第44話 ショーケース!②

「……なにかね、このメールは?」


 ブサスク州マハ市のホームランダービー調査書、と書かれたメールが、各地の球団スカウト部宛に送られた。

 よくある外部からの迷惑メールか、と思った人たちは、そのメールの内容をそんなに詳しく読まなかった。

 詳しく読んだ一部の人も、書かれている内容を冗談だと思って、そんなに真剣に取り上げなかった。


「えーっと、なになに? それぞれの選手のミート、パワー、走力、守備力、送球、選球眼について五段階評価をした……?」


 ホームランダービーなのに、走力、守備力、送球、選球眼についても分析評価した、とこのレポートは言っている。

 馬鹿げたレポートだとほとんどの人は考えた。


「……ふうん、スカウト部注目の選手はまあまあ抑えているな。でも、そんなのは素人でも分かる。大したレポートじゃない」


 ほとんどの人は、レポートの内容を取るに足らないものだと考えた。極一部の人間だけは、メールの内容を面白がった。だがそれは、レポートが面白いというよりは、送信者の名前に心惹かれてのことである。


 野球データ統計調査委員会。


「……そんな法人、どこにも該当しないな。普通なら詐欺を疑う案件だが」


 興味深かったのは、レポート内でリストアップされた選手たちが、身体のどこかを怪我している可能性の報告だったが――そんなこと第三者がわかるはずもない。

 ただの戯言だと大半のスカウトたちは判断した。

 そして、そのときは特に騒ぎ立てたりしなかった。


 その時点では。






 ◇◇◇






「なんだ、このレポートは……」


 レポートの数が多すぎる。しかも詳細に渡っている。

 たとえばこの選手は、ストライクゾーンを九分割したときのアウトローに弱く、変化球はカーブに弱い――などの事細かなデータが載っている。

 選球眼はコースが外角になるにつれて悪くなり、アウトローだとボール球とストライク球の違いがあんまり分からなくなっている――などと書かれていたりする。


 それが在野の素人のみであればいい。各地のショーケースを巡ってよく調査しているのだろうな、という感想だけでしかない。

 だが、メジャーで活躍しているプロに遠慮なくそう書いていたり、二軍でファーム戦を行っているマイナー選手たちについても遠慮なくビシバシと書かれている。

 テレビ中継で見た分析結果、などと訳の分からないことを言っているが、要するにこれは改善提案書に近い。


(……あの選手とあの選手に怪我の可能性……ね。うーむ、我がチームのスポーツドクターと同じような所見を報告してくるとはな)


 このレポートが、ただの罵詈雑言とかであれば簡単に捨て置けた。たまにいるのだ。監督気取りで、偉そうな口ぶりで采配を批判するようなやつが。

 だがこのレポートはそんな感じではない。あくまで淡々と選手の評価を行い、選手の怪我の可能性を早めに報告してくれている。


 レポートの送付者はやはり、例の野球データ統計調査委員会。


「会社設立の登記申請中らしいけど、一体この委員会はどういうデータ集団なんだ……?」


 このときはまだ、野球データ統計調査委員会のレポートについて、それほど注目は集まっていない。

 しかし――故障の可能性のある選手を見抜く時点で、この謎の委員会のレポートは無視できない存在になりつつある。






 ◇◇◇






「何だって……? 過去の審判の誤審率を統計化した、だと?」


 例の野球データ統計調査委員会から『Umpire Scorecards計画』[1]と銘打たれたレポートが手元に届いたとき、各球団のフロント陣営たちはざわめきを隠せなかった。

 誤審――確かに審判は人間であり、どこかで審判ミスを犯しうる。球審は、時に時速100マイル(160km/h)近くの速球がきっちりゾーンに入っているかどうかを、一瞬の時間で判断しないといけないのだ。それも何百球にわたり、である。

 判断誤りが出るのは当然である。


 だがしかし、第三者が追試験を行うのは極めて難しい。

 このレポートの作成者は、わざわざ映像を取り寄せてそれぞれ人力で再び判定しなおしたとでも言うのだろうか。

 ただでさえ匿名の第三者からの報告なのだから、どこまで信じてよいのか眉唾物である。


 それでも球団のフロント陣営にとって驚きだったのは、選手たちから噂話で聞いていた審判の評判と、送られてきたレポート内容が、なんとなく似た結果を示していたからである。


