第8話

 野原建設の撮影は一週間後ということになった。当日の朝に野原さんが迎えに来てくれるとのこと。念のため、野原さんの名刺にあったQRコードを読み取りMAIN(メイン)にお友だち登録しておく。


 MAINとは、MAINアプリのユーザー同士で、無料でメッセージのやり取り、音声通話、ビデオ通話なんかができるとても便利なアプリだ。


 何かあればメインでやり取りする方が早いからね。


 俺に手を振ってから帰って行く業者さんたちに向かって頭を下げる。


「業者さんたち、あんなことがあったのに(過去の俺氏のやらかし事件)いい人たちばかりだったな」


 お茶の差し入れは最後まで続けたけど、手作りのお菓子やらアメやらガムやらが倍になって返ってきたんだよな。逆に申し訳なかったよ。


 お昼はお昼でお弁当が、当たり前のように俺の分まで準備してあって、しかも、俺が一人で食べていたからだろうけど、次の日からはずっと俺の周りにみんなが集まって一緒に食べた。

 家主ってことで、かなり気を遣ってくれていたんだと思う。


 でも久しぶりにワイワイ賑やかにみんなで食べるお昼ごはんはおいしかった。


「さてと」


 夕飯はデリバリーを取りたい気分だが、来てくれない可能性の方が高いので、もう少し暗くなってからコンビニかな。


 俺はソファーに腰掛けてスマホをいじる。


 雑草に念動を使い続けることで、どうにか3センチまで浮かせることができるようになった。かなり疲れるが、俺は続けるつもり。


 動画で見つけたんだ、スケートボードに乗って坂道を下ったかと思えば、そのまま浮き上がり何度か地面についていたけど、スケートボードに乗ったまま坂の上まで戻っている動画を、他にも川幅5メートルくらいの川の上を気持ちよさそうに越えていく動画を。カッコいいけど、羨ましかった。


 試しに業者さんが設置していた廃材入れの中から手頃な板をお借りして、その上に立ち浮かせてみたら俺が乗っていても1cm浮き上がり、続けて使えば3cmまで浮けた。


 俺は小さくガッツポーズ。手応えを感じたね。頑張れば俺も動画のようなことができるんじゃないかな。


 それで今は、自宅もきれいになってスッキリしたので、ずっと放置していた特殊能力が何か検証しようと思ったわけさ。


 テレポート、テレパシー、エンパス、サイコメトリー、念写、透視、X線透視、遠隔視、霊視、アポート、デポート、借力、予知、過去知、ヒーリング、サイコセラピー、アニマルトーク、エレクトロキネシス、フレアキネシス、アクアキネシス、ライトキネシス、シャドウキネシス、エアロキネシス、アースキネシス、アンチキネシス、グラビティ、バイロケーション、スリープ、ダウジング、洗脳、映像記憶、レビテーション・・・


「へえ、いっぱいあるんだな」


 検査機関のホームページにある特殊能力一覧を開いた俺の感想だ。


 テレポートなんて夢のような能力だよ。いいな、使いたいね。使えたらいいのに。


「なになに、第三の目の開眼を意識して眉間付近に右左、どちらかの人差し指を当てて、行きたい場所を鮮明に思い浮かべて空いてる手の方で指パッチン、もしくはテレポートと呟く。ね」


 誰も見ていないから試せる。前世の記憶があると、こういうことちょっと恥ずかしいよね。


 とりあえず、ソファーから立ち上がって右手人差し指を眉間付近に当てる。次にこの家の玄関付近を頭の中に思い浮かべて……


「テレポート……なーんてできたら、え!」


 俺は玄関の前に立っていた。だけど次の瞬間には、全身から力が抜けてすぐ倒れ込む。


「はあ、はあ、はあ……きっつ、身体がきついんだけど」


 俺は落ち着くまで玄関で横になった。しばらく横になっていると少しは楽になったので上体を起こす。怠さはあるが何とか起こせる。


「あーきつかった」


 身体の異変に怖くなったのですぐにスマホで、念力、使用、倒れ込む、で検索してみる。


 検索するとすぐにそれに該当した項目が表示された。


「……なるほど、念力が尽きたわけね」


 こういった症状は念力が尽きたときに起こる症状だとあった。この状況から念力をさらに使うと危険だが、安静にして念力が回復すれば何の問題もないらしい。ホッとした。


 今日も朝から雑草相手に念動を使った。いつもはそれまでだが、今日はさらにテレポートを使ったからだろう。


「はあ、念力の残りの量が数字で見えていたらいいのに」


 とりあえず今日はこれ以上の念力の使用はやめておこう。コンビニにも行きたいし。


「ふんぬ!」


 身体は怠いが、気合いで立ち上がる。もちろんソファーで横になるためだ。のろのろとリビングに向かって歩いていると。


 ピンポーン!


「ん?」


 こんな時に限ってインターフォンが鳴る。


「誰だろ」


 気持ち急いでリビングに戻りモニターを見れば、郵便屋さん。


 郵便受けがあるからそこに入れててくれればいいんだけど、今日のは受け取りのサインがいるようなので、開き門のところまで行くしかなかった。


「はあ」


 ————

 ——


「ありがとうございます」


 郵便屋さんがバイクに乗って帰っていく。もうすぐ日が暮れるのに遅くまで大変だなと思いつつ受け取ったレターパックに目を向ける。


 送り主は希望ヶ丘学園。俺の通っている学校だ。男はリモートでも可能だから過去の俺はリモートで授業を受けていたけど何だろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る