第199話  『 アマガミさんとクリスマスデート 』

 本日は12月の24日。つまりはクリスマスイヴだ。

 高校も二学期を終えて今日から冬休みに入った。

 そんな冬休み初日とクリスマスイヴ当日は、僕らの――いや、今現在は僕だけの気分を最高潮にさせるのに十分で、


「アマガミさん、アマガミさん! 見て見てパンダがいるよ!」

「パンダの着ぐるみ如きではしゃぐなよ。本物じゃあるまいし」


 はしゃぐ僕の少し後ろをついてくるアマガミさんは外出早々に疲れた風に肩を落とした。


 本日、クリスマスイヴは予定通りデートが行われていた。


 場所は都心にある複合型ショッピングモールだ。遊園地か動物園はどうかと提案してみたんだけど、そちらは「外は寒いからあまり出たくねぇ」とアマガミさんに却下されてしまった。なので、室内ならば暖房も効いてるし風も防げる此処を挙げれば、アマガミさんは「ならいい」と満足げに了承してくれた。


「17時にはこの広場でイルミネーションショーやるらしいよ」

「じゃそれまで適当にブラブラしてりゃいいんだな」

「うん」


 せっかくのデートなのに、日常の延長線上のような過ごし方。お互いに服装だって特別感がない。


 アマガミさんは黒ニットに厚手のジャケット。デニムパンツにスニーカー。


 僕はパーカーにジーンズ。それとまだ比較的新しいシューズ。


 お互い、休日に買い出しに来ているかのような格好だ。けれど、その着飾らなさが僕には丁度よかった。


 僕とアマガミさんは恋人。でも、同時に大切な親友でもある。変に飾らずありのままの自分たちでいることの方が、僕らにはとっては大事なことだ。


「でも、せっかくだからアマガミさんのスカート着てるところみたかったな」


 ぽろりと本音をこぼせば、アマガミさんは「あぁ」と顔をしかめて、


「んなの、いつも学校で見てんだろうが」

「もぉ。制服じゃなくて私服姿が見たいの!」

「ハッ! あたしにスカートなんて似合う訳ないだろ」

「いや絶対似合うよ。アマガミさん可愛いんだから」

「可愛いからってスカートが似合うとは限らねぇだろ」

「たしかに一理あるけど。でも僕はアマガミさんがスカート着た所を見たい!」


 普段のパンツスタイルもカッコいいけど、カレシとしてはやっぱりカノジョの可愛い服装も拝みたいわけで。


「何度お願いされてもスカートだけは絶対着ねぇからな」

「カレシのお願いでも?」

「ぐっ。その雨に濡れた子犬みたいな目で訴えかけてくるなっ。ボッチのお願いでもダメだ!」

「じゃあ買ってあげるから」

「パパ活か!」


 着ねぇ! としびれを切らしたアマガミさんに頬を抓られる。


「むぅぅ。絶対可愛いのに」

「あたしは可愛いじゃなくてカッコよく見られてぇんだよ」

「普段は僕に超デレデレしてくるくせに」

「それは家の中だけだろうがッ!」


 ハグをおねだりしてきたり手を繋ごうとしてきたり、アマガミさんのそういう甘える仕草は我が家でのみ発動される。外では全く逆で、手なんか僕の方から繋がなければ一向に求めてこない。反抗期の娘か。


「べつに外か内かで変える必要ないと思うけどなぁ」

「――っ」


 嘆息をこぼしながら、僕は未だ頬を抓ってくる手に両手を伸ばして、そして触れた。

 目を見開くアマガミさんに僕は微笑みを浮かべながら、愛しい彼女の手を握った。


「さっきまで外にいたから、アマガミさんの手、まだ冷たいね」

「……お前のほうこそ、冷たいぞ」

「なら手を繋いで温めないと」

「…………」


 暖房が効きすぎたのか、或いは別の何かか。顔を朱に染めたアマガミさんが口を尖らせて俯く。その理由がどちらかであるかは、言わずとも分かることで。


「今日はデート、なんだよ」

「だ、だからなんだよ」

「だから今日は手、離さないからね」

「~~~~っ⁉」


 朱に染まる頬が、みるみるうちに顔全体に赤みが広がっていく。やがて耳まで真っ赤に染まると、可愛いカノジョはその場で悶絶してしまった。


「くっそ。これじゃあ家の中と何も変わんねぇじゃん」

「言ったでしょ。変に変える必要ないって」

「……でもよぉ」

「僕はアマガミさんに甘えるし、アマガミさんだって僕に甘えていいんだよ」


 手を繋ぐことなんて、これから起こる事の始まりに過ぎない。

 キミを好きって気持ちも、愛してるって想いも、今日、僕は全部キミに伝える。


「さ、行こう! アマガミさん!」

「まっ――」

「待たない!」


 驚くキミの手を引いて、僕は歩き出す。互いの手の冷たさが、温もりで上書きされていく。

 冬の寒さなんか忘れてしまうクリスマスデートが、今幕を開ける。




【あとがき】

マジで自分の作品全部読んでくれてる人ありがとぉ~(泣)

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