「確かに、この審判はストライクゾーンが外に広く内に狭いと噂されているが――この数値レポートを見ると傾向が見て取れる。それにこの審判はミスジャッジが多いと言われているが、実際このレポートでもそのように報告されているな」


 フロント陣は訝しんだ。このレポートの作成者は、本当に、過去何百試合の中で投げられた何万球の審判結果データを統計化しているとでもいうのだろうか。

 あるいはこのレポートの作成者は、球界のどこかにコネクションを持っているのだろうか。


 いずれにせよ看過できるものではない。

 このレポートの内容が世に出回ってしまうと、成績の悪い審判員を外せというバッシングに繋がったり、過去の試合の結果を覆せという暴動に繋がりかねないからである。


「この野球データ統計調査委員会にコンタクトを取る方法はあるか? メールアドレスしか書いてないが、他に情報がないか調査してくれ」


 野球データ統計調査委員会を名乗る匿名の第三者。

 その名前に関心が集まるのは、そう時間のかからない話であった。






 ◇◇◇






『こんにちは、学長。野球データ統計調査委員会の星上・・です』

『……やってくれたわね、ミスター星上』


 アオカケス大学付属高校の校長室には、少々不思議なメンバーが集められていた。

 星上の留学を後押ししてくれた協賛企業の広報部社員。

 アオカケス大学付属高校の学長。

 そして、日本からやってきた例の少年――星上雅久。


『もう一度聞きますが、学長。新しいビジネスに興味はありませんか?』


 手元にあるのは、大まかなビジネスモデルを掲載した事業計画書。

 市場規模、課題とその解決策、サービスの内容、利益、データの流れやコストの構造、数値計画、独自性と差別化、競争戦略――それらを分かりやすい図式で記載した、いかにもこなれた資料であった。


『大陸国では、大学初のベンチャー企業が多いと聞いています。これは大学のもつ知的財産の活用、ライセンス導出、商業化のためであり、ベンチャー創立のための支援プログラムも用意されていると聞きます。補助金や助成金について詳しくお伺いしたいです』


 野球の各種データの集計、および統計化のビジネス。

 星上の目指している新しい計画が、少しずつ輪郭を見せ始めていた。


『率直に言います。アオカケス大学のベンチャー支援プログラムを受けたい。近々このメールアドレス宛に、複数の球団からコンタクトがあるはずです。データを買いたい、あるいはデータを利用した経営改善コンサルティングを受けたい、とね』


 大陸国のスポーツ産業の中でも、メジャーリーグといえば非常に大きな市場規模を誇る巨大利権である。興行収益は非常に大きく、映像配信や広告効果まで含めたらその利権の大きさは計り知れない――。


『野球の各種データを集計してビジネスにしようという人間は何人かはいたでしょう。ですが彼らは悉く失敗してきた。それが問題なのです。

 確かに過去の試合のデータを遡って、膨大な記録を残すのは並々ならぬ労力と資金が必要ですし、そのデータを買いたいと思わせるには工夫が必要です。

 一般市民がデータの価値を知らないままでは、わざわざ買おうとは思わないはずです』

『……ミスター星上。あなたは、それをどうするつもりかしら?』

私が・・データ・・・で、活躍しましょう――新規ビジネスには広告塔が必要ですからね』






 ◇◇◇






【悲報】ホッシ、男子野球部の練習風景の動画を撮影するも、えちえち過ぎて気が散ってしまう


 1:やきうのお姉さん@名無し

 mttps://www.videotube.com/watch?v=PIwoDHplhcUeFFwakS&list=PLW9Yr7DDpOwsDahGDKe6VquSftRXGKb&index=25

 汗だくで筋トレ(バーピースクワット)する海外のガキども

 ふぅ……


 2:やきうのお姉さん@名無し

 ほんまにエロくてワロタ


 3:やきうのお姉さん@名無し

 待って何でプール入ってるのこいつら


 4:やきうのお姉さん@名無し

 エッッッッ


 5:やきうのお姉さん@名無し

 ムホホww


 6:やきうのお姉さん@名無し

 思った以上に破壊力高くて草

 鎖骨エッロ、胸筋エッロ、腰のくびれエッロ


 7:やきうのお姉さん@名無し

 こういうので良いんだよ


 8:やきうのお姉さん@名無し

 やっぱりホッシの筋肉やばいな

 女子顔負け


 9:やきうのお姉さん@名無し

 スケベすぎて向こうの人たちもホッシに目が釘付けやんけwww


 10:やきうのお姉さん@名無し

 学校併設のプールなんかな? 屋内プールっぽいけど

 よく撮影許可下りたな

 学校もホッシの動画投稿に協力的って、さすが大陸というべきか、邦洲国じゃ考えられん


 11:やきうのお姉さん@名無し

 ホッシの上半身見て、オーマイガー言うてるやつおって草


 12:やきうのお姉さん@名無し

 乳首映っててええんか!?!?!?

