第9話 トーナメント序盤、まずは後輩に場数を踏ませることから始める②
【頑張れ】近江県高校野球スレ117【湖国球児】
291:やきうのお姉さん@名無し
近興越高校 対 ときめき学園
4対14でときめき学園の勝利
292:やきうのお姉さん@名無し
継投しなくても勝てたんじゃない?と思ったが、経験を積ませにいったのかな
次の投手も一年生だし、アンダースローの変則投手だから、滅多打ちに遭っても余裕な場面で試運転したかったんだろうな
293:やきうのお姉さん@名無し
近興越高校ようやった
スローボール使いから急にアンダースローのシンカーボーラーに代わって対応難しかったと思う
軌道も全然違うし
294:やきうのお姉さん@名無し
近興越は打撃力ある方だとは思うよ
相手が悪かったな
ちゃんと最後まで声出して戦ってて偉いと思った
295:やきうのお姉さん@名無し
こうしてみると投手層が厚いな、ときめき学園
でも本格派は緒方一人か
強いて言うなら森近も140km/h近く出せるけど、やっぱり150km/h出せる怪物級の投手と比較するとね……
296:やきうのお姉さん@名無し
分かっちゃいたけど、ときめき学園の打線凄いな
◇◇◇
前回の試合の反省会。
全員を集めて対面でミーティングしても良かったが、せっかくスマホがあるのだからグループトークでやる方がいい、と俺は考えてオンラインで済ませることにした。
部活動の練習時間に厳しい制約があるから、というのもある。部活は鍛える時間、あまりその時間をミーティング時間で無為にしたくはない。
初戦の第三回戦(※ややこしいがときめき学園はシード校なので最初の戦いである)は、結局4対14の5回コールドで圧勝だった。
だが課題がなかったわけではない。
――グループトークアプリを使った、オンラインミーティング。
質問箱アプリを使って、匿名で意見を書けるようにする仕組み。それがときめき学園の反省会の大部分を占める。
匿名にすることでバンバン積極的に意見を出してもらい、それを上級生である俺たちが「これはその通りだな」とか「これはちょっと違う」とコメントしていく。
こうすることで、一年生も遠慮なく意見を言えるようになるし、ちょっと違うぞと訂正するときも、意見を出した人が恥をかかずに済む。野球のケーススタディの展開にもつながるし、ディスカッションの叩き台にもちょうどいい。
例えば。
①:【今回のフィル-甲野バッテリーは、投球テンポが速かったので、打者に狙いを絞らせたりする暇を与えず、結果ゴロやフライを増やすことができたんじゃないかと思う。テンポよく投げるのを続けてほしい】
甲野コメント「打たれた後、動揺してテンポのいい投球が出来てなかったと思う。ランナーが出てもゲッツーのチャンスが増えたと思って開き直ってほしい。内野ゴロになりやすいようにリードはこっちが考える。安心してほしい」
②:【フィルは牽制が全然できてなかった、牽制ができればもっと良くなると思う】
星上コメント「俺も球速がないピッチャーだからフィルの気持ちは分かる。牽制がないって相手に読まれるとリードを長く取られるし、楽に盗塁やエンドランを決められてしまうから牽制は覚えたいところ」
緒方コメント「無理やりに奪三振できるような決め球がない以上、純粋な打者勝負はできないから、フィールディングや牽制も上手くなってほしい」
③:【今回のクリーンアップ打撃陣の活躍は見事だったと思うが、何か反省点はあるか?】
羽谷コメント「どちらかというと今回、一巡目の上位打陣はあまり投手の球種を引き出すような打撃が出来ていなかった。自分は割と浅いカウントで手を出してしまったし、そのあとの星上も森近も自分のテクニックに任せて無理やり打った感じ。チームバッティングではなかったので、そこは真似しないでほしい」
星上コメント「相手ピッチャーの球種を引き出すのも仕事だけど、まあ俺が敵の球種を大体リサーチしちゃってるからね(ドヤ顔)」
甲野コメント「そのリサーチを過信しすぎて、去年、大沢木投手にフォークを投げられて痛い目を見たのでは?」
星上コメント「……反省します。公式戦限定でフィルタをかけてたので、公式初披露の球種は読めなかった。練習も調べます」
緒方コメント「どうやって調べてんのお前?」
星上コメント「『野球データ統計調査委員会』から取り寄せてます」
④:【ピッチャーが水川に代わってから、ヒヤリとするいい当たりが増えたと思う。対処はあるか?】
星上コメント「難しいな……」
甲野コメント「リードの観点で言うと、球速帯がフィルと水川で似ている。120km/h台のストレートと100km/h台の変化球。ピッチングの軌道が異なるから目付は変わるものの、速球を投げられる緒方や森近で詰まらせて討ち取るほうがリードは楽。今回はシンカー頼りのシンプルな配球になり、相手にいくつか読まれたと思う」
星上コメント「アンダースローの特徴を活かしやすく、かつ右にも左にも通用するシンカーを決め球にする方針は間違っていない。ただそうなると、カウント球にシンカーを使いにくいので、カウントを整えるストレートを叩かれた印象がある」
森近コメント「シンプルにインハイを厳しく攻めきれてないように見えました。緊張で腕が縮まっていたように見えたので、4~5点献上してもいい、ぐらいに開き直って堂々投げてほしかったですわね」
⑤:【もし自分が敵のチームの立場なら、ときめき学園の今回の守備をどう崩したか?】
緒方コメント「足だな。経験が少ない1年、変化球頼みの軟投派ってことなら、盗塁、エンドランでプレッシャーをかけていたと思う。去年のオレたちみたいにバント&バスター戦法で揺さぶりをかけられる」
星上コメント「何度も言うけど、俺は、思い切って強振される方がいやです。打率1割ぐらいのブンブンホームランのほうが絶対にいや。今回の試合もそれだけが心配だった」
羽谷コメント「1年投手のフィールディングに難があると読んで、ボクならセーフティバント敢行も考えるかな」
森近コメント「フィルさんは決め球が読みにくかったですけど、水川さんは決め球とコースにある程度狙いが絞れますので、強振を考えますわ」
甲野コメント「どちらかというと、守備を崩すより、失点を抑えたい。敵ながら、ランナーを押し出してまで4番5番を敬遠するのはやりすぎ。初回で4点取られた時点で、腹を括って、ゲッツー狙いに出るべきだった」
……など。
反省点とまで言わなくとも、色々と振り返る材料はあるものなのだ。
ただ、ディスカッションの中で、必要以上にフィルや水川を晒し上げにしてしまいすぎるのも酷なので、質問は適度に上級生側で弾いたりしている。
こういった振り返りは、やりすぎても良くない。
細かすぎる分析や反省は自己満足以外の何物でもない。重要なことを見落としていないか再確認するぐらいがちょうどいいのだ。
「みんな、色々意見ありがとう。次の試合も実験的なメンバーになることは間違いない。次世代の育成、投打の左右バランス、投手ローテなどを勘案して、今後も控えをどんどん投入していくから、よろしくたのむ!」
俺のコメントを最後に、今回の反省検討会は終了した。
こういった『匿名でも意見を出せる』という仕組みが持続すれば、きっと俺たちの世代が抜けた後も、しっかり自分たちで課題を発見して成長していってくれるはず。
もちろん、気を抜くと集団いじめに繋がりかねないので、保護者役となる教員がグループトークをチェックするなどの監査機能はどこかで入れたいものだが――今のところはいい方向に働いているように思われた。
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