第200話 『 あまがみさんと超可愛いおねだり 』
目的のイルミネーションを観るまでは、ぶらぶらとショッピングモール店内を散策する。
「あ、モン狩りのメルル・ゼナ」
とアマガミさんが足を止めた場所は、玩具売り場のぬいぐるみコーナーだった。
「新商品かな。結構ラインナップ充実してるね」
「だな。でもボッチが好きなモンスターは置いてないみたいだぞ」
「ゴア人気なのにな~」
並んでいるぬいぐるみのラインナップは主に新作で初登場したモンスターたちだった。
「買うの?」
「いやこの歳でぬいぐるみなんて買わねぇよ」
「オタクに年齢なんて関係ないよ。欲しいものは買えばいいじゃん」
そもそもこの場所に思わず足を止めて、物欲しそうにそわそわしてる時点で買いたいという欲求はあるのだろう。
アマガミさんは僕と違って滅多に衝動買いしない。買うと決まっているもので買い悩む癖がある。無意識にお金を浪費することに抵抗があるのだ。
「メルル・ゼナってアマガミさんが一番好きなモンスターでしょ?」
「好き=買うにはならねぇんだよ」
「それ今まさに衝動買いしようとしてる僕の前で言うんだ」
「お前は後先考えず買いすぎだ」
ちなみに、僕の両手にはそのモリ狩りのコレクションフィギュアがランダムで一種入っている箱がある。しかしただの箱ではなく、コンプリートセットだ。
「多買わなければ生き残れないんだよ」
「何わけの分かんねぇこと言ってんだ。はぁ、バイトしてるやつは金あっていいな」
「こういうの大人買いする為に働いてるからね」
と例のものを掲げながら自慢げに言えば、アマガミさんは心底ムカついたように舌打ちした。
「それで、買うの? 買わないの?」
アマガミさんは暫く黙考して、
「買わない」
「お金に余裕はあるでしょ?」
「あるはあるけど、だからって無暗に使えるほど余裕はねぇよ。他に買わなきゃいけないものもあるしな」
「……はぁ」
思いっ切りため息を吐く僕に、アマガミさんは不服そうに眉根を寄せた。
「なんだよ。なんか文句あるのか?」
「大ありだよ」
睨むアマガミさん。僕もカノジョを睨み返す。
「目の前にカレシがいるんだから、おねだりしなよ」
「あたしはボッチと対等でありたいんだ。そんな女々しい真似誰がするか」
「いやしなよ。アマガミさんは女の子で、そして僕の愛しのカノジョなんだから」
愛し、とわずかに照れるアマガミさんはしかしすぐに頬を膨らませて、
「だからこそ、だろ。欲しいものは自分の手で手に入れてこそ価値があるんだ」
「カレシから貰うのも十分価値があると思わない?」
「うぐぐ」
僕のキレッキレのカウンターにアマガミさんがたまらず呻く。
「で、でももうお前にたくさん貰ってるのに、これ以上は……」
「これ以上も以下もないよ。アマガミさんが甘えられるのは誰だけ?」
「……ボッチだけだ」
「ならもう、僕が言いたいこと分かるよね?」
僕は愛しのカノジョのお願いを無下にするカレシじゃない。
甘い蜜を垂らすようにその先を促せば、顔を赤くして口を震わせるアマガミさんが僕のことをチラチラと見てきて。
「ぼ、ボッチ」
「うん。なに?」
「こ、これが欲しい。か、買ってくれ」
ようやく素直に、めちゃくちゃ照れながら本音を吐露したアマガミさんに、僕は満面の笑みを浮かべて頷く。
「うん。買ってあげる」
可愛いカノジョのおねだりとあれば、僕の財布もゆるゆるになってしまうわけで。
「じゃあこれは
「はぁ。お願いする方が疲れるってなんだこれ」
「ふふ。少しずつおねだり上手になっていかないとね」
「今回だけだっ。今回だけ」
「そんな寂しいこと言わないでよ。僕はもっとアマガミさんに貢ぎたいんだから」
「パパ活かっ! はぁ、お前があたしのこと好きなのは分かったから、早くレジ行ってこい」
「好きじゃなくて超好きだよ」
「分かったよ! 愛されて満足だよ! これでいいか!」
「もっと愛してあげる」
「これ以上は心臓が持たねぇ!」
にしし、と悪戯小僧のように笑う僕と、羞恥心が爆発して真っ赤にした顔を隠すアマガミさん。
それから顔を赤くするアマガミさんに「はよ買ってこい」と促されてレジに向かった。
会計を終えて再び彼女の下に戻ってぬいぐるみを渡せば、
「へへ。ありがとな。ボッチ」
「うん。やっぱりアマガミさんは笑顔が似合ってるね」
「……うっせ」
嬉しそうに口許を綻ばせた愛しのカノジョは、僕の言葉に恥ずかしそうに口を尖らせたのだった。
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