第39話 ハイテンションで暴走する竜崎と、大陸の大学野球の聖地

「コンドーム買っていいデスか?」

「馬鹿」


 早速アクセル全開の竜崎を引っ張って、ホームステイ先に挨拶しに向かう。想像がついた人がいると思うが、ホームステイ先は竜崎と一緒、つまり彼女の祖父母の家なのだ。


(留学か、まさか俺が留学することになるとはね)


 冬~春にかけての留学。話を整える期間があまりなく、スポンサー企業と学園側のパイプを使って急ピッチで進んだ話だが、何とか無事に実現にこぎつけた。

 邦洲とは違い大陸側ではセメスター制と呼ばれる、半年で授業を完結させる制度が導入されている。そのため秋から留学するのは、そんなに難しい話ではなかった。

 加えて言うと俺がお世話になる高校は、さらに先鋭的で、クオーター制を導入しているため、単位履修が非常に速い。


 簡単に説明すると、日本でおなじみの1年で1学年分の単位を履修する教育はリニア制に近い。セメスター制では1年で2回履修のチャンスがある。クオーター制では4回だ。

 だからやろうとすれば、1年のうちにギチギチに時間割を詰めて2年分の学習もできる。飛び級の文化があるのは、大陸特有の実力主義の現れともいえる。


 しかも俺の住んでいた邦洲国は、これまた日本と一緒で、微積分の学習など数学分野で大陸教育よりも先進的である。国民全体の識字率も高い上、詰め込み式の塾教育が行き届いているおかげか教育水準も高い方である。

 俺自身の偏差値の高さも相まって、学業面の事前調査届は『Excellent』のお墨付きと相成った。これならクオーター制の学校カリキュラムでも、問題なく単位を履修できるだろうと。


 そんな学業優秀な俺のホームステイ受け入れ先は結構多かった。というか学業優秀でスポーツ実績ありの普人族のオスの受け入れなんて、ちょっとした小金持ちならどこでも受け入れたい――とばかりの食いつきだったという。

 どうも俺は海外で凄く有名らしい。筋トレ動画でセクシーサムライとか言われてる。何というか、反応に困る。


「I’m home! Anybody home?(ただいま!誰かいる?)」


 竜崎の流暢な大陸語に押されて、俺はちょっと面食らった。こんなアホがこんなに流暢にしゃべりだすとちょっとだけビビる。賢く見えてしまって困る。


「……誰もいないみたい、デスね」


 ちょっと頬を染めて竜崎が何かごにょごにょ言ってた。挨拶をしたかったのだが誰もいないなら仕方ない。

 とりあえず荷物だけ先に運ばせてもらおうか、と思った俺は、「そうか、それなら今のうちに」と竜崎に手を差し出した。彼女に持ってもらっている分の荷物を受け取ろうとしたのだ。


 だが、彼女は何かを勘違いしたのか「……ハイ、今のうち、デス」と個包装の何かを渡してきた。コンドームだった。

 俺は竜崎の頭をはたいた。






 ◇◇◇






「日本の夏は甲子園デスねー! でも大陸国は広すぎて、高校野球は難しいデス。高校生はステイツごとのリーグで優勝を目指しマス。州面積と州経済でも小国に近い規模デスからねー!」

「さすが大陸国だな、スケールが違いすぎる」

「いえーす、それが我が国家なのデス」


 竜崎の案内で、俺がお世話になる高校に挨拶に向かうことになった。

 道すがらのバスや地下鉄では、竜崎がそれとなく俺の壁になりながら先導してくれた。俺にもわかる。周囲を警戒しているのだ。

 人種のるつぼであるこの大陸は、人種差別の考えも根強い。肌の色とかそんなレベルではない。見た目が違うのだからもっと極端だ。だが、属するソサエティがより裕福になるにつれて、人種融和の高度な教育が浸透していく。

 要するに、己が身を守りたければリッチに成り上がれ、という流儀。弱肉強食的なたくましい考え方だ。


「で、ここが星上サンがお世話になるスクール、デスね!」

「デッッッ」


 高校に連れてこられた俺は、思わず声が出た。


 でかい。説明不要。

 国土の大きな国にしか許されないような敷地面積。名門大学・アオカケス大学と提携している、大陸国ブサスカ州マハ市でも屈指の名門高校。


 アオカケス大学付属高校。

 通称、青い鶏冠。


「驚いたでショ? 邦洲の狭い国土面積と違って、我が国だからこそできる、伸び伸びとした訓練がここではできるのデス!」


 えへんと威張る竜崎をよそに、俺はまじまじと高校に魅入っていた。

 このマハ市は、大陸の大学野球の聖地だと聞いている。だからこそこの地で、一度野球に触れてみたかった。そして眼前に現れたるはクソでかい高校。そりゃテンションも上がるというものだ。


「このマハ市の名前の由来は、知ってマスか?」


 聞いたことがある。この地に住んでいた部族たちの名前にちなんでいると。

 誇り高きマハ族。

 風、または流れに立ち向かう者たち。


「大陸野球リーグでも屈指の強豪球団、歴史に名を残す大投手にちなんだ名を持つ、常勝集団シルフェンズ。彼らはこのマハの地の風を受け継いでいるのデス」


 竜崎は熱く語った。

 だからこそこの地で野球をしてみたいのだと。ベースボールの歴史と伝統を一心に集め、そして今もなお伝説を作り続けているこの地でこそ、学べる野球があると――。


「星上サン、ワタシたちで、ベースボールの歴史を作りましょう! この地は大陸野球の聖地! ワタシはいま、ワクワクしているんデス!」


 強い風が吹いた。服が強くたなびいた。

 確かにこれは、立ち向かわないと・・・・・・・・やっていけない。世界に対する挑戦。あるいは歴史に対する挑戦。どちらも少々大げさかもしれないが、そんな予感めいたものを感じるような一幕だった。

 祝福の風なのか、強烈な風当たりなのか、あるいはそれらの両方か。マハの地に吹きすさぶ息吹に答えはない。


 だが、いずれにしても、俺も同じ心境であった。


「さてさて、将来のビッグビジネスのためのスポンサー・・・・・を説得するには、結果を出さなきゃ、デース!」

「そうだな、竜崎。俺が留学しにきたのは――スポンサー探しが目的だからな」






 ◇◇◇






【速報】ホッシ、海外に留学する模様


 1:やきうのお姉さん@名無し

 mttps://www.videotube.com/watch?v=PIAOedhcnr7akS&list=PLW9Yr7DDpOwsDahGDKe6VquSftRXGKb&index=25

 ホッシ、まさかの海外留学

 野球はあきらめたわけじゃなくて、きちんとバットもボールも動画に映っている

 どういうことだってばよ……?

 まさかのメジャー挑戦ってこと……?


 2:やきうのお姉さん@名無し

 ホッシの留学動画見てきたで

 なんか、高校生がスポーツ留学に挑むならこうすると良いよ的なHOW TO動画やった

 こういう情報、全然世間に出回ってないから助かる






――――――

 ■今後やりたいこと(再掲)

 ①ホッシとみんなの成長を描きたい

  進捗:みんなの覚悟UP

 ②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです

  進捗:

 ③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです

  進捗:

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