 女の乳首は赤ちゃんに哺乳するためのものだからエロくないけど、男のは一応性器だろ!?!?!?


 13:やきうのお姉さん@名無し

 大陸でもOKなんじゃね?


 14:やきうのお姉さん@名無し

 >>12

 ダメなのは宗教厳しいところやね

 先進国でフリーニップル運動に理解あるところは、男でも全然上半身さらしてるよ

 大陸国の場合は州法でOKとNG別れてる


 15:やきうのお姉さん@名無し

 邦洲国でも刑事罰とかにはならないし、迷惑条例にも引っかからないはず

 上半身見せるから代わりにお金取ります、とかやるとNG

 >>12はホッシの動画見るの初めてかな??

 結構ホッシは過去の動画とかで迂闊に上半身さらすから、ネットで検索したらホッシの上半身ポロリはすぐ出てくるよ


 16:やきうのお姉さん@名無し

 プールの運動って肩を冷やすからアカンのと違うか?

 エロいからOKとかじゃなくて、普通にホッシが心配や


 17:やきうのお姉さん@名無し

 動画区分:Educationalで草生えた

 性教育ですかねぇ……


 18:やきうのお姉さん@名無し

 待って普通にホッシ身長でかくない?

 すらっとした見た目で騙されてたわ


 19:やきうのお姉さん@名無し

 えちえちすぎて変な声出た

 もし今後、ヌード出したりAVデビューしたら全部追っかけるわ


 20:やきうのお姉さん@名無し

 動画の解説によると、水泳は有酸素運動の中でも運動強度が高いんだってさ

 膝や腰といった関節への負担を軽減してくれる効果もあるから、部位を傷めるリスクも抑えられるんだと

 可動域を意識して広げながら泳ぐ事で、野球に必要な腕や肩の可動域を増やすっていう説明はよくわからんかったけど


 21:やきうのお姉さん@名無し

 ホッシの動画のいいところは、論理的にトレーニング内容を説明してくれるところ

 あと自分のエロさに無自覚なところ

 ホッシの動画のあかんところは、エロすぎて説明が頭に入らないところ











 ――――――

 [1]に書いてある内容は、下記のようなものをイメージしてます。

 参考[1]:https://nobita-retire.com/umpire-scorecards/


 突然ビジネス編! を始めるつもりはあまりなくて、ビジネスの話をぐだぐだ続けても野球の本筋からそれちゃうからなー……ということで駆け足で一話分に大部分をぶっこみました。

 ホッシには、メインでは野球で活躍してもらい、ついでに動画配信とかビジネスで暗躍してもらうという流れを想定しています。



 ■今後やりたいこと

 ①ホッシとみんなの成長を描きたい

  進捗:みんなの覚悟UP+みんなの技術UP×2

     ホッシの大陸球の慣れUP

 ②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです

  進捗:学長にスポンサーになる交渉中+ショーケースで人材発掘

     野球データ統計調査委員会の設立

 ③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです

  進捗:リトルリーグの子たちと仲良くなる+レジェンドの娘に興味を持たれる



 なんでこんなことをしてるかというと、ちゃんと甲子園に戻るためです(本当か????)


 ホッシは超外道主人公なので、自力で結果をもぎ取ります。

 だから「努力が周囲に認められて世論が変わった!感動の甲子園復帰ストーリー!」というよりは、金とコネの暴力で高校野球に戻る感じにしたいなあ……と思ってます(※クソみたいな思考)

 

 こんな感じで、やりたいことが広がった海外編。

 ときめき学園のみんなが順調にレベルアップしているのをよそに、主人公はマジでお前何やっとんねんみたいな感じで帰国することでしょう。こいつは宇宙人。


 今後とも更新頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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