き出しをごそごそとしだした。
——ん?
何を探しているのだろうと眺めてると、牧野さんは引き出しの奥からエプロンを一枚取り出した。
「剛田くんは、このエプロン使って。私のお気に入り」
女性にとても人気のある犬のキャラクター、ヌーピーが描かれた可愛らしいエプロンだ。ヌーピーののほほんとした顔に癒させる。
でもね、さちまきチャンネルで牧野さんは顔出しをしていない手元だけの動画なんだけど、今日に限ってはエプロンをつけた俺の姿(料理している姿)を入れたいらしい。
俺の姿が入るならキャラクターもののエプロンは避けた方がいいんじゃないかな。そんなことを思っていると、
「ごめん、やっぱりこっちを使ってくれる」
そのことに気づいた牧野さんから別のエプロンを渡された。今度は無地のエプロンだった。
「了解」
ヌーピーのエプロンは映らない牧野さんが使うらしい。
——あ……
「さっちゃん、ここに出しておくね」
そんなことをしていたら霧島さんが食材を買い物袋から出してくれていた。気が効くね。霧島さんは小さくて童顔。ずっと誰かに似てる気がしてたけど、やっとわかった。妹だ。妹とちょっと似てるんだ。頭撫でていいかな……
「つくねありがと。あ、副委員長はカメラ任せていい?」
深田さんは牧野さんから撮影用のカメラを受け取り使い方をききはじめた。こくこく頷いて親指立ててる。任せてってことかな。
「えっと」
君島さんも何かしようときょろきょろしてたけど突然リビングの方に向かったかと思えば、満面の笑みを浮かべながらペットボトルのジュースを5本両手で抱えながら戻ってきた。あ、落とした。
「剛田くんは料理はほとんどしたことないんだよね」
「ごめん、ほとんどしたことない。俺、邪魔にしかならない気がするんだよね」
最近は色々と忙しくなったから、宅配お弁当を頼むようにしたんだよね。健康面を考慮してバランス弁当を。だから余計に。
「ん〜そこはちゃんと考えてるから大丈夫」
「そうなの」
「うん。包丁の使い方を中心にした動画とかさ。ほら、女性でも料理が苦手な人がいるからそんな人に向けた動画にしてもいいかなってね、というわけで……はい。こんな感じできる?」
テキパキと牧野さんはまな板や包丁を収納引き出しから取り出すと、ワークトップ(天板)に置いた。俺がどの程度できる知りたいらしいが、先に牧野さんが野菜を切ってみせてくれた。
その腕はさすが料理しているだけあって包丁の使い方が上手い。
「剛田くんこれ使って」
次は俺の番とばかりに霧島さんが人参、大根、じゃがいも、キャベツを俺の近くに置いてくれていたので、まずは人参をまな板の上に置く。
ピーラーで皮むきして、あとは切るだけの状態にしてくれた霧島さんにお礼を言ってから、輪切り、半月切り、いちょう切り、斜め薄切り、拍子切り、短冊切り、せん切り、細切りなど、牧野さんが見せてくれた切り方の他に、記憶にある切り方を試していく。
始めこそ指先がぎこちなく感じていたけど、人参、大根、じゃがいも、キャベツと切っていくうちにスムーズというか勘を取り戻している感じがした。
これはたぶん食べさせる人なんていないのに一時期男料理にハマっていたからだ。
そんなことを思い出せば食材が思った形にな切り方で切るのが楽しくなってきて、気がついた時にはキレイに切り終えていた。
——あ……
夢中で気がつかなかったけど、みんなが俺の手元の野菜を見て呆然としていた。
「剛田くん、包丁使えたんだ」
結局動画は誰でも簡単につくれるお弁当というものにして、牧野さんがお弁当を作り、俺もその隣りで牧野さんのお弁当を真似て作るというものに。
トークなんてお弁当作りに集中し過ぎて、あっ、とか、やべっ、とかしか言ってない。
牧野さんは俺に気を遣ってくれているのだろう。いいのが撮れたってうれしそうに言ってくれたけど、
——これって、普通すぎて再生回数が伸びないんじゃ……
俺はかなり心配。編集して色々と手を加えても限度がある。
もっとインパクトのあるよい企画が思いついたらもう一回撮り直したいくらいだ。
その後はみんなで生菓子を優先して食べて、学校のことを話しているうちにMAINの連絡先を交換することに。俺は一週間に一日しか学校に行かないから、連絡事項があったらすぐ教えてくれるって。これはありがたい。
でも、食べきれなかったお菓子かなりあるけど……またみんなで食べよう? そうだねそれもいいかも。
深田さんが君島さんに向かって小さく親指立てて、君島さんも親指立てて返していたけど、俺と目が合った途端に恥ずかしかったのか顔が一瞬にして真っ赤になった。分かるよその気持ち。
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