貞操逆転異世界に転生した俺、今度こそ野球を真剣にやる: 〜俺だけわかるセイバーメトリクスと現代野球〜
第20話 春季都道府県大会が終わって、いきなりベスト3に登り詰める / キャッチボール練習の効率化
第20話 春季都道府県大会が終わって、いきなりベスト3に登り詰める / キャッチボール練習の効率化
阿武箕槻高校 対 ときめき学園。
5対16。(5回コールド)
ときめき学園 対 晋禅師高校。
12対1。(5回コールド)
開府徳命高校 対 ときめき学園。
5対9。
主セント=フンダクル教会高校 対 ときめき学園。
8対7。
(三位決定戦)
翠清学院高校 対 ときめき学園。
5対8。
――結論から言うと、春の県大会の結果は、いきなりベスト4に進出し、三位決定戦も無事勝利することになった。
新メンバーが入って早々、県下の強豪校の仲間入りである。
小地区大会で文翅山高校を撃破したときは全然注目されなかったが、ここまでくれば地方メディアも大騒ぎであった。
『密着取材:弱小高校の野球部が県下有数にまで強くなった秘訣――科学的かつ合理的なトレーニングを』
そんなお題でニュース記事を書いてもらったこともある。これもときめき学園の知名度向上のための一手である。
……まあ、率先して記者クラブへ直接プレスリリースを持ち込んだわけだが。
タネを明かすと、各都道府県庁には記者クラブが存在する。『県政記者室』みたいな堅苦しい名前の部屋がそれだ。
大体は、県政記者クラブ、民放記者クラブを筆頭に、教育を所管する教育記者室、市政記者クラブなどが入っている。今回は教育記者室が該当する。
県政記者室に資料提供する場合、あらかじめ秘書課広報戦略担当に連絡を入れて、内容を確認してもらった上で、発表資料を県庁広報戦略担当に持ち込めばよい。
そうして提供されたニュースが、
『弱小高校でも、科学的トレーニングで強くなった!』
という明るいニュースだ。
新しい地元の星の誕生に、地方メディアは活気に湧いた。
※もちろん選手のために『栄養満点食堂』をトライアル提供いただいている食品会社の名前もPRしている。
※もちろん選手の運動パフォーマンスについて、スポーツ科学の検証実験に協力いただいている研究室の名前もPRしている。
どうせいつかは、マスコミに目をつけられると思っていたところだ。
それなら先手を取ってプレスリリースを入れておき、関連の協賛企業を褒めそやす形でメディア露出すればいい。
いきなり全国報道のワイドショーとかに取り上げられるのはハードルが高いので、まずはWEB媒体、紙媒体など最終成果物を校閲できるところでメディア進出するのが望ましい。
幸いなことにここは私立学校、つまり学校法人。
教育機関としての強制力を使って、地上波系列の外部マスメディアの取材申し入れをお断りすることができる。
――ということを説明したところ、部員のみんなはドン引きしていた。
「お前さあ……目を離したら、すーぐ金儲けやるよな……」
緒方がやたらと渋い顔をしている。詐欺師を見るような目付きだった。
そんなに大したことはしていないのだが。人生2回目の転生者なので、こういうことに多少慣れているだけだ。
(いやー、俺はただ優雅で裕福な暮らしをしたいだけだからなあ。こういうビジネスっぽいことを学生の内にやってみるのも、将来金持ちになりたいからだし。別に方針はブレてないはず)
高校生でここまでやった実績を自己PRすれば、大手ホワイト企業の内定ぐらいなら余裕だろう。プロ野球選手の専業主夫になれずとも、これで最低限のセーフティネットは保証されたに等しい。
とにかく俺は、優雅で裕福な暮らしがしたいのだ。切実に。
そんな俗っぽいことを考えている俺だったが、こう見えてもチーム全体の強化メニューは念を欠かさず練り上げている。
今もまさにそうである。
俺は、チームがこんなに得点をたたき出せるようになったからといって、次の一手を打つ手を休めるつもりはなかった。
(今のチームは、上位打線がバカスカ出塁して、それを点につなげようと小技で稼ぐようなやり方で点をもぎ取っている。バントとバスター以外は穴だらけだ。
とはいえ、下位打線のみんなもどんどん野球が上手になってきてて、凄くいい状態を迎えているのは間違いない――)
◇◇◇
以前よりも大きく成長したのは、選手個々の身体能力であろう。
これは、理不尽な体罰や、意味の薄いロードワーク、これまた意味の薄い過酷なトレーニングなどを徹底して排除して、効率的なトレーニングのみを追い求めてきたからである。
