第6話

 次の日から家の改修工事が始まった。人数が多い。下請けの業者さんもいるのかな? 20人もきているよ。全て女性……じろじろ見られてるけど、この世界では普通のことだから気にしたらダメだ。てか、やっぱり多いよね?


 10時と15時の休憩用に準備したお茶菓子足りるかな。


 野原さんが今から作業に入りますって挨拶に来てくれた。責任ある立場の人だから律儀だね。でもカッコいい。俺もそんな人になりたい。


「よろしくお願いします」


 開き門を解放して業者さんを中に入れる。みんな若くて細いのに重い資材を一人で担いで行く。


「すごいな…」


 感心して眺めていたが思い出した。


 ——あ、そうか……


 この世界、つい今の今まで忘れていたけど、みんな念力(超能力)が使えるんだった。


 俺も昔念力検査テストした記憶がある。たしか財布の中に入れている本人証明カードの裏面に。


 念力量 高

 念動1

 念体1

 念出1

 特殊10


 ——うーん、才能なかったわ。


 念力量はどれだけ長く(多く)念力を使えるかで、それ以外はその系統の才能の値を示している。


 念動1は10段階の中の1。つまり最低という意味。俺の場合、特殊以外の才能は最低と言うことになる。


 念動1が対象とする物体を中心に1cmの範囲内で浮かせたり動かしたりできるっていう意味。1cm動かしたところで何になるの、と思うが大丈夫、今思いついた。庭の草を抜こう。


 対象との距離? 遠ければ遠いほど疲れるから近い方がいいんじゃないかな? 自信はないけど。


 目についた雑草の側にしゃがみ込むと、ターゲットの雑草を決める。


 ——むむむ、おっ! 


 ターゲットにした雑草がずるずると浮き上がって面白い。っていうか普通に使えて吃驚する。

 あ、でもダメだ。根っこが長くて抜け切らない。


 連続で使えば、って何これ、むずかしいな。1cm浮かせて、範囲から外れたらすぐに地面に落ちてしまう。


 落ちてしまうとまた1cmしか浮かせないから同じことの繰り返しになってしまう。


 ——うーん。落ちる前に使わないと意味がないようだけも……それってできるのかな?


 記憶を取り戻す前の俺って念力に興味がなかったようで、念動2以上だとどうなるのかも知らなかった。

 俺の才能は1だからね。調べようとも思わなかったようだ。


 それで念体1は身体を1.1倍強化するのね。1.1倍って違い分かるかな。ちなみに2だと……うーん、これも興味がないから記憶にないか。


 念出は念導具(拳銃)に念力を込めて飛ばせるらしいが、基本的に警察官や自衛隊のような職業に就かないと、このような念導具に触れる機会がないようだ。


 普通生活する上では使うことのない才能のようだね。前の俺氏、よっぽど使いたかったのか念力の中ではその辺の知識が一番ある。そういうところ、やっぱり男だよね。


 最後に特殊だけど、これは人それぞれ能力が違うようだ。俺は10あるから才能があるようだけど、何が使えるんだろうね。前の俺氏、ほんと興味がないようだったからの試してもいないぞ。


 過去にあった特殊能力のリストが検査機関のホームページにあるようだから、その使い方を参考に一つ一つ試していけばすぐに見つかるらしい。今度試してみたいな。


 それで話を戻すと、今日来てくれている業者さんたちはこの念体を使って身体を強化し重い資材を運んでいるんだろう。

 男性が少なくなった世界だから人類も進化したのかな? でもあんな大きな資材どこに使うんだろう。


 ちなみに念動の能力があるから、クレーン車なんかはこの世界にない。

 複数人でやれば大概のものは高い所や低い所、移動なんかも簡単にしてしまう。

 念体で運ぶか念動で運ぶかはその現場の状況で変わるようだ。


 念動を使い夢中で雑草を抜いていればあっという間に10時になる。差し入れの時間だ。


「野原さん、これ休憩時間にみんなで飲んでください」


「え、あ……」


 冷やしていた500mlペットボトルのお茶を人数分と、適当な量の菓子パンやお菓子など、女性の好みなんて分からないから適当に準備していたものを野原さんに渡してから、そそくさと逃げる。


 野原さんなんかぷるぷる震えていたけど、怒ってないよね。苦情は過去のやらかしでお腹いっぱいだから、聞きたくないな。


 俺も冷たいお茶で喉を潤してから再び雑草と戯れる。


「あ、あのタケト君。これよかったら」


「へ? 俺に」


「はい」


 少し時間をずらして休憩に入った業者さんたちから逆に差し入れがもらえた。チョコだったりグミだったりアメだったり細々したものが可愛らしい紙袋にいっぱい。


 やばい。記憶取り戻してから誰かから物貰ったの初めてだから感動して涙が出そう。


「ありがとうございます。いただきますね」


 二人で渡しに来てくれたけど、笑顔でお礼を伝えたら顔を赤くして帰っていった。

 男性が少ない世界だから慣れないことすると恥ずかしくなるよね。分かるよ、その気持ち。


 前世の俺、教室の前で発表するだけで恥ずかしくなって顔を赤くしていたもん。でも今は配信していたくらいだし平気だ。慣れってすごいわ。




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