第48話 ショーケース!⑥
『話題のイーファスピッチと勝負できる!? 君もイーファスピッチを体験しよう! 一打席勝負、アウトにならなかったら一年間アイス食べ放題! ※参加費20$』
後にイーファスピッチ・チャレンジと名付けられたこのキャンペーンは、大きな盛り上がりを見せた。大量のノンプロ野球選手たちが乗り込んで来たからである。
人気番組であるAGTに出演した、あの妖艶なセクシーボーイを一目見たい。
可能であればあの摩訶不思議なイーファスピッチを体験してみたい。
あわよくば一年アイス食べ放題の副賞も欲しい。
そういった思惑で、我こそ腕に自信あり、といった者たちが次々と挑んで、そして沈んでいった。
(各球団のスカウトも来てくれているな。何と言っても俺の投球を見たいだろうし、ここに集まっている挑戦者たちにしても将来有望な若者が時々挑んでくるしな)
アイスクリーム業者との提携を行って、お遊びの企画として始まったこのイベント、それがいつの間にか、結構真剣な勝負の場になりつつある。
大陸のあらゆる場所から、有望な選手たちがわざわざこのマハ市に訪れるのだからとんでもないことだ。
正直よくわからない感覚だが、そういうものなのだろうか。
俺も『テレビに出演していた超かわいい女子と野球で勝負できる!』ってなったら挑戦していただろうか。
もしかしたら、アイドルとの握手会のために遠征するファン、みたいなものかもしれない。
(まあ、どうでもいいや。たまに有望選手たちがやってきて俺に挑んでくれる、そして俺はそいつの苦手なコースをイーファスピッチで突き続ける。すると高い確率で俺が勝ち、スカウトたちは俺への評価をさらに高めてくれる。いいことづくめだ)
俺は俺で、いろんな選手たちをステータスオープンで分析することができる。
まあまあ上手いなあ、程度の選手もいる。
こんな逸材がいるのか! と驚くような選手もいる。
とにかく千差万別。でも俺がやることは単純である。有望選手を見つけたら後で連絡先を交換する。
そして投げ勝つ。
この企画は、今のところはお遊びの企画でしかないが、実質的にはシート打撃方式のショーケースのようにもなっている。すなわち俺だけ何度も何度も投げるショーケース。
投手と打者がお互い初対面の場合、大体は投手有利。つまりこのショーケースは、ほとんど俺が有利に終わる。
イーファスピッチを投げる。投げる。投げる。
大量に空振りを取りながら、俺はちょっとずつイーファスピッチのコツをつかみつつあった。
(これ、90km/h、80km/h、70km/h、60km/h、50km/h、ぐらいの五つに分解して、イーファスピッチの中でも緩急差をつけてしまった方が空振りを誘いやすいな。後は、スローカーブにするか、ナックルにするか、ただの山なりにするかぐらいは混ぜてもいいし)
これだけ大量に戦っていると、さすがに力を抜いたピッチングのコツはつかめてくるし、大陸球にも十分慣れてくる。
次々に打者を打ち取りながら、俺は自分の成長を感じて嬉しくなっていた。
◇◇◇
『ミスター星上は、本当にやってくれましたね……』
アオカケス大学付属高校の学長は、留学してきた星上少年のレポートを見ながら、頭を抱える羽目になった。
『冬場は確かにショーケースがありません。だからといって、自分自身で
嫌な予感はあった。Atlas’ Got Talentを含めた、才能発掘型バラエティ番組に出演するよう色々と画策していた時点で気づくべきだった。
彼はTVに出演したがっている。
理由は
『イーファスピッチは、あんなに簡単にストライクを取れる球ではありません。ですが彼の制球術は本物です。テレビを使って証明してしまった。あれだけぽんぽん投げてもストライクゾーンに入ることを立証してしまったわけです』
超スローボール。あの少年流に呼ぶならばイーファスピッチ。
普通、あの球はあんなにストライク宣言を取れるものではない。審判が半分以上をボール球宣言するような球である。
だが星上少年は、それを逆手に取った。
いくら投げてもきちんとストライクゾーンに入ることさえテレビで実演してしまえば、今度この球を投げたときにボール球宣言されることは滅多になくなるのではないかと。
しかも星上少年はほぼ常に動画撮影をしている。人気のVideoTuberとして知名度がある。イーファスピッチをボール球宣言しても、後からその審判内容がおかしければ球審にバッシングが向かう。
つまり、審判はストライクという他ない。
否、もちろんちゃんとボール球はボールだと宣言すればいいのだが、それでも根拠なくボール宣言は不可能になった。炎上回避のためであれば、迷ったときはストライクと言っておけばいい。そんな状況になってしまった。
これが非常に良くない。
イーファスピッチでストライクを取れる有望選手が、事実上、星上少年だけになってしまった。
結果的に、複数球団からも熱い注目を浴びることになった。
