第17話

 授業はすんなり終わったけど、そういえば体育の先生こっちにきてくれなかったな、あ、でも鼻血だしてずっと鼻を押さえていたからそれどころじゃなかったのか、のぼせたらしいけど大丈夫だったかな、なんてことを考えながら委員長たちを待つ。


 タオルで汗を拭いて、制汗スプレーは使ったけど、汗の匂い大丈夫だろうか。臭いって思われたら一瞬で噂が広がりそうで怖いし。


 くんくん。


 少し涼しくなってきてるとはいえ、バスケに夢中になった俺が悪いんだけど。多分大丈夫だよね。


 ——そういえば……


 土曜日に待ち合わせしているネッチューバーはさちまきチャンネルのさちまきさんで手作り弁当だっけど、その次の日はメイクアップゆうチャンネルのゆうさんのチャンネルにお邪魔することが決まった。


 さちまきさんと逆方向の隣街なので移動時間が少しはかかりそうだけど、メイクの仕方や化粧品の紹介なんかをしてる人なんだよね。

 効きの良い制汗スプレーとか知ってるかな? 聞いてみよう。


 ——お!


 制服に着替えた女子が更衣室から出てきたけど俺を見て驚き立ち止まると、みんな俺から顔を背けるんだけど。なんで?


「えっと、教室に戻りたいんだけど、まだ戻れる自信がなくてみんなを待ってたんだけど……迷惑だったかな」


「「そ、そんなことない」」


 慌てて首をブンブンと振ったみんな。声もハモってて面白いけど、なんでまた顔を背けるの?


 一歩前に出てきた委員長が、俺の方をチラッと見てこくこく頷く。ん? ついて行けばいいんだよね?


 教室まで、みんな無言で歩いてるけど、その原因って俺だよね。なんかごめんね。


 無事に教室に戻れたけど、なんだか前回よりもクラスのみんなとの会話が少ない気がする。


 話しやすそうだった両隣の霧島さんと牧野さんだって顔を向ければ目が合うんだけど、あっ、と言うような顔をされてすぐに顔を背けられる。嫌われるようなことしたっけ?


 ——はあ……異性の友だちってムリじゃない? かといってこの世界の男もまた面倒臭そうで友だちになりたいとも思えないんだよな。


 3限目と4限目は身体を動かした後だったから、とても眠かったくらいで特に何事もなく終わる。


「ふう」


 やっと昼休み。お腹がぺこぺこだったからすぐにカバンをごそごそ漁る。

 今日はコロッケパンとサンドイッチとお茶。俺、コロッケパン大好きなんだよね……


「あ、あの……」


 ——ん?


「まって」

「ずるい」

「私も」


 いつの間にか数人の女子生徒に取り囲まれていた俺。一体何があった。


「えっと……」


「ぱ、パンだけだとお腹が空くと思って、これ食べてくだしゃい」


 君島さんがお弁当を俺の机の端にちょこんと置いて、あ、逃げないで。お弁当ありがとう。


「私も作ってきたの、よかったら」

「私も」

「これ」

「うちも」

「あたしも」


 深田さん、牧野さん、霧島さんまでほかにも、やばい名前覚えてないや。ごめん分からなくなるから名前を……と思っていたらお弁当包みにちゃんと書いてあった。みんながしっかりしててよかった。


 あっと言う間に10個の可愛らしいお弁当が俺の机の上に。重ねたらなんと置けたけど、こんなに食べ切れるはずない。


「お弁当ありがとう。食べきれない分はちゃんと家で食べるから」


 いい顔してそんな感じのことを言って受け取ったものの、ほんとどうしよう。頑張れば二つは食べられると思うけど、後は無理だ。


 今すぐ持って帰って冷蔵庫に入れておけばギリギリ明日まで食べれないかな。


 とりあえず8個のお弁当をカバンに入れてテレポート。スカスカの冷蔵庫にお弁当を入れて教室に戻る。俺の席にテレポート。


「きゃっ」


 テレポートした瞬間に誰かにぶつかる。ぶつかった誰かが倒れそうになっていたので咄嗟に抱きしめれば、


「え」


 霧島さんだった。


「ごめん」


 すぐに霧島さんを離したが、霧島さんの顔が真っ赤。セクハラという言葉が脳裏を過ぎる。


 やばいやばい。


「ほんとごめんね、お弁当食べきれないと思って家の冷蔵庫にしまってきたんだ。俺、テレポート使えるから」


「う、うん大丈夫だよ」


 霧島さん、顔はまだ赤いけど怒ってる感じはない。これは許してくれそうな気配。ちょっとホッとした。


「剛田くんテレポート使えるんだ、すごい!」


 胸を撫で下ろしたところに、俺の袖を引っ張ってくるのは牧野さん。ちょっと興奮している様子。

 念力の話で少し盛り上がれば、そのままの流れで二人とお弁当を食べることに。一瞬、みんなからの視線を感じたが気のせいか?


「そうだったんだ」


 霧島さんと牧野さんは仲が良いらしくて二人でお昼を食べようとしたら俺が突然消えたもんだから、驚き俺の机の周りを見て回っていたところに俺が帰って来たらしい。すぐ帰ってきたから一分も経っていなかったもんな。


「あ、そうそう剛田くん、あのね。校内での念力の使用は禁止されてるからね」


 二つのお弁当、君島さんと深田さんとだったかな、美味しく頂き満足していると、牧野さんが念力について教えてくれた。知らなかったよ。


 だから前回、先生も驚いていたのかも……後で先生にも謝っておいた方がいいかも。


 でも二人とはいい感じに話せたから、ちょっと話せるクラスメイトくらいには昇格したかも。


 ちなみにテレポートは失敗しても壁などに埋まるようなことはない。座標がちょっとずれるだけ。

 今回は霧島さんがいたからちょっとずれてぶつかる感じになってしまった。


 あと俺のテレポート、結構慣れてきて、目で見えている場所への移動、短距離のテレポートもできるようになってますます便利に。


 ありがたいことに、この場合の消費念力は少ない。ただテレポートの限界使用回数が6回から7回に増えていたから、ただテレポートに慣れてきただけかもしれないけど。




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