第15話
一週間って早いね。もう学校に登校する日だよ。リモート学習の環境が整ったから行きたくないと思う自分もいるけど、さすがに一回しか行ってないのにやめたら男として恥ずかしい。だから行く。友だち一人もいないけど行く。
「おはようございます」
「「「「「剛田くん、おはよう」」」」
担任の新山先生が、今日も正門前で待っていてくれました。その横には生徒会役員の先輩たちも。来てよかった。
前回の帰りに、新山先生から混乱を避けるためにしばらくは登校時間をギリギリの8時15分くらいを目安に登校して欲しいと頼まれていた。
前世の癖でつい5分前の8時10分に来てしまったが、大丈夫だよね。周りを見渡しても正門まで駆けてくる生徒が数人いるだけだし。
しかも、先生と生徒会役員の姿を見て何で? やばいって顔をして、呟くような声で挨拶すると、顔を背けてすぐに下駄箱の方へ。周りを見る余裕なんてない感じ。これなら混乱もなさそう。
「じゃあ私たちも中に入りましょうか」
そのまま自分のクラスに向かうと思いきや、なぜか今回も校長室に。毎回行く感じかな。一人で首を傾げていたら、今月末にある体育祭について話を振られた。
「フォークダンスですか?」
「はい」
もちろん徒競走や団体競技にも参加してもいいらしいけど、すぐにお断り。
一番はフォークダンスのようだし俺にどうしても参加してほしいのだと。
フォークダンスと言えばオタクホンマ・ミックスカーとかコロブオキルチカサンなんかが思い浮かぶけど……『ヒク・テア・マタ』と『ヨリドリミ・ドリ』の2曲ですか。一瞬、知らないと思ったけどちゃんと知ってた。でも踊り方は知らない。
「その点はご心配なく」
フォークダンスはみんなで楽しむためのもの。激しい動きや複雑なステップがなくてとても簡単。すぐに覚えれるらしい。後でその動画を先生が送ってくれるそうだ。
「そうですか」
斬新というか思い切ったことをするなと感じるのは、この世界で過ごした記憶がちゃんとあるから。どうしようかな。以前の俺氏は一度もこんな行事に参加したことない。いや違った、そもそも男性は学校に通わないから学校行事に参加しないんだ。
また沢風和也くん絡みかと思ったがどうやら違うらしい。生徒会に寄せられた生徒たちの声(特に三年生)を校長先生が代弁した感じだね。体育祭まで時間がないからと。今回は特例。
どうりで生徒会役員の先輩たちがずっと頭を下げているはずだ。校長先生に頭が上がらないってやつだねって違う? 俺に? やめてください。
——うーん。
フォークダンスか…。迷っているとちょっともやっとした記憶がふっと流れた……
——あ〜。
前世の俺がフォークダンスを踊っている記憶。でも女性の人数がすこし少なくて、背の低い俺が女性のパートの方に回されている。それが一度ではなく学生の間ずっと。
——……
ちょっとだけ男性のパートを踊ってみたいと思った。
「えーと、参加しても構わないんですけど……嫌がる人もいると思うんですよね。その辺の調整は」
「お任せください!」
校長先生から食い気味に言われてちょっと顔が引き攣りそうになっていると、
「剛田くん。フォークダンスは知らない人同士でも手を取り合って楽しむことができます。
仲良くなるきっかけにもいいんですよ。せっかく学校に通っているのです。まずは友だち、作ってみませんか」
——!?
孫を見つめるような優しい眼差しで最後にそんなこと言われてしまった。
やばい予想外、今そんな目でそんなことを言われたら(記憶が蘇ってからずっと一人)、咄嗟に俺は上を向いた。そうしないと目から何かが溢れそうだったから。
「俺、友だちは……」
男性は優遇されている分義務がある。18歳までに最低1人、20歳までに3人、30歳までに10人の女性と結婚しておかないと国が準備した女性と結婚することになる。ちなみに上限はない。
それで、この国の現状はというと、ほとんどの男性は引きこもっているので国から強制されての結婚が多い。
そして、そんな男性は義務で結婚してやったという頭しかないからほぼ別居生活となる。
そんな現状だからこそ、この機会を利用して気の合う友人を見つけてみないかと校長先生は言いたいのだろう。その中から結婚相手が見つかればなお良し。
ただ校長先生に向けられた眼差しから感じる意味はそれだけじゃない。純粋に家族がいなくなった俺を心配してのもの。自業自得なのに。
でもそうは思っていてもふとした拍子に思うことはある、やっぱり一人は寂しいと……
「友だちはどうやって作るかわかりませんけど、俺なりに頑張ってみます」
努めて明るく振る舞ったつもりだけど、校長先生に新山先生、それに生徒会役員の先輩たちにまで心配そうな顔をしている。いつでも相談に乗ると、なんか流れでMAIN交換までしちゃった。
それから職員室の前の廊下を歩けば職員室の先生たちとバッチリ目が合ったので、朝の挨拶をしてから先輩たちとは別れた。
新山先生と教室まで向かう途中、しんみりとながら歩くのも嫌なので、他の男子生徒はどうなったのかと尋ねたら、交渉は難航していると余計に暗くなった。男子生徒は増えないかもね。
でもまあ男子生徒は性格に癖がある人が多いから友だち付き合いは難しいだろうけど。
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