第20話
「あの服って鮎川さんが立ち上げたブランドだったんだ」
鮎川さんから撮影した俺のポスターが届いた。感謝のお手紙も入ってる。律儀だね。出来上がったポスターをわざわざ送ってくれるなんて。
「これがそうなんだ……へぇ」
10枚もあった。広げて見ると思ってた以上にちゃんとしたポスターになってて感心する。俺、素人なのに本物のモデルさんっぽく写ってて自分で言うのもなんだが、カッコよく、いい感じに出来上がっている。
あの時は、眉毛整えられて、お化粧を薄くされて、髪をセットされて……慣れないポーズなんかとったりして大変だったけど、いい思い出になった。
この世界ではモデルや俳優、アイドルといったエンタメ業界で働いている男性はいない。代わりに男役をする女優さんはたくさんいる。
まあネッチューバーだった俺が異色なんだよね。ちょっとは前世の記憶の影響が出てたのかも? 今は沢風和也くんがいるが、彼の後を追う男性はまだ出てきていない。彼が今唯一の男性ネッチューバー。
あとは俺が時々女性ネッチューバーのチャンネルにお邪魔するからするくらい。
男性は手当てだけでも十分食べていけるけど、この世界の女性は稼がないと普通に生活できないからね。
それで今はさちまきさんのチャンネルにお邪魔するので待ち合わせ場所に向かってるところで、服装はもちろん鮎川さんの店で買ったもの。さて、もってけスーパーはどこだ。
「あれかな」
駐車場スペースが広くて大きなスーパーを発見。看板にももってけスーパーってちゃんとある。
でも、こんなに大きなスーパーならもっと細かく待ち合わせ場所を聞いておくべきだったな。
スーパーの出入り口辺りで待ってみようかな……と思ったら同じクラスの牧野さんと霧島さんと君島さんと深田さんを見つけた。
今日は土曜日で学校は休み。休みの日にまで一緒ってことはこの4人は友だちってことだろう。4人でなんか話してるけど、
——あ!
不意にこちらに顔を向けた君島さんと目が合ったので挨拶した方がいいよね。これで無視されたら地味にショックだけど。
「君島さん、こんにちは。牧野さん、霧島さん、深田さんもこんにちは」
君島さんに挨拶したら他の3人もこちらを見たので続けて挨拶した感じだ。
「ふぇ! ご、剛田くん、こ、こんにちは」
「剛田くん!」
「こんにちは」
「剛田くんこんにちは」
せっかく女子4人でいるところにクラスメイトだからといって、その会話に混ざるような無粋なマネはしてはいけない。
「またね」
そもそもさちまきさんと待ち合わせをしているのだ。さちまきさんどこかな? きょろきょろしながらスーパーの出入り口の方に歩こうとしたら、
「剛田くん、私さちまきです」
後ろからそんな声が。振り返るとそこには牧野さん。
「えっと……」
どういうこと? 俺は不思議に思い首を傾げる。
「私、牧野幸子なんだけど、さちまきチャンネルのさちまきでもあるの。ほら、牧野のまきと幸子のさち。反対にして合わせるとさちまきになるでしょ」
「あ……」
俺はてっきりお弁当作ってる人なので、だし巻きと巻き寿司なんかの巻きと幸せのさちを合わせた名前かと思ってたよ。幸せを巻くってなとなく縁起良さそうだし。
なんて答えたらそっちの方がいいねって笑顔になる牧野さん。いや、そんな話をしたかったわけじゃなかった。
「驚いたよ。まさかクラスメイトの牧野さんがさちまきさんだったなんて」
「そうなの、黙っててごめんね」
世間は狭いね。
「じゃあ、霧島さんと君島さんと深田さんは……さちまきチャンネルのスタッフさんだったんだね」
「違うよ。基本的に私は一人でやってるから。たまにつくねに手伝ってもらって、あ、つくねは霧島つくね。あの子ね」
牧野さんが霧島さんの方に顔を向ける。霧島さんはちょっと気まずそうに目を泳がせたあとに俯いた。
「そのつくねに、私のチャンネルに剛田くんが来ることが決まったって、うれしくてつい話しちゃて、それをたまたま後ろで聞いていたのが委員長と副委員長。
その委員長と副委員長に剛田くんとはクラス委員としてもう少し仲良くしたいけどきっかけがなくて困ってて協力してくださいって頼まれたの……」
要するに3人とも見学ってことかな。あ、霧島さんは手伝いか、今度は君島さんと深田さんに顔を向ける牧野さん。君島さんはぺこぺこと俺に頭を下げて、深田さんは小さく親指立ててる。
「あはは。実はここのスーパー副委員長のお母さんが経営していて、今日の食材を全部みてくれるって話しなの。勝手に話し決めててごめんね」
俺としてはさちまきチャンネルのお手伝いって感じだし、別に謝られることではない。
「いや、俺はほら、さちまきチャンネルにお邪魔する立場で、今日の撮影も俺は料理をほとんどしないから、指示してもらおうと思って来てるから気にしなくていいよ」
それからみんなでスーパーの中に。食材を選ぶのはさちまき(牧野)さん任せ。ん? なんかポテチとかプリンとかジュースとか関係ないものまでバンバン入れてるけど大丈夫?
深田さんに視線を向ければ、こくりと頷き小さく親指を立てくれた。なんかいいねそれ。俺もしようかな。
でも深田さんってもう少し喋る(丁寧に)イメージだったけど実はあまり喋らない人なんだね。
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