第12話 閑話(君島沙織視点)

「え、これって…」


 私、君島沙織は、いつものように沢風和也くんの動画を見てから癒されると、ほかに面白い動画はないかと検索。


 すると急上昇欄に上がっていた、ある切り抜き動画を見つけた。


「剛田くん、だよね」


 恰幅の良かった剛田くんが細っそりとした体型をしていて、両手いっぱいに抱えていた小石を置いて家の中に戻っていく、責められることが当然とばかりの態度に私は胸が締め付けられた。


 居てもたっても居れず、剛田くんの家まで足を運んだけど、その家も動画では気づかなかったけど、すごい有様で涙が出そうになった。


 そんな中、以前、剛田くんの傲慢な態度、沢風和也罵り、現在、落ちぶれてて草と言うようなことを切り抜き編集してアップしていたネッチューバーもいたけど、すぐに炎上して次の日には、その動画はもちろんネッチューバーのアカウントも削除されていた。当然だよ。


 始めは、せっかく同じ学校なんだからと親友のなっちゃん(深田夏菜子)に勧められて登録していたタケトチャンネル。

 男の子を見る機会なんて、この歳になるまで指で数えらるほどしかなかったから、タケトチャンネルはすぐに私の心の癒しとなった。彼独特の世界観が好きで眺めて居るだけでとても幸せだった。


 そんなある日、すごくカッコよくて優しそうな男の子が動画を始めてる、って学校で話題になり、尾椎さんと横島名さんに勧められてチャンネル登録した。


 実際にカッコよかったし、男の子が何かに挑戦している姿はとても惹かれたし応援したくなった。


 剛田くんを見て沢風くんを見て、とても充実していた日々。けど、それが突如として壊れた。


 剛田くんが沢風くんを貶して大炎上したのだ。みんなが剛田くんの悪口を言う。暴露系ネッチューバーも剛田くんのことを叩く、沢風くんを貶した剛田くんは貶されて当然という認識になりさらに過激なことをやりだす輩もいた。


 かく言う私も剛田くんのことが人として許せなくて一度登録を解除していたけれど、なんな姿見てしまったら胸がとても痛かった。締め付けられる思いだった。


 頑張って立ち直ってほしくてまたチャンネル登録した。


 剛田くんの状況を見かねて声を上げる人も出てきた。それは妄想話で少しずつ人気の出てきていたみーこチャンネル。もともとはみーこチャンネルの生配信がキッカケだったとも聞いている。

 他には簡単DIYで有名な野々香チャンネル。ゲーム実況で有名なあかね色々チャンネル。簡単かわいいお弁当で有名なさちまきチャンネルなど、沢山のネッチューバーたちだ。


 私も私なりに何かできることを探していたら、先生がリモート学習に3ヶ月近く参加していない剛田くんにノートの写しを渡したいから協力してくれないかとお願いされたので、二つ返事で承諾した。


 他にも親友のなっちゃんに、牧野さん、意外だったのが霧島さん。後で知ったけど、霧島さんは牧野さんに巻き込まれただけと後で知った。彼女は男嫌いって言ってたものね。

 あとはくーちゃんにせっちゃんなんかもノートの写しを手伝ってくれた。


 そんな事をしている内に剛田くんのタケトチャンネル登録者数はぐんぐん増えていった。


 こんなに増えれば、剛田くんがまたネッチューブに戻ってきてくれる、そう期待していれば突然の生配信の告知。その告知内容がまた私の胸を締め付ける。


 すぐに配信は始まった。今までの彼の言葉遣いと違ってとても丁寧な言葉遣い。落ち着いていてすごくカッコよかったけど、違う。私はそんな配信を見たいわけじゃなかった。


 その生配信を見て後、私はまた泣いた。けど、中には強い人もいて、その中の誰かがすぐに署名活動を始めた。私ももちろん署名に参加した。


 でも結局、剛田くんはネッチューバーやめた。すごく悲しかったけど、彼は皆の署名を見てくれて、俺自身の配信はやめるけど女性ネッチューバー(みんな)の応援はすると言ってくれた。それがすごく楽しみ。


