第41話 地元リトルとの対戦で、実力をまざまざと見せつけるなど①
「練習試合を組みたいということなら、いくらでもあてはありマース! ね、星上サン?」
大陸国では、スポーツ部活動はシーズン制を設けられていることが多い。基本的にスポーツには向いている季節があり、ウィンタースポーツは冬に、サマースポーツは夏に行う。
これは大陸国の体育的考えに基づく配慮だ。すなわち、色んなスポーツを経験し刺激を受けることで、幅広く身体能力を成長させて、本人の可能性を大きく広げるという考え方。身体をあれこれ動かしてみて、
数あるスポーツから様々な適性を探るという意味では一理ある方針だろう。何せ、スポーツは感覚の世界。身体の動かし方に合う合わないがある。いろいろスポーツをやらせて確かめないと分からないこともある。
さすがは大陸流、
――各種スポーツのための広大なグラウンドを用意できるどでかい国土と、世界各地からスター選手が集まる環境だからこそできる、スケールの大きな話ではあるが。
「高校野球は春のスポーツ、デスね。2月~4月末までの3か月はSectional~Regional公式リーグ戦、5月はプレーオフのState Championshipトーナメント。でも、野球の聖地の一つであるマハ市では、一年中野球をやる子も多いんデスよね」
春のスポーツということは、これからの秋後半と冬はオフシーズンということになってしまう。秋からの留学先にマハ市を選んで正解であった。俺の目的はあくまで、野球留学なのだから。
ふと疑問に思い「6月以降はやらないのか?」と聞いたところ、
「別にやるんデスけど、7月からはサマーリーグが始まりマスからねー。要はビッグ・ショーケース、デス。邦洲流に言うなら、大陸全土トライアウト、デスかね?」
竜崎の答えを聞いて、俺は納得した。
なるほど。野球で生計を立てていきたいと真剣に考える野球少女たちは、7月ぐらいの時期からトライアウトを見据えて自己鍛錬に励むのだろう。
ちょっと興味はあるものの、それぐらいのタイミングで留学を終えて邦洲国に帰国しないといけないので、サマーリーグはお預けだろう。
「秋は、大陸メジャーリーグのポストシーズンが始まりマスからねー。ハイスクールで野球大会を開いても誰も見に来てくれないでしょうネ?」
ポストシーズン。つまりナ・リーグ(ナショナルリーグ)とア・リーグ(アトラスリーグ)の上位6チームずつ、合計12チームが、ワールドシリーズで対戦してチャンピオンを決定する時期。
10月ごろからプレーオフが始まり、10月末から11月初旬に優勝球団が決定する。
つまり今だ。
大陸国の高校スポーツは、入場収入や放送収入が部の活動費やコーチの報酬になる仕組みなので、メジャーリーグの方が衆目を集めるようなタイミングを外す。
なので春先に高校野球が盛り上がる――というわけだ。
俺の勝負は春。
秋と冬は練習試合とショーケース出場に充てろ、ということだ。
「で、俺は
「いえーす! 実は星上サン、アナタに地元の女子野球チームからいっぱい練習試合のお誘いが来てマース! わーお!」
俺の立ち位置は少々特殊だ。
マハ市の誇る男子野球選抜チーム(Sectional)にいきなり招聘されたのだ。このまま順調にいけば、ブサスク州東部(Regional)、そしてブサスク州(State Championship)にステップアップできる。
マハ市にState Championshipの優勝のトロフィーを持って帰ること。俺の留学には、それを期待されている。
「……竜崎とは戦えないのか?」
問いかけた瞬間。
竜崎の口元が不気味なほどににんまりと吊り上がった。竜人族特有の、八重歯のぎらつく不気味な笑顔。
黒目が急に細まり、捕食者のような様相を見せた。
「そういうとこ、大好きデスよ、星上サン。ファンタスティック。今度こそぶっ潰しマス」
「そうかい、楽しみにしてるよ」
◇◇◇
久しぶりの試合だ! とテンションが上がったが、地元の少女野球のチームとの練習試合は、クソみたいな結果に終わった。
なぜなら相手がリトルリーグの子たちだったからだ。
(練習試合のお誘いって、リトルリーグの子からかよ! アオカケス大学付属高校のグラウンド借りたいだけじゃねーか!)
