第16話
「皆さんおはようございます」
「おはようございます」
先生と一緒に挨拶をしながら教室に入る。
「「「おはようござい、ます」」」
俺が教室に入った途端に声が小さくなるみんな。騒がしかった教室内も静かになる。ちょっとそれ傷つくんですけど。
気にしてもしょうがないので自分の席に直行するが、なんか注目されてた。
——ん?
俺の机、磨かれたようにきれいなんだけど。気のせい? 不思議に思っている間に朝のホームルームが始まる。
大した連絡事項はなさそう。ただ体育祭に俺が参加することを伝えられると静かだった教室内が騒ついた。
前に座っているからみんなの反応が見えないから、どうしても悪い方に考えてしまうな。
「新山先生、ご、剛田くんはどの競技に参加するのですか」
斜め後ろからきれいな声が聞こえた。ちょっと嬉しそうな声に聞こえたのは俺の願望がそう聞かせているのだろうか。一体誰だろうと思っていると、
「剛田くんにはフォークダンスに参加してもらいます」
そう答えた先生が俺の方に顔を向けたので、小さく頷いて応える。
すると、またもや教室内がざわざわと。誰だか分からないけど、やったと言うような声に、うんと反応してするような声が聞こえてちょっとホッとした。
何人か歓迎してくれているってことだよね。心が少し軽くなった。
その後はそのまま一限目の授業に入る。新山先生、現代の国語の先生でもあるようだ。ついていくのやっとだけど。
問題は次の体育の授業。一応体操服を準備してきていたけど、どこで着替えるんだ? 男子更衣室なんてないよね。
体育の授業は体育祭で踊るダンスの練習をするみたいだけど、あ、一学年全体で踊るダンスのことね。でも今日は運動場が2年生が使っていて使えないから体育館で練習をするんだとか。でも入りきらないのでA組とB組だけ。
そう教えてくれたのは今日もまた緊張気味の委員長の君島さんと副委員長の深田さん。と牧野さんに霧島さんに、あれクラスのみんな。みんな? と思うだろうけど、みんな移動せずにまだ残っているんだ。
「た、体育館の場所わからないよね。案内するね」
「ありがとう」
ぞろぞろと移動すれば他所のクラスの生徒たちが何事かと、こちら(廊下側)を見ている、気がする。もうね、前方を見て歩いてるけど、視界の端に僅かに見えるのよ。指差してる人とか。
どう反応したらいいのか分からないから気づかないフリするけど。
体育館は5分ほどで着いた。みんなは時間がないので駆け足で更衣室へ向かうけど、チラチラと俺の方を見てくる。
一人取り残される俺を心配して、ではないと思うから、覗くなってことだろう。信用ないな俺。
「剛田くんはどうする?」
どこに居たらいいのか分からなかったので、とりあえず体育館の壁際に立っていれば、体育の先生が声をかけてくれた。
スラっとしていて、いかにも運動が得意そうな先生だ。
「俺は……」
着替えるところもない様だし、見学でもしとこうかと思ったが、ふとバスケットゴールが目に入る。懐かしい。
「あれ、剛田くんはバスケやったことあるの?」
「やったことは……ないですけど……」
今の俺は学校にほとんど行ってないからほとんどのスポーツが未経験。
でも以前というか前世の俺はというと、学校の授業だったり部活だったりで普通にやったことがあるスポーツが結構ある。
部活はバレーボールだったから(背が伸びると思っていたから)バスケは授業と、たまにバスケ部の友だちと遊ぶ程度。
前世の記憶では経験があるが、この場合どうなるんだ。うまくバスケできるのだろうか? ちょっとやってみたい。
「やってみたいです」
「お、いいね。やる気のある子は好きだよ。剛田くんダンスは参加しないのよね。邪魔にならないあっち側でだったら使ってもいいわよ」
言ってみるもんだ。ダンスの選曲や振り付けは生徒たちが決めるらしいから、先生は割と暇……じゃなくて怪我がないように監視する程度だったらしいので、たまに俺の方にも来てくれると言ってくれた。
俺は早速、許可をもらった倉庫で着替えてからバスケットボールを一つ抱えてゴール下へ。
女子がダンスを始める中、俺は軽くストレッチをしてからバスケットボールをダムダム。いかん。ボールの感覚が懐かしすぎて口元がにやける。
結構体育館内に響いてるけど、ダンスの曲が流れてくるからそこまでうるさくないよね?
まあ、一人なのでやれることなんてしれてるけど、覚えている範囲のことをやってみよう。ボールの感覚を取り戻さないとね。
ボールつまみ、指先ではじいて、壁うちを二、三回繰り返す。
次に8の字は、股下にボールが触れないように速くするのが普通だが、今はゆっくりとやってボールに慣れることを優先しとく。
うーん身体がぎごちない。
それでも、少しは感覚が戻ったかなと思ったところで、気分転換にボールをついて再びダムダム。いいねぇ。
確かドリブルは、両手切り返しに、フロントチェンジはこうだったっけ? ちょっと違う気がするが、もう一度。うん、たぶんあってる。
でも、やっぱり身体の動きがぎごちないので飛んだり、小さく跳ねたり肩や首を回して身体をもう一度ほぐしてから挑戦。よし、いい感じかも。
片手で前後左右、切り返しドリブルを交互に繰り返せば、アップはもういいかな。いよいよシュート。下手なんだけどね。
とその前に、女子の邪魔になってないか気にして見れば、みんな揃って身体を俺と反対方向に向けていた。
みんな動きが揃っててきれい。大丈夫そうだね。
それじゃ、と気合いを入れて、友人の名前は覚えてないけど、その友人がやっていたフォームでシュートに挑戦。
記憶にあるフォームさえ真似できれば俺の下手くそシュートもなかなか様になるはず。
だが、フォームばかり気にしすぎてシュートが届いていない。楽しいからいいけど。
シュートが入らない時はレイアップシュートで気持ちをリセットしてからまたシュート。夢中でやっていれば授業の終わりのチャイムがなった。
「ふう」
——あっぶな。
タオル、倉庫に忘れてきたから、つい体操服の下で汗を拭きそうになった。腹チラするところだったよ。
運動なんてほとんどやっていなかったけど、なかなか動けるもんだね。
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