雨天時でも関係なく、コンスタントに生徒の能力を伸ばせるトレーニング、それが筋トレ。ここを一番科学的、効率的にするのは至極当然のことだ。
そのうえで、技術の練習がある。
『技術』の練習と恰好をつけた言い方をしたが、要するに正しいフォームの確認と、効率的なトレーニングの追求、の繰り返しである。
キャッチボール練習一つを取ってもそうだ。
試合中はキャッチボールとは違って、立ったまま動かない相手めがけて綺麗にボールを投げられるような状況なんてそうそう来ない。
だから例えば、
①下から投げるスナップスロー(近い距離で投げられるようにする)
②右足を前に出したスナップスロー(近い距離なら右足が前でも投げられるようにする)
③捕球するときに右足を前に出すキャッチボール(投球時に左足が自然と前に出るよう、右→左のリズムを身体に覚えさせる目的で練習)
……など、条件を付けて練習を行う。
特に、キャッチボールのときは捕球した瞬間が大事である。
左手のグラブで捕球して――否、捕球というよりも
守備は、キャッチしたら投げるまでが一連の動作である。キャッチして終わりではない。必ずスローイングの動作に移行する。
走塁している相手を刺すためには、速やかにスローイングに入る必要がある。
だからこそ下投げのスナップスローも行うし、右足が前でもスナップスローで投球できるようにするし、捕球の瞬間から投げるまでの時間を短くするよう練習を行うのだ。
ノーバウンド返球なんかしなくていい。
ワンバウンドでOK。そんなことよりも、捕球したら一瞬で投球動作に入ってほしいのだ。
無理に高い軌道を投げようとすると、山なりの投球を身体が覚えてしまう。極論、プロの試合で山なりに投球するのが歓迎される場面なんて殆どない。
よって、常に低い球を投げることを意識する。
低い軌道を維持して、投げる距離を伸ばすような意識で取り組むのだ。
当然ワンバン連発だがそれでOKなのだ。
(うちは名門高校と違って、そんなに守備練習に時間をかけているわけじゃないし、守備力だってそんなに高くはない。だが、とにかくキャッチボールの速度を高めることで、走者を刺す確率を高める。技術でアウトを取るんじゃなくて、速度で走者を刺すんだ)
守備練習というのは、もうとにかく時間がかかる。
ほとんどの場合、グラウンドを利用しないとできない練習だし、しかも成長を実感しにくい。グラウンドを借りれない日は、せいぜいキャッチボール練習程度しかできない。
そんなことよりもむしろ、『苦しい姿勢でも投球できるようにする』『捕球→投球の速度を素早くする』、みたいな基礎中の基礎の練習のほうが、案外即効性があるトレーニングだったりするのだ。
効率的なトレーニングの追求。
ウォームアップ程度でなあなあで済まされがちなキャッチボール練習一つをとっても、効率は追い求めたい、と俺は考えている。
(……打撃はまだまだ。バントとバスターの技術はついたものの、普通のスイングはフォーム矯正がまだ終わっていない。
走力はまあまあ。走りのフォームの改善や筋トレで、足の速いチームに少しずつ近づいているものの、理想まではまだ遠い。
守備もまずまず。捕球は下手だが、そこからスローイング動作への移行はもたもたしないぐらいになってきたかな……?)
超高校級のスーパースター上位打線が出塁しないと始まらない、そんな上位打線頼みの穴だらけのチーム。
それでも、みんな少しずつ成長しているのは間違いないのだ。
身体は少しずつ鍛えられて、フォームは徐々に矯正されている。
それに、強い高校との数々の公式試合を重ねることで、真剣勝負の空気にも慣れつつある。
この春季大会の結果は、ただのフロックなんかではない。
――そう胸を張って誇れるよう、皆には強くなってほしい。
(それにしても、めちゃくちゃご飯がおいしいな……。これで栄養満点、しかも値段も格安とか、これ、反則じゃないか……?)
チームの成長に一番貢献しているのは『栄養満点食堂』――そんな言葉が頭に思い浮かんだが、あながち間違いでもないかもしれない。
外部の食品企業を説得して、我がときめき学園高校とトライアル提携まで話を持ち込んだのは、大正解かもしれない。
このまま結果を出し続けたら、もっと食材にお金をかけてくれるようになって、毎日の食事のクオリティが上がるかも。そんなどうでもいい打算を胸に、俺はますますやる気を高めるのだった。
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