もちろんマハ市の誇る強豪リトルリーグで将来有望な子たちなのだが――こんなのOKなのだろうか。
俺の方が年上。
しかもグラウンドの広さは通常の野球準拠なので、リトルリーグ準拠の彼女らの感覚だと全然ちがってくるだろう。俺は慣れているから、フィールディングも全然問題ないが、向こうはフィールディングの感覚がだいぶずれると思う。
大雑把というべきか、細かいことを気にしない大陸流というべきか。
高校硬式野球で鍛えられてきた投球術を前に、相手は凡退の嵐。
男の俺にほぼ完封されて、向こうの子たちは泣きべそをかいていた。
(うーん、罪悪感が……)
これでも手加減をしたつもりである。
例えばフォーク。大陸のボールは表面が滑りやすく、フォークを投げるには邦洲国の統一球よりも力が必要で肘への負担が大きい。なので今回はフォークを封印している。
それに、大陸の球に慣れていないので、やはり変化球の制御が甘い。
ツーシーム、チェンジアップ主体に組み立てて、カーブとスライダーを見せ球気味に使うことで何とかしのいだが、やはり俺の100%のピッチングではない。
(……あれ、でも、いつもはリトルリーグの方が勝ってるんだっけ?)
そう、いつもは逆なのだ。
地元の男子選抜高校生チームが、地元女子リトルリーグといい勝負を繰り広げて、しかも大体負けるらしい。
向こうからすると、俺たちは気持ちよくボコれるカモ扱いだったわけだ。
そんな体たらくでいいのかよ、と俺は思ったが、案外そんなものなのかもしれない。男女の筋力差というのはそれだけ大きいのだ。
多分、最大の差はピッチャーだ。俺も分かるが、リトルで120km/hとか投げてくるやつの球は160km/h相当の速さに感じる。塁間距離が詰まっているせいで、ピッチャーの球をやたら速く感じるのだ。
そんな状況で戦ってきた強豪リトルの子たちだから、男子選抜高校生チームのピッチングを見たとき「ちょろい、これなら打てる」と感じるのだろう。
ということで、俺はカモだと思われていたらしい。
よその国からはるばるやってきた年上のお兄さんを、試合で可愛がってヒイコラ言わせようぜ、なんてことを考えていたようだ。
そりゃまあ、俺の球速は遅いし、そんな感じで侮るのも無理はない。
(うーん……だからといって、ちょっと大人気ないよな……)
ちなみに俺は4打席3安打1本塁打。
最初の一打席は粘りに粘って三振に倒れたが、邦洲国の高校野球と比べたら球速はない。変化量や変化の感覚は全然違うので、最初こそ俺のステータスオープンが上手く機能しなかったが、試合後半になると流石にアジャストできる。
要するに、俺一人で年下のガキンチョをフルボッコにしたのだ。
何というか……罪悪感がすごい。
◇◇◇
【悲報】ホッシ、海外のガキンチョ相手に無双してしまう
1:やきうのお姉さん@名無し
mttps://www.videotube.com/watch?v=PIAOedhcUeFFwakS&list=PLW9Yr7DDpOwsDahGDKe6VquSftRXGKb&index=25
ホッシ、まさかのリトル相手と試合
3対0と、大人気なく無双する模様
2:やきうのお姉さん@名無し
大陸国のガキ泣いてて草
3:やきうのお姉さん@名無し
まーた邦洲国の最終兵器が活躍してしまったか……
4:やきうのお姉さん@名無し
リトル側が不利やろこれ
グラウンドの広さとか見たら普通のベースボール準拠やんけ
5:やきうのお姉さん@名無し
>>4
まあ、いくら男子とはいえ、高校生の硬球がデッドボールになったら問題だからね
リトルリーグの近い距離では投げられないのよ
6:やきうのお姉さん@名無し
ホッシはほんと、顔とすらっとした体格に騙されたらアカンよな
やってることは野球ゴリラ
7:やきうのお姉さん@名無し
