第9話

 考えるまでもなかった。俺、記憶が戻ってから一回もリモート授業受けてない。


「あ〜嫌な予感しかしない」


 記憶が戻った時にはすでにパソコンは壊れていた。これは石が飛んできたんじゃなくて、記憶が戻る前の俺氏が暴れ回って壊したんだよね。ただの八つ当たり。


 担任の先生は授業中だったから事務員さんには、しばらく休むことを伝えていたけど。


「あ……」


 そうだよ連絡先は母さんになっていたはずだから少しは事情を知っているかもしれないけど、肝心な俺とは連絡とれなくて、だからこれが届いたのかも。


 生配信をしてからは落ち着いたけど、石とか普通に投げ入れていたから怖くて近づけなかったのかも。巻き込まれたくなかっただろうし。


 とりあえずリビングに戻ってからレターパックを開封する。

 中にはルーズリーフバインダーと連絡プリントが入っていた。


「えっと」


 連絡プリントは担任の先生からで、俺のことを心配するような言葉が書いてあり、最後に俺と連絡が取れなくなっているから、一度俺の方から連絡して欲しいと書いてあった。


 前世の条件反射で、つい怒られる気がして恐る恐る先生からの連絡プリントを読んでしまったけど、この世界の男はテストはあっても赤点はないしエスカレーター式に進学できるから学力も気にしなくていいんだった。


 先生には明日連絡するとして、


「こっちは…授業の内容かな?」


 ルーズリーフバインダーには3ヶ月分の授業の内容をまとめたものが科目ごとに分かれてはめてあった。


「ん? これって」


 よく見れば誰かのノートのコピーだった。誰のだろう。丸みのある文字、可愛らしい文字、きれいな文字と科目ごとに筆跡が違うから何人かのノートを使って作ってくれたようだが、先生だろうか? 先生がみんなからノートを借りて作ってくれたのかな? 


 ————

 ——


 次の日の朝。


 綺麗な部屋で目覚める朝って気持ちいいね。


 適当な時間になったので先生に連絡すれば、俺の携帯番号を伝えて、変更の必要(一人になったので)な書類を送ってもらうことで要件は終わり。意外とあっさり。


「剛田くん…」


「はい」


「剛田くん」


「……はい」


 先生がなかなか電話を切ろうとしないから、実はまだ何か言いにくい事でもあるのかと思いこちらから尋ねれば、リモート学習の設備が整うまで学校に来ないかって。


「嫌ですよ」


 理由はなんとなく分かる。沢風和也だ。沢風くん、隣の県に住んでいるようだけど、数日前から学校に通い始めていて、その様子をSNSあげていて世間を騒がせニュースになっていた。


 この1年A組が僕の通う教室です。そして僕のクラスメイト。みんな楽しくやろうねと。もちろん女の子ばかり。


 周りの女子も嬉しそうな表情の写真をSNSにあげていたから余計に。


 これって隣の県だけど、学校側は沢風くんがいる月見学園の方に生徒が流れるのを恐れて……違う? 男子が学校に通うだけでも珍しくて羨ましいことなのに、それがさらに今超人気のイケメン配信者ときた。

 なぜウチの学校ではないのかと、生徒たちの落胆がすごいのだとか。


 俺は家から一番近いからという理由で私立希望ヶ丘学園に通っているが(リモートだけど)、この学校(学園)、この県では一番学力レベルの高い名門校でもある。


 勉強が手につかない生徒も増えていて、このままでは学園の評価までもが落ちかねない。


 評価が落ちると学園側も進路の選択肢が狭くなる生徒側にもいいことがないそうだ。女の子は普通に競争社会だからね。それは可哀想だね。


「そういうことですか」


 ちなみに他の男子にも声をかけているそうだがいい返事はまだ貰えていないらしい。


「剛田くん。お願い。週一日でもいいのです」


 電話でも相手が頭を下げているとなんとなく分かるんだよね。というかリモート学習用の設備(パソコン環境)が整うまでの話じゃないの? その話は終わった? そうですか。


「週一でいいなら別に構わないんですけど、俺ってやらかしているじゃないですか、逆に嫌がるんじゃないですか?」


 そう、それだけが心配なんだ。


「そんなことないです。是非お願いします」


「そうですか、わかりました」


 問題が起こったら通うのをやめるという条件で、明日から週一で学校に通うことになった。


 その後は敷地内でテレポートを使って過ごした。短い距離だけど6回もテレポートが使えた。なかなかいい結果だ。


 距離が伸びても6回使えれば言うことないけど、まずは学校かな。学校から家までの距離をテレポートで行けるように頑張ろう。なれたら念動の練習も再開しようかな。


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