第36話 序破急で言ったらいきなり序盤から常識を破壊して急展開にするやつ、それがホッシ
第23条(野球以外の活動に関与する基本原則)
(1)学生野球団体、加盟校、野球部、部員、指導者、審判員または学生野球団体の役員は、学生野球に関与している事実を示して、公益的活動に協力をすることができる。ただし、営利団体が主催するものについては全日本大学野球連盟または日本高等学校野球連盟の承認を得なければならない。
(2)加盟校、野球部、部員、指導者、審判員または学生野球団体の役員は、前項の活動に対して、報酬を得てはならない。
第24条(新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版などに関与する基本原則)
(1)加盟校、野球部、部員、指導者、審判員および学生野球団体の役員は、新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版などの野球に関する報道に協力することができる。
(2)加盟校、野球部、部員、指導者、審判員および学生野球団体の役員は、学生野球に関与している事実を示して、新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版などに関与する場合には、報酬を得てはならない。
(3)加盟校、野球部、部員、指導者、審判員および学生野球団体の役員は、報道目的以外の取材に対し、学生野球に関与している事実を示して、新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版などに関与する場合には、全日本大学野球連盟または日本高等学校野球連盟の承認を得なければならない。
上記は、日本学生野球憲章と呼ばれる規則にある条項である[1]。
引用[1]:https://www.jhbf.or.jp/rule/charter/index.html
現在の日本において、高校球児の野球系Youtuberが誕生しない理由は、上記の項目に引っかかることが原因である。
金銭トラブルを回避するため、ひいては将来ある学生たちを守るために定められた規則。この条項の持つ意味は重い。
翻ってこの世界ではどうなのかというと――。
これまた似たような憲章があり、似たような規則が存在している。
例えば、学生が営利目的で動画配信などを始めて、それにより報酬を受け取るのはNGとなっている。
だが、無報酬であるならばどうか。
故に俺は、中学校の頃から高野連とメールで丁寧にやり取りと続けてきた。
Q:「趣味で動画配信をしており、技術論や正しい筋力トレーニングの解説を行うのはよいか」
↓
A:「問題ないとされる。ただし高野連の定める規定条項に引っかかる場合はその限りではなく、後から規定に抵触する疑いのある動画が見つかった場合は、対処要請を勧告する。従わない場合は処分を検討する」
Q:「中学校のうちから、趣味でビジネスコンテストに応募していた企画が実現しそうである。栄養満点食堂という名前で食品企業とビジネストライアルを学校で行い、スポーツに打ち込む学生の活動を支援するものとなる。これは問題ないか」
↓
A:「学校構内で栄養満点食堂を運営する場合、その認可は学校法人の経営者の判断にゆだねられる。高野連として一般的な回答をすると、邦洲国学生野球憲章により言及している『第21条(部員が野球に関して援助を受けることに関する基本原則)』に引っかかる恐れがある。野球部に限り無料で提供する、などの形は野球部員への便益供与とみなされるため、提供形態などは慎重な協議が求められる」
Q:「社会人野球球団や独立リーグ球団との合同練習を行うことは可能か」
↓
A:「プロアマ協定に基づき、独立リーグ球団との合同練習は禁止事項に抵触する。対外試合規定によると、高校が学校責任の下に行ってよいのは同一の律令県内の練習試合のみであり、①別県域同士の練習試合 ②高校野球部と大学野球部の練習試合 ③高校野球部と社会人野球の練習試合 の場合はそれぞれの野球連盟より承認をもらう必要がある」
Q:「趣味で動画配信をしており、スポンサー契約を結びたいと考えている企業がいる。大会出場時に、特定の運動具店から企業名入りの用具の寄贈を受けたり、借用してもよいか」
↓
A:「スポンサー契約、サプライヤー契約、いずれも規定違反となる。用具に限らず企業から金品の無償提供を受けることは規則に抵触する ※『第21条(部員が野球に関して援助を受けることに関する基本原則)』を参照」
Q:「高校の部活動と、スポンサー契約を結びたいと考えている企業がいる。こちらについて規則違反にならないよう、近江県高野連の皆さまと打ち合わせを行いたい」
↓
A:「スポンサー契約の認可は学校法人の経営者の判断にゆだねられる。高野連として一般的な回答をすると、邦洲国学生野球憲章により言及している『第21条(部員が野球に関して援助を受けることに関する基本原則)』に引っかかる恐れがある。企業から受け取る支援の内容については慎重な協議が求められる」
……などなど。
ちなみに補足すると、野球部員個人がどこかの企業のスポンサー契約を結ぶことは不可能だが、学校の野球部がスポンサー契約を結ぶことは不可能ではない。[1]
参考例[1]:https://full-count.jp/2022/05/19/post1223693/
具体的な支援内容は、遠征費や備品購入などの補助。どちらもありがたい話である。
俺が「私立高校に入学したい、それもなるべく偏差値の高い高校がいい」と言っていたからくりは、上記のスポンサー契約の結びやすさが理由であった。
国公立高校よりも、私立高校のほうが、こういったスポンサー契約周りに柔軟な対応を取ることができて、かつ偏差値が高い高校であるおかげで不祥事が少ない(いじめ、万引き、飲酒、暴力トラブルなど)――という訳だ。
結果、今に至る。
食品企業、スポーツ用品メーカー、医療機器メーカー、その他複数のスポンサーがときめき学園と契約を締結してくれた。
夜も自由に練習できる寮生活で、筋トレ器具を使うことができて、安価な料金で栄養満点な食事をとることができる毎日。
控えめに言っても、最高の野球生活を送ることができている。
ただし、ここで問題になってくるのは、俺の動画の内容である。
今回俺が高野連の登録を一時的に抹消される理由は、この"動画"にある。
・過度な性的表現(そんなつもりは毛頭なかったが)。
・根性論や精神論の否定(こちらもそんなつもりはなかったが)。
それがとうとう、高野連へ直接抗議という形で舞い込むようになってきたのだ。
要するに「星上は、ドスケベな自撮り動画を上げて、高野連などを批判するけしからん奴だ! こんなやつに処分を与えないなんて高野連はおかしい!」という感じで世間が取り上げてしまっているのだ。
若造のくせに、根性論や精神論を間違っているだなどと偉大な先人を批判するなんて調子にのっている、こんな少年に野球をやらせてもいいのか!――と。
やはり男に野球をやらせるのは早計だった!――と。
どうも世間は、俺のことを一種のお騒がせアイドルみたいな感じに見ているようだった。
メディアの偏向報道も悪い方向に働いた。実際の発言とずれた論調で、部外者は断言してかかってくる。
事実の一部を切り抜いて誇張して、面白おかしく報道したいという手合いはどこにでもいる。
「見た目が可愛いからねー、この子、ちょっと調子に乗っちゃってるよね」
「ちょっと彼はちやほやされすぎたかもしれませんね」
そんな形でメディアが取り扱うことも度々ある。
確かに俺は、精神論や根性論に批判的な立場を取っている。しかしそれはあながち、先人たちを否定しているわけでもない。
先人たちの中にも開明的な考え方を持っている人は多くいたわけで、少なくとも「気合と根性で無茶な訓練を乗り越えろ!」みたいなことを言っていたわけではない。
人間誰しも追い詰められる瞬間はある、その時に強い心が支えとなる――という意味で、精神論や根性論が使われる。
それを曲解して、『追い詰めないと精神の鍛錬にならない』みたいに捉えるやつが出てくるから、話がややこしくなるのだ。
まだまだ、世間の風潮として『根性論』『精神論』は根強い。
俺の動画配信は、そういった意味では非常に波紋を呼ぶものだった。
一方で、近江県高野連の理事たちは、俺に対して好意的であった。
「世間は星上君のことを悪くいうけどねえ……でも、本当は我々に筋を通してくれる、しっかりした子なのにねえ……」
「普通に高校野球を続けてくれてもいいんだよ? 私たち高野連はね、高校生の野球の可能性を守るための団体なんだよ」
「君のことはよく知っておる。色々と君は手間がかかったがな……全部ワシたちに相談してくれてな、きちんと関係者に仁義を通してくれた君はな、何にも悪くないのよな」
何かあればすぐに邦洲国学生野球協会(※高野連など含む)に相談を持ち掛けている俺は、ずいぶんと可愛がられている。
ちょっとした孫とお婆ちゃんみたいな関係だ。
それこそ俺が小学生のころからの付き合いだ。(※その頃は近江県に住んでいなかったし、別の県域の組織であったが、まあ同じようなものだ)
男が高校野球をするにはどうすればいいかの相談をしたり。
動画配信による情報発信が規則に抵触しないように慎重に相談を続けたり。
強豪シニアリトルから無名高校に選手を引っ張る行為が後々トラブルにならないよう、事前に申し入れをしたり。
野球の実績のない私立学校において、過剰すぎる特待制度にならないようにどう配慮すればいいか、学校含め三者で事前に調整したり。
だから今回の騒動も、「星上くんの根性論への批判動画を見たけど、そんなに度が過ぎた内容じゃなかったよ」とかなり寛容な判断になっている。
動画配信が問題?
根性論と精神論の批判が問題?
男が女と一緒にスポーツをするのが問題?
法律違反を犯したわけでもないのに、いきなり処分を与えるのは根拠に乏しいのだ。
飲酒運転も暴力事件も起こしていない模範的な生徒なのに、何らかの処分を与えるのは早計すぎるのではないか、せめて改善勧告と反省文の提出でいいのではなかろうか……というわけだ。
(というより、俺のバックについている大企業に忖度したというのもあるかもしれない。真相は定かではない)
野球を行う学生たちの未来を守るのが使命である高野連。
特に、過去からさまざまな相談事をきっちり協議してきた間柄であり、普段の生活態度も模範的優等生として生活している俺にとっては、心強い味方でもある。
それでも俺は――処分を選んだ。
実は、犯行声明文が届いたからだ。
『星上がもしこのまま春のセンバツの21世紀枠なんかに選ばれでもしたら、野球の在り方を否定するときめき学園に鉄槌を下す』
『高野連は、野球の精神を愚弄する星上に処罰を与えよ』
「ときめき学園のスポンサー契約を結んでいる企業から、こんな声明文を共有いただきました。どうやら『スポンサー契約を解除しないとお前の企業も共犯で訴えるぞ』、みたいな苦情が続いているみたいなんです」
めちゃくちゃだ、と俺は思う。
主張に根拠がなく、言いがかりの域を出ない。
「それは……星上くん、警察に相談なさい」
「はい、すでに相談しておりますが……」
近江県の高野連の理事たちは、俺の身を案じるようなそぶりを見せてくれた。
犯行声明は流石に度が過ぎる。実害が出ていないとはいえ、これは一線を越えている。
世間の風当たりがそんなにひどいというわけではないのだが――こういう過激な連中はすぐに出てくる。特に何かしらのメディアに批判的に取り上げられると、新しいおもちゃを見つけたぞとばかりに群がってくる。
本当に迷惑な話である。
世間の俺への評価は、「頑張ってるんだろうけど調子に乗っているね」が5割、「発言自体はそんなに間違ってないと思う」が2割、「あーはいはいこういう系のアイドルいるよね」が3割弱、といった感触である。世間全体が「星上をつぶせ!」みたいになっているわけではない。せいぜい"調子に乗ってる"ぐらいの反応だ。
だがそれでも、一度でも"叩いていい奴"みたいに扱われると、イメージの払拭は難しくなる。
結果、こういう過激な犯行声明を送ってくる手合いが出てくるわけで。
頭の痛い話だった。
こんな状況では「ときめき学園の春の選抜出場」なんて、到底怪しいものである。
というより、俺が近江県高野連のメンバーならば、世間からの非難を恐れてときめき学園を推薦できない。
いろんな問題が山積みとなった。
だが、解決策がないわけではない。
「……。念には念をということで、スポンサー側が私を保護するため、とある話を持ってきてくれたんです」
「? それは……」
そう。
それこそが、高野連から処分をもらう
理解のあるスポンサーと学園側、そして今後の復帰プランまで含めた高野連との綿密な事前調整。
その名も――。
◇◇◇
「だ、
「正確にはショーケースっていうんだけど……そうなるな」
大事な話がある――。
そう連絡すると、俺のことを心配してくれたみんなが、寮に集まってくれた。
羽谷姉も、豹堂も、
羽谷姉も豹堂も3年生。
ドラフト会議前でそわそわしている大事な時期だというのに、それでも二人がきてくれるなんてちょっとした感動であった。
「いや私たちのことはどうでもいいからね!?」
「そうだぞ星上きゅん!?
どうでもよくない。
ドラ1有力候補の癖に、二人とも滅茶苦茶なことを言ってる。
だがまあ、俺もたいがい無茶苦茶なことを言ってるので、あまり人のことは言えない。
「プロ志望届を出すってこと!?」
「いや……ちょっと違うんだ。野球短期留学中に、ショーケースで奨学金をもぎ取ってきてほしい、だってさ」
混乱するみんなから質問が相次ぐが、俺はのらりくらりと答えた。
この辺はニュアンスが難しいのでまた説明するが――要するに俺は、飛び級で大学に入れるかもしれないのだ。
この世界では、
NPB→邦州野球リーグ
MLB→
といった、NPBとMLBに非常に概念の似た野球リーグが存在する。
――過激なバッシングや謂れのない批判から、有望な生徒を保護しないといけない。
そんな大義名分があって。
――邦洲生まれの子供でも、大陸に負けないぐらいの才能があると全世界にアピールしたい。あわよくば「星上選手を応援しています!」とPR活動に有効活用したい。
――世界においてまだまだ競技人数不足である男子野球・男子ソフトボールの普及活動をもっと行いたい。センセーショナルな動画で世界的注目の高いスター選手であればなおのこと理想的。
スポンサー企業のCSR活動、ひいては広報戦略部の方針と。
スター選手不足に苦しむ大陸男子野球協会の思い描く展望と。
ものの見事に方向性が合致して。
「甲子園には必ず行くから――ちょっとだけ寄り道してくるよ」
――驚きすぎて涙も吹き飛んだ。
チームメイトたちはそんな顔をしていた。
――――――――――
ごめんなさい、今までとちょっと言葉の設定変えます。
■今まで:
NPB=大陸野球リーグ
日本高野連=大陸高野連
■これから:
NPB=邦州野球リーグ
日本高野連=邦州高野連
MLB=大陸野球リーグ
それと一部補足します。
■ここからの展望について:
普通に高校編、ひいては普通の熱闘・甲子園編に戻るんですけど、1年秋冬~2年生春のタイミングまで在籍留学[2]を行います。
引用[2]:https://www.jaac.co.jp/purpose/hs-single/way
在籍留学は高野連の転校の規定に引っかからない(本当か???)という解釈で押し切ります。
■なんで素直に高校野球編を書き続けないのか?
書きたいことがいっぱいあって、高校野球だけで3年間を使うのが勿体ないからです!
あと、私の他の作品とかも、
例:クソバカ内政知識モリモリ領地開発
https://kakuyomu.jp/works/16816927862375873387
ジェットコースターみたいな展開でぶっ飛ばします。おなじみです。
だらだら間延びするより、おもしれー展開ガンガン詰め込んじゃえーって人間です。
俺はこういう馬鹿なんだ、すまねェ……!
■高野連ってこんなに柔軟なの!?
いやあ……どうでしょう?
高野連をクソ悪役にして対立ルートにしても良かったのですが、そんなドロドロした対立で文章量割くより主人公にはサクサク進んで欲しいのでこういう味付けになってます。
後で手のひらを返す展開にするかも知れませんが……。
Q&Aが長くなりそうなので、下記にいったん避難します。
https://kakuyomu.jp/users/Richard_Roe/news/16817330660340213963
引き続きどうぞ、本作品をよろしくお願いいたします。
※2023/07/17:URLの誤りを修正しました! ご指摘ありがとうございます!
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