ガキンチョ相手に無双してて草
なるお系主人公やないか
8:やきうのお姉さん@名無し
お前ら無双するホッシ好きやな
9:やきうのお姉さん@名無し
女子リトル対男子高校生はたまに見るね
邦洲国でも練習試合組んだりするらしいよ
結構いい勝負みたい
10:やきうのお姉さん@名無し
リトルの子たちには、早い段階で普通のベースボールの感覚を養ってほしいという意味でやらせるみたい
要するにリトルの子たちの練習の一環
だけどまあ、最初からホッシ相手は可哀そう
11:やきうのお姉さん@名無し
容赦なく左右アンダースロー披露してて草
こんなんどこから球飛んでくるかわからんやんけ
12:やきうのお姉さん@名無し
アトカスのガキってこんなに身長大きいんか?
やっぱアトラスの食生活って身体を大きくする何かが入ってるんかね
13:やきうのお姉さん@名無し
ホッシは、邦洲国の高校野球で、女さんに混じってようやっとる方のピッチャーやからな
そらリトルの子たちには勝てんわ
14:やきうのお姉さん@名無し
お前らイキイキしてて笑うわ
こんなホッシ見たくなかった
自分が見たいホッシは、我が国の甲子園で、女ども相手に無双しまくる「王子様」ホッシなんや
15:やきうのお姉さん@名無し
ホッシの球速上がってない?
ストレートが127km/hってマジ? 男子世界最速が138km/hとかじゃなかった?
16:やきうのお姉さん@名無し
>>1
>mttps://www.videotube.com/watch?v=PIAOedhcUeFFwakS&list=PLW9Yr7DDpOwsDahGDKe6VquSftRXGKb&index=25
この動画の24:10あたりのとこ、ファウルカップがずれて直すホッシなんやけど
こんなの永久保存版でしょ
17:やきうのお姉さん@名無し
>>16
GJ
18:やきうのお姉さん@名無し
>>16
ありがとうございます
19:やきうのお姉さん@名無し
>>16
20:やきうのお姉さん@名無し
>>16
よくみたらアトガキどもガン見で草
21:やきうのお姉さん@名無し
>>16
こんなんされたらバッターの集中力乱れてまうわ
これは打撃妨害
22:やきうのお姉さん@名無し
>>16
デッッッッッ
23:やきうのお姉さん@名無し
>>16
ホッシはやっぱりスケベやねえ……
24:やきうのお姉さん@名無し
>>16
アトラス大陸のガキンチョたちが目覚めてしまう
25:やきうのお姉さん@名無し
>>16
動画撮影者めっちゃ動揺してて画像ブレブレやんけ
修正版はよ
――――――
※現実世界のアメリカ、ネブラスカ州オマハ市は、冬は氷点下4℃にもなる環境なので、冬にスポーツをするのは難しいです。
カリフォルニア州なんかは一年を通して温暖な気候なので、冬でも野球をやろうと思ったらできます。高野連のオフシーズンの規則みたいなものがあるのか不明でしたが、冬休み2週間だけ部活動できない、という文章を信じれば、日本よりは規制が緩いですね。[1]
引用[1]:https://sportie.com/2022/11/high-school-sports-20
■今後やりたいこと(再掲)
①ホッシとみんなの成長を描きたい
進捗:みんなの覚悟UP+みんなの技術UP
ホッシの大陸球の慣れUP
②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです
進捗:学長にスポンサーになる交渉中
③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです
進捗:リトルリーグの子たちと仲良くなる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます