第7話

「剛田様、どこか気になるところはありますか」


「いえ、大丈夫です」


 今は工事が終わり、野原さんと家の中の最終チェックをしていた。


 10日間。たった10日間で自宅が綺麗に復活した。野原建設さんはかなり頑張ってくれんだと思う。


 頼んでもいないのに外壁の汚れも落としてくれているし、庭に積み上げていた小石なんかも処分してくれている。


「では、ここにサインをお願いしますね」


「はい」


 作業内容通り、間違いがなかったのでサインをする。この家の土地と建物は俺名義。つまりこの土地と建物の所有者は俺。だから俺がサインをする。当たり前か、今は俺しか住んでいないし。


 これは国が支給してくれた補助金を利用して購入しているからそうなっているんだけど、たしか男は10歳を迎えてから11歳を迎えるまでに利用しないといけない決まりだったはず。


 これは男性が少ないこの世界ならでは、男が外国に流出するのを防ぐための施策の一つ。


 他にも、この世界は男性が少ないため16歳で成人扱いとなる。

 つまり俺はやらかして母さんの戸籍から籍が抜けているが、俺は16歳で成人扱いだから何も問題ない。


 ま、法律上はというだけで、普通の男性のいる家族では聞いたことない話だから、稀なケースだろうね。


 でも本来の目的は(国としては)、一夫多妻だからどんどん結婚して子どもをたくさん作ってねっていう意味合いの方が強い。


「請求金額は0円ですか……」


 信用していなかったわけじゃないけど株式会社だよね。慈善事業ダメじゃないの? 会社の利益が全くないなんて、人を20人も使ってたよね、俺の方が心配になるんだけど。


「そこは問題ないですよ。弊社もそのつもりで始めから作業に入らせてもらってますから。

 ただ、あれって本当ですか? 剛田様がツブヤイターで呟いていた……」


「あ〜、あれは、成り行きでそうなってしまいましたけど、決めたからには皆さまの期待に応えれるように頑張りますよ。というか野原さん俺のツブヤイターフォローしてくれてたんですね。ありがとうございます」


「当然です! で、では、へ、弊社のCM動画に出てもらうことは可能ですか?」


「もちろん。でも俺でいいんですかね」


「剛田様がいいんです!」  


 野原さんの顔が近い。


「そ、そうですか。ありがとうございます。あはは」


 めっちゃ前のめりで吃驚したよ。


 あ、そうそう俺は一週間後にネッチューブのアカウントを宣言していた通りに削除した。


 最終的には登録者数が500万人にまで増えていて我が目を疑ったが、ツブヤイターも同じくらいになってて、あんなことがあったのに(自業自得だったのに)、改めてこの世界の女性は優しいと思ったよ。


 でもね、やっぱりケジメはつけたいから、心の中でみんなに謝りつつネッチューブのアカウントを削除した。


 次にツブヤイターのアカウントを削除しようとしていたところに宅配便が届いた。


 配達員さんインターホンを連打するから、何かと思えば、配達員さん肩で息をしていた。


 そして、すぐに開梱してくれと懇願されるも、差出人は西条朱音さんって人で俺の知らない人。


 不思議に思いつつも、配達員さんがあまりにも必死だからその場で開梱すると、ノートがいっぱい入っていた。


 なんだろうと思いパラパラめくってみると、アカウントの削除はしないでほしいという署名簿の束。パラパラみただけでもびっしり書かれているのでかなりの数だと分かる。


 これは俺のアカウントに登録していた人の数より多いかも知れない。あ、筆跡が同じものもあるから家族の名前を借りて書いてる人もいるのかな?


 それでも、これほどの署名簿が届いて無視するのもどうかと思い、ツブヤイターでお礼を呟いたら、殺到していたDMがさらに勢いが増して、思わず笑ってしまった。優しいねみんな。


 ケジメだからと伝えても、皆がなかなか納得してくれず、結局は俺自身は配信活動をしないけど、みんなのチャンネルに呼ばれたらお邪魔しますって案をなんとかのんでもらった。


 男が出れば少しは再生回数が伸びる。伸び悩む配信さんの手助けになれば俺も本望だ。


 少なくとも俺に登録してくれていたみんなが視聴してくれる可能性があるのだ。


 依頼を受けるために、ツブヤイターのアカウントは残すしかなかったけど。俺がよしとするタイミングで始める話だったから、しょっぱなはお世話になった野原建設さんでもいいと思った。

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