『イーファスピッチ・チャレンジ、ですか。事実上のトライアウトですね。よくもまあこんな状況を作り出しておいて抜け抜けと』
ヒットを打ったら記念チェキ、本塁打でハグ&記念チェキ。
そんな副賞を付けたら、応募がますます爆増したというのも笑えない話だ。
とにかく星上少年は、事実上のショーケースのチャンスを大量に作り出した。結果、彼は500人近くの打者と対戦し、そのうち460人近くは凡退に抑えている。
つまり被安打率1割を切っているのだ。いくら挑戦者の中に素人が混ざっているとはいえ、イーファスピッチ一つでこの成績となると、相当優秀な選手であると認めざるを得ない。
『そして、例の「野球データ統計調査委員会」からは、例のごとく有望選手のレポートファイルですか……。本当に彼は厄介ですね』
この「野球データ統計調査委員会」の調査力には舌を巻くしかなかった。
今回のイーファスピッチ・チャレンジに参加した人間は、なぜか知らないが、ミート、パワー、走力、守備力、送球、選球眼の要素を五段階評価されて「野球データ統計調査委員会」にファイリングされる。
そしてそのデータが、なぜか知らないが各球団スカウト部宛に共有されたりする。
もちろん、怪我や故障の可能性の調査も含めて、である。
スカウトをやっている人間からすれば、垂涎物の情報であろう。膨大な手間暇をかけて調査する手間を一気に楽にできるのだから。
もちろんアオカケス大学もアオカケス大学付属高校も、この恩恵にあずかっていた。イーファスピッチ・チャレンジの志望者の中には、アオカケス大学やアオカケス大学付属高校を志望するものも存在する。
そういった者たちはエントリーの時点で希望欄にチェックを入れるわけだが、それを「野球データ統計調査委員会」が調べるという算段になっている。
そうして送られてくる調査結果。これがまた非常に品質が高い情報であり、大学や高校の推薦入試の材料に使えるのだ。
『おかげで我が大学も、少なからず恩恵を受けています。バスケットボールの推薦で取ろうとした子が実は足を挫いていたり、アメリカンフットボールの推薦で取ろうとした子が本人も知らないうちに靭帯をひどく損耗していて早期発見に繋がったりと、野球に直接関係ない子でも調査してくれるのですからね』
バスケをやったりアメフトをやったり、野球とは全然違うところで活躍している生徒でも、イーファスピッチ・チャレンジにさえ参加すれば、なぜか知らないが調査してくれる。
それだけで、アオカケス大学とアオカケス大学付属高校の事務側からすると非常にありがたい話であった。
スポーツ推薦枠としてGPA評価に少しだけ下駄を履かせる前に、本当にその選手を取って大丈夫かの再確認ができるのだ。学校側からすればありがたい話であった。
イーファスピッチ・チャレンジというふざけた企画。
そして、裏で画策する「野球データ統計調査委員会」プロジェクト。
星上少年の取り組みは、ただ単に野球留学してきただけの高校生、という範疇から大きく外れ始めている。
『そろそろ春が近づいていますね。真剣に考えなくてはいけません。彼は男子野球でマハ市選抜メンバーに入っていますが……アオカケス高校の女子野球チームに入れてもいい気がしてきましたね』
アオカケス大学付属高校の学長は、目の前でにんまりと笑っている孫に問いかけた。
竜崎心。
あの規格外の少年をこの地に連れ込んできた、かわいい孫娘。
『あはは、グランマもついに認めましたネ?』
『ええ。認めましょう。当初こんな話が来たときは耳を疑いましたが――彼を我が高校に留学させて大正解でした』
『いえーす。星上サンは、絶対に男子ソフトボールの世界チャンプになれマス』
でも――と言葉を切る孫娘は、そのまま目を細めて笑顔で言い切った。
『ワタシは、星上サンを絶対にメジャーリーグに連れていきたいんデス。彼ならば絶対に、数々の伝説を残すピッチャーになれマス。分かりマスね?』
その瞳は、野望に爛々と燃える色。自分の信じるオスであれば、絶対にそこまで勝ち上がると確信している危険な色――。
――――――
■今後やりたいこと
①ホッシとみんなの成長を描きたい
進捗:みんなの覚悟UP+みんなの技術UP×2
ホッシの大陸球の慣れUP+ショーケースで結果をたくさん残す+新しい変化球
②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです
進捗:学長にスポンサーになる交渉中+ショーケースで人材発掘+自前で野球イベント企画
野球データ統計調査委員会の設立+TV番組出演により知名度UP
③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです
進捗:リトルリーグの子たちと仲良くなる+レジェンドの娘に興味を持たれる
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