第43話 ショーケース!①

(野茂英雄選手が居なかったら、果たして今の野球にトルネード投法が存在しただろうか)


 これは非常に難しい問題である。

 トルネード投法という独立した投法はない。そしてトルネード投法に似たような投げ方を試みる投手は野茂選手以前にもいたとも言われている。[1]


 引用[1]:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%89%E6%8A%95%E6%B3%95


 しかしそれでも、海外に渡って大リーガー相手に、あの周囲を圧倒するようなダイナミックな投球フォームを駆使して結果を残してきたからこそ、トルネード投法が世に定着したのではないかとも考えられる。


 翻って、この世界ではどうか。

 シルフェンズの英雄、風野が編み出したとされるこのトルネード投法。要はこの世界にも、野茂選手と同じようなことを思いついて、同じように結果を残した人がいるという訳だ。


(うーん……実はこれも、俺がやりたかったことなんだけどな……)


 白状すると、実はこれも俺がやりたかったことであった。柔軟性と下半身の強靭さを活かして、このダイナミックな投法をやってみたら、きっと凄いハッタリになるだろうと思っていた。

 実際、ちょっと練習もしていた。制球が悪くなることが大きな難点だったが――。


 結果、すでに先達がいるというオチである。

 これもまあ仕方あるまい。野球とはこういう世界なのだ。


 そのうえ、リトルシニアのガキンチョが同じことをやっていると聞いて、俺は呆れてしまった。


「この風野って子、実は、星上サンの熱狂的なファンらしいデスよ?」

「えー……ちょっと困るな」


 竜崎と一緒にトレーニングを行いながら、俺は何だかむず痒いような気持ちになっていた。

 まさかのまさか、風野二世が俺のファンだという。

 絶好のチャンスのような気もするし、何だかとんでもない厄介ごとの予感もする。


(うーん、そっかぁ……メジャーリーガーの娘と結婚もありだよなあ……)


 俺の人生の目標は、金持ちになって優雅な生活を送ることである。

 つまりこの風野って子に気に入られてしまえば、それでハッピーエンドともいえる。

 だがそれでいいのだろうか。


 一介の野球選手としての俺が、違うと直感している。ここで風野2世と雌雄を決するべきと、そんな好戦的なことを考えている。

 彼女と戦ってみたい。たとえボロボロに負けたっていい――。


(できることなら、一泡吹かしてやりたいものだがな)






 ◇◇◇






 大陸に来てからというものの、俺はトレーニング漬けの毎日を送っていた。

 筋トレ、柔軟、フォームの確認、そして視野トレーニング。

 竜崎とのキャッチボールと、ランパス、そしてバッティングセンターでの打撃練習。


 身も蓋もない言い方をすると、練習時間は増えた。留学先の学校で習うような課程はほぼ履修済みで、ペーパーテストを受けてほとんどの単元で一発合格してしまった。元々、論文作成能力も高かった俺は、この大陸の教育に非常にマッチしていたようで、学業についてはもう大半は教えることはない、とばかりの結果を叩き出してしまっていた。

 留学中に海外で学べる高校の教育課程は、半分以上やりきってしまった――ということになる。


 なので、練習時間が必然と増えていた。


「……早く風野茂英と戦いたいな」

「わーお、気が逸ってマスねー。いったんワタシと戦いマス?」

「……竜崎、もしかして嫉妬してる?」

「Oh! 星上サンったら、お灸を据える必要がありマスねー!」


 地元のショーケース参加に向けて、事前調査票を記載しながら、竜崎と軽口をたたく。


 俺と四六時中一緒にいてくれる竜崎は、こう見えて相当賢い。実は特待生身分であり、高校課程も飛び級で卒業寸前なのだという。

 じゃあそのまま大学に行けばいいんじゃないか――と思うが、どうやら彼女は名門大学へ進むためにスポーツでも実績を作りたいらしい。大陸国の大学進学事情を説明すると、学問のみならずスポーツでも実績を残していないと名門大学に進学しにくいのだ。邦洲国のように勉強だけすればOKという訳ではない。最高学府なんだから学業の成績だけで判断するほうが平等だと思うが、まあ、そういう決まりになっているので仕方がない。


「ショーケースでは、一緒に無双しましょうネ! ワタシも結果が必要なのデス!」

「ショーケース……ビジネスアイデア……風野二世との勝負……」


 半ば上の空でエアロバイクを漕いでいると、突然竜崎に顔をつかまれた。

 熱烈なキス。辛うじて頬に逃げる。


「もう、ずるいデス」

「悪いな、それはまだNGなんだ」


 竜崎のキスを紙一重躱して、俺はエアロバイクから降りた。


「さあ、明日はショーケース。つまり、宝探し・・・だぜ?」






 ◇◇◇






 俺はショーケースのことをちょっと違う角度で捉えていた。

 大半の人にとっては、自分の実力をスカウトマンにアピールするための場所だと思っている。

 だが俺は発想の逆転を行った。せっかくステータスオープンの分析力と、巨大な動画配信チャンネルがあるんだから、これを使わなくてはいけない。


 すなわち――身体能力的には極めて優秀なのに、トライアウトの結果が散々で、スカウトの目に留まらなかった不運な人を再発掘してあげる、というやり方だ。






――――――

 ■今後やりたいこと(再掲)

 ①ホッシとみんなの成長を描きたい

  進捗:みんなの覚悟UP+みんなの技術UP×2

     ホッシの大陸球の慣れUP

 ②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです

  進捗:学長にスポンサーになる交渉中+ショーケースで人材発掘

 ③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです

  進捗:リトルリーグの子たちと仲良くなる+レジェンドの娘に興味を持たれる

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