 色々あったけどホッとしていた、夏休みボケがようやく抜けきった頃に今までにないことが起こった。


 それは沢風くんのことだ。男性初のアイドルになるのではないかと噂されている超人気ネッチューバーの沢風くん。そんな彼が学校に通うと噂が。


 最近の私は沢風くんよりも剛田くんの今後の方が楽しみで気にしていなかったけどみんなは違う。


 ウチの学校でも彼のファンは多く、それが事実と知った時、8割近くの生徒がショックを受けていた。

 なぜ彼の通う学校がウチじゃないのかと。私のクラスもそうだ、明らかにテンションが落ちていた。


 学級委員長を任されているけどこればっかりはどうしようもなかった。

 なっちゃんもお手上げだと首をふる。そんな時に、先生と生徒会役職がすごいことをやってのけた。


 それは、これからは問題さえ起こさなければ、剛田くんが週一日だけど学校に通ってくれるという話だ。心臓が止まるかと思った。


 彼が困らないように名札を首から下げます。クラスに8割近くいる沢風くんファンは、名札をしなくてもいいんじゃないかと、こそこそそんな話していたけど、変なことさえしないならそれで構わない。私が彼を守るのだ。


 と意気込んでみたはいいが、剛田くんがカッコよ過ぎて鼻血がでそう。剛田くん、生配信していた時よりも輝いて見える。モニター越しじゃないからなの?


 彼と視線が合うだけで心臓はバクバクするし、息も止まりそうになる。

 彼の挨拶に何も反応できないまま彼は一番後ろの席に移動したけど、つい彼から見られていると意識してしまって、授業に集中できない。


 恥ずかしいのだ。でも私は肌着を着ているからまだよかったけど、普段から着てない子はブラが透けるのを気にしていて、私以上にそわそわしていた。


 授業が終わった瞬間に数人の生徒から彼の席を変えてもらえるように次の授業の佐藤先生に伝えてくれないかと頼まれた。


 申し訳ないけど、私も気になっていたので佐藤先生にその事を伝えると、佐藤先生笑って頷いてくれた。


 剛田くんも驚いていたね。不満どころかごめんねって謝ってもいた。剛田くんは何も悪くないのに。済まなそうにする彼の顔にまた庇護欲が唆られる。

 よし、次の休み時間に私は剛田くんに声をかける。


 でも、彼が前に行ったことで、一つずつ後ろにずれて、彼が座っていた席に座った子。あやみん、顔がにやにやしていた。なんか悔しい。っていうか、みんないつの間にか名札を首から下げている!


 朝の時点ではかけていなかったのに、なにそれ、納得いかないぞ。うん。私はやるよ。次の休み時間には絶対声をかけてやるんだから。


「こ、剛田くん。わ、私このクラスで委員長をしてましゅ君島沙織といいます。学校のことで分からないことがあったら遠慮なく尋ねてきて。そ、それで、このクラスには慣れそうですか?」


 その結果がこれです。カミカミでもうダメ。穴があったら入りたい。


 頭の中真っ白でも顔は真っ赤。その後何を話したのか分からない。ただ。


「……君島さんも教えてくれてありがとね。みんなもありがとう。でもみんなの名前と顔はなるべく早く覚えるようにするよ」


 笑顔でそんなうれしいことを言ってくれた剛田くん。笑顔は素敵だし彼の声が心地よくて耳から離れない。


 ——でもみんなの名前と顔はなるべく早く覚えるようにするよ。


 ——みんなの名前や顔はなるべく早く覚えるようにするよ。


 ——名前や顔はなるべく早く覚えるようにするよ。


 いっぱいいっぱいだった。うまく取り繕ったつもりだけど、テンパっていて逃げるように離れてしまった気がするのが、悔やまれる。


 ただうまく話せなかった時に備えてくれていたなっちゃんがいる。なっちゃんお願いします。上手いことやっててね。


 後ろめたさの残る(そう思ってる)クラスメイトが動かなかったのも助かった。


 ただ、席が隣だからといって牧野さんと男嫌いの霧島さんが話しかけていたのがちょっと気になる。これは女の勘だね。


 あと彼のお昼ご飯のパン。絶対足りないよね。来週はお弁当をもう一つ作ろうかな。そう心に決める委員長の君島沙織だった。

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