第2話

「なるほど、こうするのか」


 ネッチューブの掃除している動画を参考にして汚れを落とす。


「おっ、ほんとに取れたわ」


 汚れは落とせるが傷やへこみは無理だな。投げ入れられている小石を拾いつつ考える。というか、そろそろ窓ガラスを直さないと廃墟に見えそう。すでに手遅れかもそれないが。


 ということで、こちらも窓ガラスの替え方の動画を参考に採寸して必要な機材をネット注文。外に出なくても買えるって便利。


 数日後。


「マジか……」


 ピンポーンが鳴ったからモニターを見れば、そこには誰も映っていない。

 でもガシャリと何が割れる音が聞こえたので、首を傾げながら開き門の所まで行ってみれば、ネットで頼んだ商品が無残な姿で散らばっていた。配送業者どこよ。俺受け取りのサインもしてないんだけど。


 とりあえず証拠の写真をパシャリとスマホで撮って片付けた。

 でもそれだけ。抗議したところで今の俺だと、自作自演だと疑われてまた炎上する未来しか見えないから。諦めも肝心。


「ふぅ、こんなもんかな」


 次に修繕用のキットをネットで頼んでみたらそっちも使えない状態になって届いたのでネット購入は諦めた。


 だから、割れた窓ガラスを慎重に外してサランラップを貼った。ちなみにサランラップは深夜に変装してからコンビニで買った。


 防犯上よろしくないけど、ここ3ヶ月こんな状態だったのだ。今更だろう。


 それにこの家、2、2メートルほどの分厚いブロック塀に重厚な開き門がありブロック塀を乗り越えようとしたらセンサーが反応するようになっている。


 センサーが反応すれば男がいる家庭には必ず設置してある地下シェルターに逃げ込む。確認したら一週間分の保存食があって感心した。記憶が戻る前の俺が知っていたらすぐに無くなっていたかも。危なかった。


 あとはシェルター内にある警報器のスイッチを入れれば警察が来てくれる仕組みだ。


 もちろん、そのセンサーが壊されても警察がくるようになってる。


 だからセンサーは壊されずに泥で汚されていることが多い。センサーの拭き掃除が毎日の日課になったよ。


「さてと……」


 家の中の掃除が大体終わったので、今度は敷地内に投げ込まれた汚物や小石なんかを集めるとしよう。


 一週間後。


「ふう」


 俺は額の汗を拭った。一箇所に集めた小石や何やら分からない物体の山ができたが、ほぼ元通りなった。と思ったら、


「ん?」


 誰がの声が聞こえてくる。


 ————

 ——


「はーい。みーこだよ。今日はとあるお宅の近くまで来ています。皆さん誰だと思いますか……」


『あれじゃんデブトだろ』

『前回そう決めたじゃん』

『デブト』

『クソデブト。死ねばいいのに』

 ・

 ・

 ・


「あはは。今日はなんだかすごい速さでコメントが流れるね。速すぎて読みにくいけど、そうです。

 今日は女性から癒し王子との愛称で親しまれ、今や超人気配信者でもありますカズヤ様。そのカズヤ様を罵り炎上させたタケト君じゃなくてデブト君のお宅にきていまーす。はーい拍手」


 パチパチ。


 スタッフと共に私は大袈裟に拍手をする。


 私こと立花美琴(たちばな みこと)はネッチューブではみーこという名で動画配信している。ちなみに登録者数は5万人。


 いつもは男性とのあれやこれやの妄想話で花を咲かせるが、最近はもっぱらカズヤ様にやってほしいことで勝手に盛り上がっている。


 そんな中、ふと、カズヤ様を煽り炎上したタケト君。男性は見れるだけで元気がでるから私もチャンネル登録をしていた。でも騒動に巻き込まれたくなかったので今は解除している。


 その彼の今はどうなったているのかという話がふと上がり、みんなも2ヶ月前までのことしか知らなかった。


 理由として2ヶ月前までは暴露系ネッチューバーが現地まで赴き悲惨な状況をこと細かく説明しては笑っていた。


 私も見たがあれは酷かった。通る人通る人何かわからない物体を投げ入れいていたし、暴露系ネッチューバーも複数人で来ていて小石の投げ入れては誰が一番窓ガラスを割るかゲームと言って大いに盛り上がっていた。

 でもそれって立派な犯罪行為だよ。


 500万回は再生されていたと思うけど、彼女たちを咎めるようなコメントはなく、そのネッチューバーが犯罪行為で捕まったという話も聞いていない。


 被害届は出ていないのかしら? 俺様気質のタケト君にしてはちょっと意外。


 見ていてあまり気分のいいものじゃなかったけど、下手に擁護すると私の人生が終わってしまうから静観したけど。


 でも前回の生配信が、何がキッカケだったか忘れたけど、ふとタケト君の話が出て今どうなっているのかあれこれみんなで妄想して盛り上がった。


 私は正直乗り気ではなかったが、登録者数がやっと5万人に入ったばかりの現状、場をしらけさせてせっかく届いた5万人の登録者数を減らしたくなかったので、次の配信は私が現地に行って現状を確認してくるよ、という流れで終わった。


 タケト君の家、ウチから意外と近いのだ。駅2つ分電車に乗り駅から徒歩で行ける。

 ゆっくり歩いても1時間もかからないのだ。


 それで、なぜ2ヶ月で暴露系ネッチューバーがタケト君から離れてしまったのかというと、同じ題材だと再生回数が伸びないのもあるが、つい1ヶ月前、カズヤ様がある動画を配信したことが大きい。

 カズヤ様が作曲したという歌を歌っている動画。世間は大騒ぎになった。


 曲はいいし歌声もサイコー。何度聴いても感動して涙が止まらなくなる。


 暴露系ネッチューバーもそっちに流れた。というかカズヤ様の自宅まで実際に行って作曲している風景を収めてバズっていたよ。


 最近では歌手としてテレビに出る日も近いのでは? という噂話まで広がっているし、タケト君のことを忘れている人は意外と多いかも。


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